そしてデメテの日、早朝。
私とスパラッシュさんはノワールフォレストの森に向けて出発した。
直線距離でおよそ八百から九百キロルってとこだろうか。最近の私なら二時間と少しで到着できるかな。
そして未知の領域で怖いので高度も高めで行く。ちなみに魔切は着いてから使う予定だ。
「普通トレントを討伐する場合は枝や魔法に警戒しとくんでさぁ。しかし坊ちゃんの場合は近寄らずに一気にズバッとやれそうですぜ。」
「そうだね。そうしようと思って準備したんだよね。上手くいくといいけど。」
ヘルデザ砂漠上空を通過。
おおっ、スティクス湖がまだ残ってる!
帰りに水を補給してあげよう。
それからまたしばらく北上する。
「坊ちゃん、そろそろノワールフォレストの森ですぜ。この高さなら大丈夫たぁ思いやすが一応警戒しといてくだせぇ。」
「オッケー。隠形を強めにしとくよ。」
下はジャングルだ。トビクラーを狩るのに灰にした森とは比べ物にならない密度、歩いたら容易く迷いそうだ。
そして木々の高低差が激しい。時々中ボスとでも言わんばかりに太く高い木がそびえ立っている。
「このまま行ってくだせぇ。目標は森の北東部でさぁ。」
下がやはり怖いのでさらに高度を上げる。こんな森に落ちたらきっと生き残れない。フェルナンド先生はこんな所を一人で歩いていたのか……
何回か空を飛ぶ魔物が下に見えた。やたら大きい……鳥なのか?
「スパラッシュさん、さっき飛んでた鳥の魔物は何?」
「ありゃあルフロックでさぁ……卵ですら二十メイルあるとか……トロルやオーガを雛の餌にするらしいですぜ……」
何だそれ!? 怖すぎる。さっきの鳥は軽く百メイルはあった。上も地獄、下も地獄かよ!
「そろそろですぜ。準備はどうしやす?」
「一旦降りよう。標的を確認してからにするよ。」
周りを警戒しながら高度を下げる。樹木の密度が高いので、枝をバキバキ折りながらの着陸だ。枝を丸焼きにしてもよかったのだが、他の魔物が来たら怖いので魔法が使えないのだ。
「あれですぜ。情報通りでさぁ。ここら一帯マギトレントの縄張りらしいですぜ。」
虫がブンブン飛ぶジャングルだが、地表付近は植物が少ない。きっとマギトレントに栄養を取られまくってんだろうな。動きやすくて助かる。
パッと見た範囲にざっと四、五体のマギトレントが見える。でかい!
直径五メイルぐらいか。高さはよく分からない。枝葉が激しく繁っているので、見えないのだ。近付きさえしなければ危険はないのだろう。いけそうだな。
一度上空へ戻る。
「だいたい分かったよ。上手くできると思う。じゃあ準備するね。」
「へい! 気張ってくだせぇ!」
それから三十分かけて『魔切』をミスリルギロチンに纏わせる。
隠形と浮身を使いながらなので大変だ。
「よし! いくよ!」
「へい!」
さっと地表へ降りて『金操』
多分時速四百キロル以上の速度で直線上の二体をまとめて斬る。返すギロチンで受け口を入れる。三回目で受け口の反対側を斬りマギトレント二体が倒れ……
倒れない!?
あまりにも木々の密度が高いため他のトレントの枝に引っかかって倒れられないようだ。
地表からだととてもそうは見えないのに。
くそ、面倒だが枝を刎ねるしかないか……
いや、見える限り上方の幹をぶった切ってしまおう。そこより上は枝が多くきっと時間がかかるはずだ。
地上からざっと二十メイル地点の幹を切断する。受け口を作らないので中々切れない。色んな方向からギロチンをぶつけてようやく切れた。
同じことをもう一回、そして収納。
急いで上昇する。
ここまで二十分以上かかってしまった。
「ふう、参ったね。全然倒れてくれないんだね。やっぱり計算通りにはいかないもんだね。休憩しようか。」
コーちゃんもお腹空いたんじゃないかな。
この子は本当に良くできた子だ。学校には付いて来るが一度たりとも声を出さない。可愛くて仕方ないぜ。
「やっぱりコーちゃんは可愛いでさぁね。弁当にしやすかい?」
「うん。食べながら少し様子を見ようか。いきなり根元を斬ろうとしたのは甘かったみたいだし。」
こうして三人で同じ弁当を食べていた。するといきなりコーちゃんが、ギャワワギャワワと鳴き出した。何事だ!?
