学校が始まり一ヶ月が経とうとしている頃、我が家に妹が生まれた。
前世では兄しかいなかったので妹ができるなんて感激だ。今後は兄バカとして生きていこう。
「オディロン、カース。お前達の妹、キアラだ。しっかり面倒見てやるんだぞ。」
「うん父上、僕は弟しかいなかったから妹なんて嬉しいよ。」
オディロン兄も兄バカになるかな。
「僕もお兄ちゃんだからね。かわいがるよ。」
兄上みたいに本を読んであげよう。
まあしばらくは何もすることはないけどね。
ところで、これから何人弟妹ができるのだろうか。
学校にて。
我ら一組だがグループが定まってきたようだ。
仲が悪いわけではなく、自然と気の合う者同士が固まったように思う。
パスカル君とエルネスト君の上級貴族コンビ。
私達下級貴族とアレックス組。
その他の下級貴族六人組。
平民四人組と平民五人組。
総勢二十二名、当初はもっといたのだが、いつの間にか二組に移動していた。
これで中々バランスのよい組になったようで、全員で何かをする時もスムーズに進む。
放課後に全員で狼ごっこをすることもあった。仲良きことは美しきかな。
そんなある日、一組の人数が一人増えることになったらしい。
「グランツ・アポリネールです。魔法は苦手ですが、体育が好きです。よろしくおねがいします。」
どうやら二組から上がってきたらしい。
能力に応じて一組と二組を行ったり来たりするのが平等ということなのだろう。
さあ今日の一時間は算数だ。
繰り上がりのある足し算に入った。
二時間目は国語、ローランド文字は全て説明が終わっている。
三時間目は魔法、自由に魔力量を増やす授業になっている。
魔力放出はかなり難しいことのようで、普通は少しずつ使うことで、地道に増やすらしい。
私は木刀に錬魔循環を使ったりして過ごしている。
お昼ご飯、グランツ君は平民五人組と一緒に食べるようだ。平民六人組になるのかな。
四時間目、社会の時間。
街の中でしてはいけないことについてだ。
例えば私達のような子供は日没後に外を歩いてはいけない。
もし騎士団に見つかると家まで送り届けられてしまう。余計な仕事をさせてしまうことになり、非常に申し訳ない。
ちなみにこれは孤児対策だそうだ。
スラムがないことにも関連するが、クタナツで孤児は必ず孤児院に住まなければならない。
騎士団が送り届ける先のない身元不明人は子供なら孤児院行き、大人なら奴隷落ちとなる。
もっとも大人で身元不明人などそうそういるものではないらしいが。
五時間目は体育だ。
やはり体を動かすことがメインとなる。
一年の間は体力をつけることが優先されるらしい。楽しいからそれでいいのだが。
このように楽しくも変わり映えのない毎日を気ままに過ごしている。
山や谷のない生活って素晴らしい。
個人的には魔力量もガンガン上がっているし、制御も上達している。
使える魔法も少し増えたし言うことなしだ。
地道に頑張るとしよう。
魔力が大量にあるもんだから修行の能率のよさがとんでもない。
みんなは一日にそこまでたくさん魔法を使えないらしい。使えないから魔力も上がらず、上がらないから修行もしにくい。
私の有利さがたまらない。
ちなみに増えた魔法は……
水弾
水の弾丸を飛ばせる。
飛距離は三十メイルぐらい、弾丸の大きさは散弾銃の空薬莢ぐらいだ。
所詮は水なので、当たってもデコピン程度の威力しかない。今のところは……
土塊
土の塊を少し前に飛ばせる。
投げる動作と合わせれば遠くに飛ばせそうだ。
慣れるにつれ塊の大きさ、堅さ、飛距離が上がりそうではある。
鉄塊
鉄屑より良い金属を出せる。
現在は体感で純度五割ほどの鉄が毎分十グラムぐらい出せる。
火の魔法は変化してない。
点火の魔法を大きく高温で出すことはできるだろうが、火傷じゃすまないレベルなので、しっかり防御できる魔法を使えるようになってからだ。
自分が出した火なんだから火傷とか勘弁して欲しいが、火は誰が点けても火は火だもんな。
早いもので一年生になってもう半年が経とうとしている。
私の誕生日も近いし、魔力測定も近々行われるだろう。
そんなある日、私はふと気になって聞いてみた。
「オディ兄ってさ、友達とどんなことして遊んでる? 僕らっていつも狼ごっこやゴブ抜き系ばっかりなんだよね。」
「そうだね〜、魔法を使うことが多いかな。最近は水球をぶつけ合ったりさ。
逃げたり避けたり防いだり。意外と童心に帰れて燃えるんだよね。ルールや逃げる範囲を色々と変えたりね、水の魔法のみとか、風あり、火なし。または何でもアリアリとかね。」
「なるほどー、面白そうだね。ちなみにアリアリだと誰が一番強いの?」
「うーんそうだな、ベレンガリアちゃんって女の子かな。発動が速いし、制御もバッチリだし、魔力切れしないし、体力もある方だしね。
カースの組に弟がいるらしいよ。ダキテーヌ家だね。」
「あぁ、パスカル君のお姉さんなんだね。
やっぱり上級貴族ってすごいんだね。」
「と言うとパスカル君も優秀なのかい?」
「そうだと思うよ。魔力も多そうだしね。」
やはり貴族は子沢山なのが普通なのか。
他の子も兄弟姉妹がたくさんいるんだろうな。
セルジュ君も四人目だし。
さあ明日は魔力測定だ。
結果はほぼ予想通り、貴族組全員が十、平民組が五から十の間、四以下はいなかった。
みんな順調に伸びているのだろう。
「みなさん伸びていますね。いいことです!
