私は困り果てている……
何でそこまで! しかもマーティンって呼び捨て?
貴族なのに決闘って言いきっていいのか? 知らないぞ?
「シタッパーノ君、決闘は困る。やめようよ。」
「ふふん、逃げ足が自慢の騎士の子だけあるな! 手をついて謝るのなら勘弁してやる。」
ええー! 何を謝るの? 絡まれたあげく謝れ?
理解を超えている。だめだこりゃ。
「決闘って僕がやらないとだめ? 代理人とかさ。」
「そこまでして逃げたいのか! 貴族の誇りはないのか!」
「アレックスちゃん。悪いけど校長先生を呼んできてもらえないかな。」
「そうね。校長先生なら何とかしてくれるわ! 待ってなさい!」
「そこまでして逃げたいのか! 見損なったぞ!」
見損なうも何も友達付き合いをしてないじゃないか。同じこと二回も言わなくていいのに。
早く校長先生来ないかなー。せめてもの時間稼ぎにゆっくり校庭に向かう。
せっかくの昼休みなのに、くそぅ腹減った。
「さっさと来い! 時間稼ぎをするつもりか!」
シタッパーノ君ってこんなキャラだったの?
えらく好戦的だよな。バルテレモンちゃんに空気でも入れられたのかな?
おっ、校長先生だ! 来てくれた! 助かった!
「校長先生! 助けてください! 非常にバカバカしい原因で決闘を申し込まれて困っています! やってもいいんですけど『決闘』なもので困っています!」
「ふむ、マーティン君。事情は分かりません。しかし君は困っていると言うわりに覚悟があるようですね? そしてシタッパーノ君、君からはマーティン君のような覚悟が感じられません。本当に決闘をしたいのですか?」
「覚悟ならできています! マーティンはバルテレモン様を愚弄しました! 手をついて謝らないなら決闘するしかないです!」
いつの間にか私がバカにしたことになってる。シタッパーノ君ってクタナツ育ちだよな? マジでバルテレモンちゃんに空気入れられたのか? 不自然すぎる……
「校長先生、僕は決闘したくありません。一方的に絡まれて父上やマーティン家をバカにされましたけど、僕は心が広いので許してあげたいと思っています。」
「好色騎士の息子だけあって口だけは達者だな! そんなに僕が怖いのか!」
本当に分かっているのか? 決闘だぞ?
ちなみに校則でもクタナツでも決闘は禁止されてなどいない。
「困りましたね。では決闘ではなく素手での喧嘩ならどうですか?」
「はぁ、それならまあいいと思います。」
「いやです! 私はマーティンが手をついて謝らない限り許しません!」
さすがに面倒になってきた。
まあまあ長い付き合いだと思うのに、なぜここまでするんだ。体育や魔法の授業の成績を考えると私に勝てないことぐらい分かるだろうに。実戦では別とでも考えてるんだろうか?
「校長先生、この場合は校長先生が立会人となるのでしょうか?」
「ええ、不本意ですが私がやるしかないようです。悲しいことです。」
「分かりました。ご迷惑をお掛けしますがこの決闘を受けます。開始の合図をお願いします。」
仕方ない。やってやるよ。
あーあ、これまで築き上げてきた私の爽やかなイメージが……残念だ。
「ではこれよりカース・ド・マーティンとマッケイン・ド・シタッパーノの決闘を始める! もう一度言う! これは決闘である!
ジャック=フランソワ=フロマンタル=エリ・エローが見届ける! 決闘後の異議は一切認めない!
両者構え!」
「始め!」
開始と同時に杖を構えようとするシタッパーノ君だが、杖を構えようと手を挙げることもできずその場に倒れた。
終わりだ。
オディ兄直伝の乾燥魔法。
当然私も使える。
あー嫌だ嫌だ。何で同級生を殺さないといけないんだよ!
かと言ってこれは決闘だ。一度宣言したからにはどちらかが死ぬまで終わらないのだ。
「勝者カース・ド・マーティン! これにて決闘を終わる!解散!」
はーあ、気が重い。みんなの目に私はどう映ってるんだろう。
「カース、お疲れだったわね。決闘の緊張感で倒れるなんてシタッパーノ君らしいわね。」
何か勘違いしているぞ? もしかして校長以外みんなそう思っているのか?
なぜ校長が終了を宣言したのか分かってないのか?
「シタッパーノ君、起きて。まだ終わりじゃないでしょう?」
バルテレモンちゃんは何を言ってんだ?
死んでるんだぞ?
校長の話を聞いてないのか?
もう終わったんだぞ?
「校長先生、僕はどうしたらいいですか?」
「マーティン君、君は正当な勝者です。何一つ恥じることはありません。君が徹底して決闘を避けようとしたことも私は分かっております。胸を張って然るべきです。」
「分かりました。ありがとうございます。」
こんな所がやっぱりクタナツなんだよな。
それにしてもバルテレモンちゃんの気まぐれで決闘させられて若い命を散らすなんて可哀想に。手加減する気なんてなかったけどね。
「い、息してない! シタッパーノが息してないぞ! 校長先生、助けてください!」
テシッタール君がようやく気付いたようで叫びだした。
「ふう……テシッタール君でしたね。先程私は言ったはずですよ。これは決闘だと。マーティン君もずっと決闘を拒んでいましたね。理由はこれです。君は貴族なのに知らなかったと言うつもりですか?
シタッパーノ君は負けて死んだんですよ? バカバカしい説明をさせないでください。」
ようやくみんなも気付いたらしい。
私を化け物を見るような目で見てくる。
「この卑怯者! まともに決闘もできないの!」
「一組の仲間を殺すなんて! 奴隷に落ちろ!」
「お前は血に飢えた殺人者だ!」
「この学校から出て行け!」
うわーこいつらマジか。これも手の平返しって言うのかな?
校長の話を誰も聞いてなかったのか。反論するのもバカらしいぞ。
「恥を知りなさい!!」
校長の一喝が炸裂した!
「嘆かわしい……あまりにも嘆かわしい。君達は本当に名誉あるクタナツの民ですか? 本気で言っているのだとしたら私は君達を放校処分にしなければなりません。
情けない……私が校長になって十二年になりますが、今日ほど生徒に失望したことはありません……
それでも、それでもこの決闘に異議申し立てをしたいのなら代官府に訴え出るといいでしょう。お代官様の一声があれば私はいつでもクビになりますので。」
校長先生……みんなすっかり黙ってしまった。
やはり戦場を知ってる男は違うんだろうな。言葉の重みが違う気がする。
「バルテレモンさん、彼が死んだのは君のせいだよ。君が奪った命、忘れないでね。」
どう考えても私がやったのだが、ここは私の心を軽くするために責任転嫁しておく。
今なら校長先生の後なので反論できないだろう。ああ私は小物だな……
もう帰ろう……
「待ってカース! お弁当は食べないの!?」
「アレックスちゃん、食欲あるの? 僕はないよ。」
「あるわ! あるから一緒に食べるの!」
うっ、アレックスちゃんの目に涙が……
「カース君が帰ったらお弁当が偏ってしまうじゃない。休んでいる間困ったのよ?」
サンドラちゃん、現実的だな。
「さっきのは魔法だよね。教えて教えて!」
セルジュ君、あれは人を殺せる魔法なんだが……
「カース君、惚れ惚れしたよ。あれこそが騎士のあるべき姿だと思う。追いついてみせるよ。」
スティード君はいつでもストイックなんだね。
こんな普段通りの会話がこんなにも嬉しいなんて……
やばい、泣きそうだ……
くそ、いい年して子供に泣かされるなんて……
おかしい、弁当がしょっぱい。
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