自宅に帰ってみたらダミアンがいた。
「おう、帰ってきたか。邪魔してるぜ!」
「おかえりなさいませ。」
勝手知ったるとばかりにマーリンとお茶を飲んでるダミアン。まさか……
「いつ来た? さっきオメーんちに行ったらしばらく帰ってないって聞いたぞ。」
「あー二、三日前ぐらいか? この家は居心地いいからよー。つい足が向いちまうんだよな。」
この野郎……
「居心地がいいのはマーリンがいるからだろうが。マーリンの邪魔すんじゃねーぞ。」
「それが坊ちゃん。私も助かってますわ。重たい物を動かしてもらったり手が届かない所を拭いてくれたりと大助かりです。」
マジか! 私は全部任せっきりなのに! ダミアンのくせに!
「それならいいんだ。マーリンの邪魔じゃないならいいよ。」
「それよりオメー女の子を二人も連れてやがんな! カースのくせに生意気だぜ!」
うるさい。お前こそダミアンのくせに。
「お初にお目にかかります。アイリーン・ド・アイシャブレと申します。」
「こんにちは。ダミアン様ってお暇なんですね。」
「破極流のアイリーンちゃんか。アレックスちゃんのライバルなんだろ? やるじゃないか。」
知ってんのかこいつ。そしてアレクの挨拶は無視か!
それから四人でお茶をしたのだが、やはりダミアンは口がうまい。くやしいがとても楽しい時間を過ごしてしまった。
「おっと忘れてた。カース、金くれ。大金貨一枚と金貨八十枚。」
「大金貨一枚はいいけど、金貨八十枚は何だ?」
「運営費に決まってんだろ。警備やら受付やら人手を手配してんだからよ。」
なるほど。そりゃそうだ。
「分かった。ほれ。余ったら取っておいてくれ。」
参加費も取ることだし実は儲かるのでは? それ以外にも出店とかもあるだろうし出店費も取れるだろう。まあその辺りもお任せだな。
「では私はこれにて失礼いたします。」
「おう、じゃあな!」
「じゃあまた来週ね。」
「またね。」
「またのお越しをお待ちしております。」
一時間ほど滞在してアイリーンちゃんは帰っていった。ダミアンも帰れよ。
「やっぱ俺も帰るわ。アイリーンちゃん、途中まで一緒に行こうぜ。」
あ、本当に帰るのか。
「ダミアン様、馬車は呼ばれないのですか?」
「あー、馬車はあんま好きじゃねーんだ。で、どっち方向に行くんだ?」
「あの……道場に。」
「じゃああっちか。やっぱ途中まで一緒だな。」
「ダミアン様はカース君と仲が良いんですね。」
「あー、あいつ面白い奴だよな。俺の方から友達になろうぜとは言ったが、あんなに対等に接してくるとはよ。俺ぁいくら盆暗でも辺境伯の三男だぜ? 全くクタナツ者だよなー。」
「何かきっかけでもあったんですか?」
「あったなー。二年ちょい前に北の城門と周辺の城壁が崩れたの、覚えてるか?」
「え、ええ。話には……老朽化してるところに大型の魔物が突っ込んできたとか。」
「カースの仕業なんだよ。本人の口からは聞いちゃいないがな。」
「え? え? どうして……どうやって……」
「現場がかなり濡れてたから水の魔法ってことは分かるがな。理由は俺のイタズラさ。参ったぜ。」
「イタズラって……イタズラで城門を?」
「ちょっと弟に乗っかってアレックスちゃんにちょっかい出したらあの様よ。あいつアレックスちゃんが絡むとすぐキレるんだよな。今回もなー。あんな恐ろしい奴とは仲良くなるのが一番だぜ。」
「確かに……ついさっきも同級生の女の子に契約魔法をかけて借金を背負わせてました。」
「ガハハハ、容赦ねーなー! バカだろあいつ!」
こうして初対面にもかかわらず会話が弾む二人。ダミアンの話術の巧みさ、身分差や年齢差を感じさせない人懐っこさが伺える。
全くダミアンの奴、このままうちに居候する気じゃないだろうな。その時はコキ使ってやる。
さあ夕食だ。
「あさっての大会だけど、学校でも結構話題になってたわよ。参加者が多そうね。」
「それはよかった。今思えば、優勝者と僕が対戦するルールにしとけばよかったかもね。それなら楽ができたかな。」
「うーん、それだとカースの凄さを示せないんじゃないかしら?」
「なるほど、そんなものかな。強い奴とは当たりたくないけど、頑張るよ。」
魔法学校の寮、とある一室では。
「ねー聞いたでしょ? あの女が賞品にされてんの」
「聞いたわよ。あいつってバカ三男とは仲良かったんじゃないの?」
「どうだか? 高慢女にバカ男よ? 何か怒らせるようなことでもしたんでしょ!」
「あぁーありそうね! でもそれって三男には何の得があるのかしら?」
「そうよねぇ? 場所に時間に賞金まで用意してさ。儲かるのかしらね?」
「あっ! 分かった! きっと賭けるのよ! 倍率とかを上手く操作すれば!」
「なるほど! あり得るわね!」
「そればっかりは辺境伯家でないとできないわよねぇ。」
「あんな賭け事って闇ギルドが仕切ってそうだけど、違うの?」
「今回は無理なんじゃない? 私もよく分からないけど。」
「あっ! バカ三男といえばさー、夕方ぐらいにアイリーンと歩いてたってよ?」
「変な組み合わせね? あっ! まさか!」
「え? 何々?」
「何よ? まさかあの二人がデキてるなんて言うんじゃないでしょうね?」
「わくわくね!」
「違うわよ! 今回の件、あの女を賞品にしたのってアイリーンが絡んでるんじゃないかってことよ!」
「なるほど! アイリーンが三男におねだりか何かして、実現したってことね!」
「うーん、無理があるような気もするわね?」
「でもバカの考えることって分からないわよ?」
「ところで見に行く?」
「興味はあるわね。あのカス貴族も参加するのかしら?」
「まさか!? 僕のアレクサンドリーネを返せ〜とか言って泣きわめくのが精々じゃない?」
「あっはっは! それいいわね! それなら行ってみようかしら。コロシアムだったわよね」
「はっ! きっと入場料も取るつもりよ! セコい男よね!」
「なるほど。あの女が賞品ならそりゃあみんな見に来るわよね」
「魔法学校からは誰が出るのかしらね」
「三年だと……やっぱりナルキッソス?」
「あー、あいつ出そうよね」
「四年のペンドラム先輩は興味なさそうよね。あ、でも賞金目当てで出るかも?」
「それはありそうね!」
「でも本命は五年のシャイナール先輩よね。優勝しちゃうんじゃない?」
「そうよね、シャイナール先輩なら確かに!」
「貴族学校や騎士学校からも参加するのかしら?」
「あのルールじゃ無理じゃない? 手も足も出ないでしょ」
「クライドも参加したりして?」
「まさか……出ないわよね? ね? 例え出たとしてもきっと賞金目当てよ! きっとそうよ!」
ボニー以外は、あんな弱っちい男が出るはずないとさぞかし言いたかったことだろう。
大会まであと二日。
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