ではまた半年後、今度は春に計りますのでまたしっかり伸ばしておきましょうね。」
ナウム先生は本当に嬉しそうだ。
そんな秋のある朝、またクラスの人数が増える出来事があった。
二組から上がってきたのではなく、クタナツに引っ越しをしてきた一家らしい。
「コンスタンタン・ド・アジャーニだ。王都周辺から来た。私の父はここの代官とも縁が深い。私と仲良くしておいて損はないぞ。」
何こいつ?
絶対ピカピカの一年生じゃないだろう。テカテカの縮れっ毛だな。
確か代官もアジャーニ家だよな。
公爵家だとかって話だが、この辺境オブ辺境のクタナツで通用するのか? 一緒に遊びたくないタイプだな。
一時間目、国語。
「読めん! もっと分かりやすく説明しないか!」
二時間目、算数。
「なぜ五引く三が二になるのだ! 問題が悪い!」
三時間目、魔法。
「このような低レベルの授業など受けていられるか! 私は火の中級魔法だって使えるのだぞ!」
暴君ぶりがすごいな。
先生に無視されているのは気にならないのだろうか。
昼ご飯。
コンスタンタン君の周りにはシェフと執事らしき男性がいる。
これは、金持ちがやるアレだ。弁当ではなくレストランを取り寄せるアレだ。
さすがにみんな興味津々だ。
「皆よ、そう遠巻きに見ずとも美味そうなら摘んでみるとよい。」
おお、無駄に寛大なところがあるのか。
その言葉に釣られた平民組は恐る恐る近寄り手をつけている。
「おいしーい! すごくおいしい! こんなの食べたことない!」
「そうであろう。魔境産の素材を王都で修行した料理人が仕上げたのだ。いかな私とてこれほどの料理は毎日食すことはできぬな。」
おお、意外といい奴なのか? そんな貴重なものを平民にすら振る舞うとは。
私は食べないけどね、アレックスちゃんが微動だにしてないからだ。よって私達はいつも通りみんなで弁当をつつき合いながら食べている。
四時間目、社会。
「今日は来月の社会科見学について話し合いましょう。
みんなで歩いて第三城壁の内側を一周するわけですが、何に注意すればいいかな?」
「この私がいるのだ、何も案ずることなどなかろう。代官府の中ですら立ち入ることもできるぞ。」
「あらあらアジャーニ君、代官府は今回のコースとは関係ないわ。あと発言する時は手を挙げようね。」
「貴様誰に物を言っている! 私はコンスタンタン・ド・アジャーニであるぞ! 平民教師風情が!」
「そうですね。先生が悪かったわ。
アジャーニ君のような高貴な方への対応はどうしたらいいか校長先生に相談してみるね。」
「ふむ、分かればよいのだ。」
うわー、これは間違いなくモンスター生徒だ。どの世界にもいるもんだなぁ……
やたら父上や母上が『王都の貴族はろくでもない』と言っていたのはこれか。
それにしても、社会科見学か、楽しみだな。
五時間目、体育。
今日は久々のコボルト狩りだ。コンスタンタン君は逃げようともしない。
「よもや私に当てようなどとは思うまいな?」
何か言っている。そして誰も彼を狙わない。
得意顔で佇んでいるではないか……あれでは楽しくないだろうに。
少し心配になったが、関わりたくないしどうでもいいか。
これが最上級貴族か……
あーやだやだ……
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