ある日のギルドにて。
「よぉ、金貸してくれよ」
「俺もだ。金貨五枚でいいや」
「俺にも頼むぜ。最近厳しくてよぉ」
私は珍しく絡まれていた。金を貸さなくなって随分経つ。あれだけ貸し付けた金も最近全て完済されてしまい利子でウハウハ生活も終わりを迎えた。
だから貸してもいいのだが……
「利息はトイチ、そして複利の約束っ、だがいいんだな?」
「おおいいぜ」
「金貨五枚だぜ」
「構わんぜ」
次の瞬間、目の前が真っ暗になった……
目を覚ました時、私は治療院にいた。身包み剥がれてはいなかったが、手持ちの金は全て奪われていた。あんな奴らの目の前で気を失ったのだから仕方ない。被害総額金貨五、六枚ってとこか。一年前に買った財布ごとやられてしまった。
「あ、カース君起きた? 何やってたの?」
「ベレンガリアさん? なぜか気を失ったみたいだね。」
なぜだ?
外傷はない。頭痛が残るのみ……
でもあの時の感覚はまるで……
もしかしたら……
「ねえベレンガリアさん、ちょっと実験したいんだけど。協力してくれたら金貨一枚あげる。約束っ、するよ。」
「いいわよ。何?」
やはり気が遠くなり……
「ベレンガリアさん? 僕はどのぐらい寝てた?」
「三時間ぐらいかしら。どうしたの? 実験って何するの?」
「金貨は十枚あげるよ。だからしばらく協力してくれる? 約束っ、する。」
「いいわよっ、うっん」
私はまた気を失った。
「起きた? さっきから何やってんの? 大丈夫?」
「ふふふ、ははは、へっへっへ、はーっはっはっはっ!」
「ちょ、ちょっとカース君!? 大丈夫なの? おかしくなっちゃったの!?」
「ふひひひ! ははは! ぎゃーっはっははっははっはぁーー!」
これが笑わずにいられるかよ!
何で今まで気付かなかったんだよ!
魔力を失ったと思っていたら!
魔法を全て失ったと思っていたら!
個人魔法が残っていたなんて!
こんな嬉しいことがあるか!?
魔力はまだまだ赤子並みだが、また増やせばいい。使えば使うほど増えるに違いない。私はまだ若いんだから!
「ふひひひ! ひゃーっはっはっはー!」
「カ、カース君?」
「ふふふひひひ、いやいやごめんよ。じゃあギルドに行こうか。約束のお金を払うよ。」
「いやいや、大丈夫なの? お金なんか要らないわよ? 歩ける?」
「大丈夫だよ。約束は守らなければいけないんだよ。行こうか。」
本当に何で気付かなかったんだ?
思い返してみれば『約束』の言葉が言いにくかった時点で気付くべきだったんだ。
魔力がゼロなんだから約束の個人魔法を使えば魔力がマイナスとなって倒れてしまう。しかし、魔力を使うわけだから成長の糧にはなったわけか。これで少しずつ魔力を増やしていけば、いずれは昔の魔力を取り戻せるのではないだろうか?
ギルドにて。先ほどの三人組がいた。きっとこいつらが財布ごと盗んだんだろうな。しかし、全然構わない。今の私は超ハッピーウルトラハッピーラリラリなのだ。
「おー、お前ら。さっきは悪かったな。いくらいるんだ? 貸してやるぞ?」
「いや、いい」
「もう用無しだ」
「帰ろーぜ」
何だよ。せっかく貸してやろうってのによ。あー、清々しい。星が美しい。失くしたものを見つけるって何て嬉しいんだ。
幸いギルドカードまでは盗られなかったのでいくらか現金を引き出してベレンガリアさんに金貨十一枚を手渡す。まだまだ協力してもらうんだからな。
あぁ、幸せだ。これで金貸しが再開できる。
私は、生きてく強さを取り戻せるのだ。
しかし、私の受難はこれからだったようだ。
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