どうしたコーちゃん!?
コーちゃんは斜め上空を向いて鳴いている。何がいるんだ?
うーん見えない!
でも警戒、自動防御をしっかり張っておく。
あれか!? 上空から何かが飛んできた。
「あの魔物は何?」
「ぬあっ! 灰色の羽毛!? 鉤のように曲がった嘴!? 白く輝く鋭い爪!? ありゃラセツドリ!? ヤバいですぜ! すぐ仕留めてくだせぇ!」
速そうだ。ならば『狙撃』
くっ避けやがった! そのまま突っ込んで来やがる……ならば『火球』
避けない? 突っ切りやがるのか……
それは……甘いな。
下からの弾丸が奴の胴体を貫く。
火球に突入して無傷なのは褒めてやる。
しかし一瞬視界が閉ざされた隙に、先ほど外した弾丸をコントロールし直して奴の死角から打ち込んでやった。
当然リサイクル可能だからな。
トドメだ! その弾丸で今度は上から頭を貫く。
さすがに死んだだろう。風壁に閉じ込める。動きはない。風壁に小さい穴を開け、手を入れて収納。よし、死んでた。
「危なかったねー。あの勢いで来られたら防御を突破されてたかも知れないよ。コーちゃんありがとね。スパラッシュさんもありがとう。助かったよ。」
「さすが坊ちゃん! あいつは小さい割に厄介な魔物なんでさぁ。目玉が好物なんだとか。目玉を目掛けて一直線に突っ込んで来るもんで腕に覚えがある連中なら楽勝なんでさぁ。そうでない奴らは目玉ごと頭を貫かれて終わりってわけでさぁ。」
なるほど、達人は簡単にカウンターが取れるわけか。
あの速度に!? 私には無理だ。
あー、怖かった。隠形が効かない魔物もいるのか。一メイル程度の大きさだけに気配に敏感とか?
よし、この勢いで行こう。
『火球』
『火球』
『火球』
丸ごと灰にするわけではない。
先ほどマギトレントの場所はチェックしたので、そこ以外と枝葉を燃やしてしまうのだ。そうすればスムーズに切り倒せると見た。
ただし他の魔物が来ないうちに済ませなければ。急ごう。でも焼けるのを待たなければならない。くっ、もどかしい!
待つこと十分。まだ焼けている最中だが待ち切れない。風壁を厚めに張って地表に降りる。
マギトレントは慌てて枝を振り回したり、水の魔法を使っているようだ。すごく悪いことをした気分だが『金操』
構わず根元を切り倒す!
枝葉がかなり燃えたため、簡単に倒れてくれる。潰されたら即死だな。注意せねば。
倒れたマギトレントの枝を刎ね真ん中から二等分、明らかに二十五メイルより長いのでせめて半分に切らないと収納できないのだ。
スイスイと伐採は進み合計六体分のマギトレントをゲットした。
「よし! スパラッシュさん帰るよ!」
スパラッシュさんは周辺から湧いて出る雑魚魔物を狩ってくれていた。さすがだ。
「合点で!」
高度を上げたら消火をしよう。
『水球』
こんな魔境で消火の必要があるとは思えないが、一応ね。
さすがに魔力を使い過ぎた。魔力ポーションで回復しておこう。あー不味い。魔力ポーションは高いほど不味いのが定番だもんな。
大物が来るのを待ちたい気持ちはあるが安全第一だ。
全速力でクタナツへと向かう。
帰りにスティクス湖に寄ろうと思ったが無視だ。無事に帰ることが最優先だ!
家に帰るまでが冒険だからな。この分なら夕方には帰れるはずだ。
「いやー、無事でよかったね。スパラッシュさんの指示が適切だからいつも助かるよ。」
「いやいや、坊ちゃんの腕があってこそですぜ。飛んでるラセツドリを撃ち抜くなんてさすがでさぁ。」
「一発目を避けられたのは驚いたね。素直にたくさん撃てばよかったよ。」
コーちゃんもピュイピュイ言ってる。帰ったらラセツドリを食べるかな? このサイズならマリーも解体できると見た。
今夜はご馳走たーい。
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