私達は姉上に連れられて領都のギルド、ではなく近くの汚い飯屋にやって来た。姉上らしからぬチョイスだが、どうしたことだろう。
「入るわよ。こんな店だけど私のお気に入りなの。」
中も汚い。まだ日が暮れてないのに酔い潰れてる奴もいる。しかし、いい匂いがする!
肉を焼いた香ばしい匂い! これはもしや……
「ここは自分達で肉を好きに焼きながら食べる店なの。領都でもここしかない斬新な店よ!」
焼肉だ! これは嬉しい! さすが姉上!
「早く食べようよ。お腹が空いてきたよ。」
「私も初めてですが、とてもいい匂いですね。」
「注文は任せて。マスター! オークのセットとミノータウロスのセットをお願い!」
「あいよ!」
セットってことは色んな部位を少しずつ出されるのかな。ミノータウロスは食べたことがない。楽しみだ。
「はいお待ち!」
来た! 皿がでかい! 量も多い!
これは七輪、にしては大きいな。しかも炭がある! これはすごいな。見た感じ木炭だが、どこで作ってるんだ?
これはますます焼肉が楽しみになってきた。
「さあ、どんどん焼くわよ。まずは見てなさい。」
ミノータウロスだが、皿を見た感じタンがない。内臓系はあるのに。
「焼けてきたらそのタレにつけて食べるといいわ。塩を振ってもいいわよ。」
「美味しい!」
これは美味い! 完全に牛肉だ。それも前世で少し高い焼肉屋に行った時より美味しい!
岩塩を削るのが少し面倒だな。時々臭いのも混ざってるし。まあタレで食べればいいか。
うまいっ! 今のはカルビか。
アレクも夢中で食べている。それはロースだな。
姉上がどんどん焼くものだから私達はひたすら食べる! もうミノータウロスのセットがなくなった。
次はオークだ。
これも美味しい! オークは頻繁に食べているが、普段の味とは違って美味しい。こちらのセットには内臓系がないぞ?
クイーンオークやシーオークと、色々食べてきたが、ただのオークがここまで美味しいとは。
「コカトリスとかバジリスクはあるのかな?」
「贅沢言うわね。まあいいわ。マスター! コカトリスかバジリスク入ってる?」
「すまん! 入ってない! ちょいと高いがトビクラーなら入ってるよ!」
「じゃあトビクラーのセットで!」
「軟骨も追加で!」
この前トビクラーを狩った時、軟骨を頼み忘れたからな。ぜひ食べないと。
「アンタも変わった趣味してんのね。」
「カースは軟骨が好きなのよね。この前のトビクラーは軟骨取ってないの?」
「そうなんだ。肉だけで軟骨を頼むのを忘れてさ。だから今日は思わぬ出会いだね。」
「アンタまさかトビクラーを仕留めたの? あの時の?」
「いや、別のやつ。クタナツからだいぶ東だったかな。結構大きかったよ。」
「……やるわね。」
「はいお待ち!」
来た! でも軟骨が少ししかない!
「私はいらないからアンタ食べなさい。」
「私も軟骨はあんまり……」
やった! 独り占めだ。でも少し寂しい。
旨い! 焼けるのに時間がかかるから他の肉を食べているが。やはりトビクラーの肉は高級なのか。
よし、ついに軟骨が焼けた。
うん、旨い! 唐揚げで食べるのもいいが、焼いても旨い! 早くビールが飲みたいぜ! 後六年ぐらいかー。禁止されてないから今すぐ飲んでもいいのだが、成長が心配で飲めないんだよな。我慢だ!
こうして私達は最高のディナーを楽しんだ。
なお会計は金貨六枚と銀貨三枚だった。姉上としてはミノータウロスが高いのは想定内だが、トビクラーが予想以上に高かったらしい。美味しかったので私が払ってもよかったのだが、姉上の手持ちでどうにか足りたらしい。えらい持ってるじゃないか。ごっつあんです。
ちなみにオークのセットが銀貨一枚、ミノータウロスのセットが金貨一枚、トビクラーのセットが金貨五枚、軟骨が銀貨一枚。後は飲み物だ。
あ、しまった。宿を取ってない。夜のことを何も考えてなかった。
そもそも泊まるかどうかの判断を先延ばしにしてたので忘れていた。
「兄上が泊まった宿とか分かる? どうせなら同じ所がいいな。もしくはアレク、知ってる宿とかあったりする?」
「案内してもいいわよ。アレックスちゃんはどう?」
「私は知ってる宿などありませんのでお姉さんにお任せしたいと思います。」
こうして兄上が泊まったという宿に連れて行ってもらった。さて、空いてるかな?
到着。
「聞いてくるから待ってなさい。」
姉上が中に入っていった。
「残念、満室だったわ。他に行きましょ。」
「じゃあどうせなら高い宿でお願い。アレクに相応しい宿をね。」
「全く……無駄遣いしてんじゃないわよ。まあその方が空いてそうだしね。」
「カース、私はどこでもいいのよ?」
実は私が泊まりたいだけだ。ノミのいる布団なんて嫌だからな。バランタウンの宿がそうだったのだ。見た目はきれいだが少しノミがいた。すぐ丸洗いして乾燥魔法で皆殺しにしてやったが。布団は傷んだだろうが知ったことではない。
歩くこと十分と少し。昼に食事をした通りに着いた。なるほど、やはり高級エリアなのか。
「ここなんてどう?」
外見からは分からないが言われてみれば上品さが漂っている。看板は『辺境の一番亭』か。宿っぽくない外観だけど、他の宿もそうだしな。
「聞いてくるわ。待ってなさい。」
それにしても姉上の面倒見の良さに驚きだ。結構嬉しい。
「大部屋が空いてたわ。何人でも一泊金貨十枚よ。」
マジかよ……恐ろしく高い……
まあいい。これも勉強だ。
「了解。それなら姉上も泊まっていかない? たまにはいいんじゃない?」
「残念ね。無断外泊は厳禁なの。破ると大変なことになるわ。前日までに届けが要るのよね。」
「それは残念だね。明日はどうする?」
「それもだめなの。予定が入ってるわ。」
「分かった。今日はありがとね。明日の昼過ぎには領都を出ると思うから。あ、これお土産。」
そう言って魔力庫からエビルパイソンロードの皮を取り出す。
しまった。どうやって切ろう……
「これを使って。」
アレクが魔力庫からナイフを取り出した。業物のような雰囲気が漂っている。呪われてないだろうな?
「さすがアレク、いいナイフを持ってるね。」
「何言ってるのよ。カースがくれたのよ。サウザンドミヅチの牙を。」
そうだった。それからナイフを作ったのか。こんな業物になるとは。ナイフってより短剣かな。では早速……
すごい……私程度の腕なのに剃刀ように切れる。エビルパイソンロードだぞ? 恐ろしい……
コート三、四人分ぐらいの皮を切り分け姉上に渡す。
「ありがとう。とんでもない名前が出てきたけど面倒だから気にしないわ。」
「兄上とお揃いでコートでも作るといいと思うよ。オディ兄にはトビクラーでコートを作る予定だし。」
「カースが弟でよかったわ。今度来たら面白い魔法を教えてあげるわ。アレックスちゃんもまたね。私、年の近い妹が欲しかったの。オディロンは弟だしバカだし。」
「そんな……妹だなんて……私とカースはまだ……そんな……」
「アレクは姉上そっくりだよね。じゃあまた焼肉行こうね。」
宿の前で皮を出したり切ったりしたので少し注目されてしまった。早く入ろう。
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