異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

38、召喚獣の秘密

公開日時: 2021年7月30日(金) 10:17
文字数:2,351

オディ兄の新居を訪問する。これで三回目ぐらいだろうか。平民宅より少しマシな家だが、オディ兄の年で新居を現金一括で買うなんてすごいことだよな。


ドアを強めにノックする。いるかな?


「マリー! いるー?」


この時間、オディ兄はたぶんいない。

ドアが開きマリーが顔を出す。


「坊ちゃん、お久しぶりです。ようこそお越しくださいました。どうぞお上りください。」


「お邪魔します。」


昼前、亭主は留守、新居に新妻と二人きり。ドキドキするな。




事情を伝えた。


「なるほど、具現化してしまわれたのですね。相変わらず驚かせてくれますね。」


「何か勇者が関係してるって聞いたけど?」


「ええ、私の知る限りローランド王国三百年の歴史の中で召喚魔法で魔物を具現化できたのは勇者とその仲間だけです。勇者ムラサキは白い狐、七色の魔法使いイタヤ・バーバレイは白い隼を呼んだそうです。その際勇者は一週間、イタヤは四日ほど意識が戻らなかったそうです。」


「じゃあ勇者よりイタヤの方が魔力が高いってこと? しかもあの状態って魔力が空になってなおかつ回復しないよね?」


「そうです。こと魔力に関してはイタヤが最大だと思います。そして坊ちゃんが一日もかからず回復したことから、坊ちゃんの魔力は勇者達をも超えているようです。ご立派になられましたね。」


「本当!? かなり嬉しいんだけど!?」


信じられない! 嬉しすぎるぞ! 私はついにそんなところまで到達したのか!


いや……慢心してはだめだ!

あくまで魔力限定の話だ!

勇者達より強くなったわけでも魔法が練達したわけでもない。ただ魔力が高いだけだ。油断せずにいこう。


「それで魔物が具現化すると何かいいことはあるの?」


母上からも聞いてはいるが。


「そうですね……通常召喚獣というものは呼ばれてる間中魔力を消費します。そして術者の魔力が無くなれば自然と消えてしまいます。ところが具現化された魔物はもはや召喚獣ではなく、一つの生物として存在します。ゆえに魔力を消費することはありません。餌は必要ですがね。」


なるほど。レンタルか購入かの違いみたいなものか。


「どちらにも共通することは、対象が死ぬまで次を呼べないことです。当然どちらも首を切られたりすれば死にます。注意してあげてください。もっとも勇者達の召喚獣は相当に強く魔王と戦うまで死ぬことはなかったそうです。」


つまり魔王との戦いで死んだってことか?


「その分なら何も心配することはなさそうだね。普通に首輪を着けてたらペットと変わりないだろうし。」


「それでよいと思います。白い狼は確かに珍しいですが、具現化した魔物と通常の魔物の区別などつくものではありませんから。」


「分かった! いつもありがとね! これ、オーガベアの肉。オディ兄と食べてよ。じゃあまたね!」


「また来てくださいね。お待ちしております。」


いい話を聞いた。しかし新たな疑問が生まれてしまったぞ? これは母上に聞こう。帰って昼ご飯を食べながら。




母上は居間で紅茶を飲みながら読書をしていた。そんな何気ない日常の所作に気品があるかないかが、貴族の格を左右するのだろうか。


「ただいまー。いいことを聞いてきたんだけど、また疑問ができちゃったよ。」


「おかえり。カースも飲む? で、何かしら?」


「うん飲む。召喚魔法って一度呼んだ魔物が死ぬまで次を呼べないんだよね?」


「そうよ。絶対じゃないけど、そうなってるわね。」


「それなんだよ。母上はクロちゃんだけじゃなくてネロちゃんも呼んでたよね? あれってどうしたことなの?」


「あら、いい所に気付いたわね。そうなの。私の召喚魔法は特殊なの。私以外には見たことはないわね。通常の召喚魔法の流れは……」


一、呼ぶ

二、戦う

三、服従させる

四、契約する

五、以後好きな時に呼ぶ


「だいたいこんな感じね。私が契約した相手はノワールフォレストの森の中西部に縄張りを持つノワール狼達の族長、ロボちゃんなの。クロちゃんとネロちゃんはその子供ってわけ。」


さすが母上、そんなすごい魔物を従えてるのか。すごいな。で、それがどう関係するんだ?


「カースもそうだと思うけど、召喚した魔物の気持ちって伝わってくるわよね? 私にも契約から五年後だったかしら、ロボちゃんの気持ちが伝わってきてね。一家丸ごと契約してくれって頼まれたの。そんなことができるとも思わなかったけど、魔力ポーション片手にやってみたら、できてしまったってわけなの。」


すごいな……魔物の方から頼まれるのか。やはり母上はすごいんだな! つまり複数の召喚獣を呼ぶには、魔物からお願いされなければ不可能なんだな。勉強になった。



昼食後は久々に道場に行き、日暮れまでみっちりと稽古に励んだ。アッカーマン先生にはラスティネイルボアの肉を渡しておいた。肉の方は食べてないが、きっと美味しいと思う。


そして自宅に帰って久々の夕食。父上と会うのもかなり久しぶりだ。白い狼、カムイの件で褒められてしまった。嬉しいぜ!


夕食後はキアラに風呂で本を読んであげることになった。こいつはいつまで私と風呂に入るつもりなんだろう。何も考えてなさそうだ。ちなみに本日キアラのリクエストは『ハ・ガクレ』難しい本だ。


『騎士道というは死ぬ事と見付たり。毎朝毎夕、改めては死に死に。常住死身に成りて居る時は、武道に自由を得、一生落度なく家職をしおおすべきなり』


一体どうしたキアラ? どこからこんな本を……やはりこの子は天才か?


ちなみに体を洗うのは私がやったが、実はオディ兄の洗濯魔法、乾燥魔法はすでにマスターしているらしい。よってタオルもあまり使わなくなったようだ。じわじわと追いつかれている気がする……




ちなみに今日はトールの日。明日の放課後までに領都に行けばいい。今夜は久々に自室で寝れる。いつ帰っても部屋がきれいなのはありがたいなぁ。嬉しい。

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