兄上がいなくなってもうすぐ半年……
あと二週間で私はついに三歳になる。
ここでは七五三などないため、二歳参り以降でイベントと言えば入学式ぐらいだ。
そして夏も終わり秋が来た。
この王国にも四季はある。
辺境フランティアにも短い秋と少し長い冬が来る。雪が積もって外出できないレベルではないが。
秋より寒いという曖昧な冬だ。
肝心の錬魔循環だが、まだできていない。
そりゃ最初の頃は亀の歩みだった。髪の毛並の細さだった。
それが今では馬並みの速さ、三歳児の腕ぐらいの太さだ。
目に見えるわけではないから体感でしかないが、進歩していると思う。
しかし母上に言われた速さ・太さからすると半分ってとこだ。頑張ったんだけどな。
でも悔しいから誕生日まで猛特訓だ。
文字の勉強も狼ごっこもなし!
ひたすら錬魔循環やりまくってやる。
疲れた……
今まで遊びながらとか、勉強しながらとか、ながら修行だったのがよくなかったのか?
本気で集中し、連続して行うと二時間と保たない。
この感覚が大事なのか?
やはり限界まで攻め込んでこそ成長があるのか。
ちなみにポーションの類は禁止されている。
理由は分からない。
魔力は消費してないはずだから、魔力ポーションを飲む意味はないが、疲れが吹っ飛ぶ気がするんだよな。
風呂と食事、睡眠で自然回復といこう。
回復を感じたら即ぶん回してやる。
風呂でもベッドでも循環させまくりだ。
そんなこんなでいつの間にやら今日は私の三歳の誕生日、夜は軽いパーティーをするらしい。
肝心の錬魔循環はどうなったかと言うと……
できてしまった。
あれだけ半年やっても少ししか進歩がなかったものが、この二週間マジになって集中してやったところ、母上が言う太さ・速さに到達してしまった。
最初から追い込みながらやってればよかったのか?
それとも半年の努力が身を結んだのか?
分からない。
でもこれで今後はこのスタイルで行けそうだ。
しばらくダラダラやって期限が近づいて来たら集中する!
夏休みの宿題方式だ。
きっとこれが私に合っているに違いない。
しっかり基礎を固めて一気に仕上げる!
「さあカースちゃん。どれだけできるようになったか見せてもらうわね。」
そう言って母上は私の額とヘソに手を当てる。
「さあ、魔力を回してみなさい。本気でね。」
ふふふ、驚かせてあげるさ。
「押忍!」
集中し、錬魔循環を始める。
段々と速度を上げ、量も増やす。
ダムから放流される水のような魔力がエンジンを回したかのように体を駆け回る。
「………………………………………」
おかしい、母上が何も言わない。
これだけ大量に回すのはきついのだが。
仕方ない、このまま続けよう。
後一時間ぐらいなら可能だ。
「カ、カースちゃん……いつの間にそんなにできるようになったの……?」
「さいきんだよー ちょっと前までぜんぜんダメだったー」
「そ、そうなのね。そうよね。カースちゃんは天才だものね。で、できるわよね。」
どこか呆然としている。
これは驚きを通り越したのか。
私ならできると言っておきながら、本当にできるとは思ってなかったパターンか。
やはり天才天才と言うのも教育の一環か。
これまで以上に増長しないよう気を引き締めよう。
「すごいわカースちゃん! 来年の誕生日ぐらいに教えようと思ってたことが、もう教えられるわ。三歳でそれができるなんて聞いたことがないわ。きっと空だって飛べるわ。」
おお、通常モードに戻ったようだ。
「とびたーい もっとがんばるねー」
これはもちろん本当だ。
飛べるものなら飛びたいものだ。空を自由に飛びたいぜ。
「じゃあお誕生日のお祝いまでまだ時間があるから次を教えましょうね。
今までは魔力が通る道を広げて、速くたくさん通るようにしてたの。
今日からは実際に持ってる魔力の量を増やしていくの。これが終わったら魔法を使えるわ。」
おお、弱冠三歳にして魔法が目前なのか。
どうせなら魔法を使いながら魔力を増やしていけば良さそうなものだが……
何か母上の考えがあるのだろう。
「これも最初はカースちゃんは何もしなくていいわよ。倒れないように頑張ってね。」
何?
また何か……
と思った瞬間
「ぎゅのにゅやゎやっ」
久々の変な声が出た。
何だこれ……
気持ちいいのか気持ち悪いのか分からない。
力が抜ける……
血や水分が抜かれるのはこんな気分になるのか……献血とは違いすぎる。
吐き気と眠気が同時に襲ってきた。
しかし倒れてはいけない。
寒くなってきた、しかし母上が手を置いている私の首だけは熱い。
だめか、意識が保てない……
「はい、ここまで! さあカースちゃん起きて。これを飲みなさい。」
「お、押忍……」
う、この牛乳瓶のような白い液体は……
ご存知クソまずい魔力ポーションだ。
飲まないと鼻と口を塞がれるんだよな。一気に飲もう……
「あら、一気に全部飲めるのね。さすがカースちゃん。
さあ、ではお昼ご飯にしましょうね。それが済んだらお昼寝よ。」
以前を思い出す豪華な食事だった。
食欲なんかなかったのに、フォークが進む。
食べたら眠くなってきた。
「さあカースちゃん、お昼寝しましょうね。
久しぶりに子守唄を歌ってあげるわね。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
巷に雨が降るように
眠りの雲が降りてくる
野原に風が吹くように
眠りの中へ落ちていく
かわいい坊やがいるように
眠りの唄を歌いては
かくも心に躙り寄る
嗚呼母の唄 子守唄
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
何度聞いても飽きない、優しいメロディだ。
ふわふわ浮くような心地良さで眠りを誘ってくれる。
今夜のお祝いも楽しみだ。
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