『金操』の練習を小石から地道に始めようと思ったら、石だとさらに効率が悪い。これはだめだ。
鉄塊で作った純度高めの鉄でやってみる。うん、まあまあスムーズだ。一キロム程度の鉄なら楽勝で動かせる。
この分だと制御に問題はなさそうだが、有り余ると思っていた魔力量に問題が出そうな気がする。何せかなりの無駄使いをするようなものだ。
空を飛んでいて魔力が切れたら死んでしまう。
はっ! だからみんな空を飛ばないのか!
歩けばいいものをわざわざ飛ぶ必要などないってことだな。そりゃそうだ。てことは幼き頃、空を飛びたいなんて言った私はやはり変だったのか。
まあいい、頑張ろう。
学校から帰っては庭で鉄を浮かせる日々。
段々に重さと速度は増し、エレベーターのように上に行ったり下に行ったりを繰り返す。勢い余って何かに当たったら大変なので、上下にしか動かしてないのだ。
ちなみに今でも魔力放出はきちんと行っている、毎日休まずではないが。
庭の木に魔力を流しているのだ。でもやはり木に変化はない。捨てるよりマシだからいいけどね。
そして季節は夏。
私は露天風呂をそのまま水風呂にして、浸かりながら金操の練習をしていた。魔法の先生が見たらブチ切れそうな修行風景かもね。
この日、私はある思い付きを実行に移そうとしていた。それは……
風呂ごと、湯船ごと浮くことだ。
暑い日に外で水風呂、客観的には奴隷の芋洗だが私とっては贅沢な楽しみなのだ。
そこでさらに贅沢をしてみたくなったのさ。空中露天風呂だ!
かなり重いからな。せめて外側の土だけでもどけておかねば。
鉄の湯船に満タンの水、一トンを軽く超えてるな。でもこれができたら空なんて楽勝で飛べそうだよな。
『金操』
だめだ、びくともしない。いや、ガタガタとはするが浮き上がらない。流石に無理があったか。
風操で補助をしようにも浮いてないので、下から風を吹き込むこともできない。
よし、諦めた。
普通に練習を続けよう。
ちなみに三十キロムの鉄なら上空五百メイルぐらいまで上げることができている。
上下の往復に約五分、中々いいペースだよな。
ちなみにその日の夕方、風呂は再びプールに作り変えておいた。
翌朝……
「ねえねえ、昨日カース君の家の方で何か黒い物が上に行ったり下に行ったりしてたのが見えたの。
カース君も見た?」
登校して早々にサンドラちゃんが話しかけてきた。
うーんどうしよう。あまり嘘はつきたくないが、正直に言うとまた変人扱いされるかも知れない。
まあいい。
「見たっていうか、それ僕だよ。
風操で遊んでたの。何か新しい発見はないかなー、なんて考えながら。」
「また変なことしてたのね。どうせそうだろうと思ったけど。ちなみにあの黒いのは何なの?」
「ああ、あれはそこら辺に落ちてた木か何かだよ。意外と軽かったよ。」
「軽かったのね。ふーん。」
おや、サンドラちゃんは何か訝しんでいるぞ?
浮気がバレたような気分だ。彼女なんていないのに。
そしてお昼、いつも通り五人でお弁当だ。
「ねえカース君、さっきの話だけど、私その木に興味があるの。帰りに寄っていい?」
「いいよ。妙な所に興味を示すんだね。それもサンドラちゃんらしいのかな?
でもゴミみたいな物だから誰かが捨ててたらごめんね。」
やばい、鉄はサッと隠せばいいがプールは無理だ。よし、あれはオディ兄のってことにしよう。
「そう言えば最近カース君ちって行ってないね。狼ごっこやゴブ抜きもあんまりしなくなったし。たまにはカース君ちでみんなで遊ぶのもいいかもね。」
「セルジュ君の言う通り、最近の休みは学校に集合して遊ぶことが多かったもんね。」
スティード君が言うように、体が大きくなってきた私達は休日に誰かの家の庭よりも広い学校の校庭やその周辺で遊ぶことが増えた。
「それならみんなで行きましょうよ。私なんて数えるほどしか行ったことがないんだから。たまには行きたいわ!」
「アレックスちゃんはイザベルおば様に会いたいんだよね。僕だっておば様に魔法を習ってみたいな。」
スティード君にしては意外だな。
「そう言えばカース君の妹、キアラちゃんだっけ? だいぶ大きくなったんじゃないの?」
「おお、セルジュ君! 覚えててくれたの?
大きくなったよ。もう二歳だよ。やんちゃなお年頃だよ。」
「あはは、我がミシャロン家も最近妹が生まれたんだよ。相変わらず男は僕一人さ。」
「てことはセルジュ君ちは姉が三人、妹一人の五人かー。人数はうちと同じだね。
アレックスちゃんのとこは?」
「我が家は兄が二人と弟が一人よ。兄は二人とも領都の騎士学校で、弟はクタナツにいるわ。
いや、そんなことより放課後よ、行ってもいいの?」
「そりゃもちろんいいよ。何して遊ぼうかな。」
くっ、まさかこんな流れになるとは!
オディ兄はたぶん帰ってこないだろうし罪を背負ってもらおう。あのプールはオディ兄が洗濯のために用意した何やら訳の分からない物、それ以外私は知らぬ存ぜぬ関知せぬ。
「範囲を狭めてゴブ抜きなんかいいかも。
色々ルールを変えてやったら面白いかもね。」
相変わらずセルジュ君はゴブ抜きが好きなんだな。
嗚呼この状態はエロ本やらエロDVDを出しっ放しにしている部屋に突然女の子を含む友達が遊びに来るのと似ている。困った。
嘘に嘘を重ねるとロクなことがない。
そして五時間目が終わり、各々が馬車に乗り込み、我が家に向かう。
ああ、もうどうしよう……
そして……ついに運命の時が……
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