バランタウンがグリーディアントに襲われ始めてから数時間が経つ頃、アランはグリードグラス草原にいた。石畳を敷設する職人達の護衛をしていたのだ。
そろそろ日が暮れ、今日も無事終わるか、虫の相手は嫌だな、なんて考えていた。
「伝令! バランタウンがグリーディアントに襲われているそうです! こちらの援護は必要ないが、そちらを助ける余裕もないとのこと!」
「ちっ、ついに来やがったか……ご苦労! あちらで食事でもしといてくれ。」
「さすが副長、予想してたんすか?」
ちなみに現在のアランは遊撃隊副長。騎士長直属の部隊だ。
「まあな。今日まで虫ぐらいしか問題がなかっただろ? そろそろ魔境がヤバさを発揮するんじゃないかとビクビクしてたのさ。」
「あー、魔境っすもんね。で、どうします?」
「職人を含めて全員集めろ。こっちに蟻が来るかも知れん、防衛だ。」
そして十分とかからず全員が集まる。
「聞いてくれ! バランタウンがグリーディアントに襲われている。と言うことはこちらも安全ではない! 大至急防御を固める必要がある!」
「指示をくれ!」
「あんたの指揮なら安心だ!」
「あんたが大将!」
「よし! 職人は石垣を組み立ててくれ! 南側にだ! 冒険者は職人の護衛だ! 虫も魔物も一匹たりとも職人に近付けるな! 騎士は集まれ! 個別に指示をする! さあ動け!」
『おお!』
そしてアランは騎士に一人一人指示を出す。
石垣の監督をする者、偵察に出る者。
襲来に備え休憩、食事をする者、様々だ。
そして三時間。いつも通り虫に悩まされながら待ち続ける。作業は順調に進み、いずれ作るはずだった場所に石垣ができつつある。
これがやがて大きく育ち、城壁となることだろう。
偵察に出た者は一時間に一度帰っては報告し、また出る。今のところ蟻の気配はない。
このまま何もなければよいのだが。
アランはまんじりともせず、時刻はすでに真夜中。
偵察からの報告も問題ない。
その頃、バランタウンから再び伝令が届いた。
「報告します! バランタウンでは収束に向かいつつあります。道中も蟻の気配はありませんでした!」
「よし! ご苦労! 寝てていいぞ! 職人を集めてくれ!」
「了解いたしました。」
そして職人達が集合する。
「みんな! 今日は助かった、ありがとう! 石垣もできたし危険度も下がった。手当は期待してくれ!私から騎士長にお願いしておく! 後は我々が警護するので、どうか休んでくれ!」
職人達はいい仕事をしたと、満足そうに寝床へと向かうのだった。
「さーて、このまま何もなければいいんだが……」
時刻は真夜中を過ぎた。
午前一時半ぐらいだろうか。
石垣付近に妙な音がした。
何かが落下したような音だ。
「こんばんは。こちらにアラン・ド・マーティンはおりますか?」
「何者か! 名乗れ!」
「失礼しました。私はアランの三男カースと申します。父がいるのならお取り次ぎをお願いできますか?」
「カース!」
「父上! 無事!?」
「お前、どうしてこんなとこまで!?」
「長くなるけど、夕方母上がクタナツに攻めてきた蟻の大群を全滅させたんだ! それからオディ兄が心配になったからウリエン兄上とバランタウンに行ったの。そこもさっき落ち着いたんだよ! そしたら父上はグリードグラス草原にいるって聞いたからついでに来てみたってわけ。
父上の心配はしてないよ。父上なら楽勝に決まってるよね。」
心配してないと言う割に第一声が『無事!?』だったりする。
「ふふっ、お前ってやつは。よく来てくれた。腹は減ってないか?」
「ぺこぺこだよ。夕方頃ギルドから帰ろうと思ったらこれだもん。」
「そうか、よくやったな。私も腹ペコだ。一緒に食べような。」
こうしてマーティン父子は真夜中の食事を楽しんだ。蟻はこっちには来なかったようで一安心だろう。で、巣は一体どこにあるのだろうか?
バランタウンでは代官レオポルドンが。
「諸君、今回はよく私のような素人の指示に従ってくれた。礼を言う。さすがは音に聞こえしクタナツ騎士団! こんなに指揮がしやすかったことはない。重ね重ね礼を言いたい!」
これにはレオポルドンに不満を溜めている騎士達も騒然とする。普段から歯に衣着せぬ物言いで反感を買っているだけに、わずかなお世辞も含まれてない賛辞に喜びを隠しきれないでいた。
「また各団長! 本来なら君達が指揮するべきところを私が出しゃばってしまったこと、申し訳なく思っている。結果に免じて容赦願いたい!」
「とんでもございません! 見事な指揮だったかと。これでクタナツも安泰ですな。」
「まったくです。騎士長にお代官、できることなら引退の日までクタナツに居て頂きたいものです。」
「詠唱の時間も考えた的確な指示でしたな。」
第一、第二騎士団長、そして魔法部隊長も本音を話している。
赴任から数年、ついに代官は騎士達の本気の忠誠を得ることができたのだ。
「そして勲一等は冒険者諸君! 君達の活躍が無ければ我々は全滅していただろう! あの強力な火球に始まりトドメに至るまで! 諸君の活躍を私は生涯忘れない! 勲章は分けられないが、賞金は分けられる。クタナツに帰った後、参加したみんなで分けて欲しい。十等星の子もいたと聞く、よくやってくれた!」
騎士ばかり褒められるのを面白くないと思いながら聞いていたら勲一等と言われた冒険者達。表情が緩むのを抑えきれない。
「もちろん素材も魔石も好きに集めてくれ! 全て君達の物だ!」
予想外の大盤振る舞いに冒険者達も声をあげて喜ぶ!
「代官ー!」
「アンタ最高だー!」
「代官フォーエバーラブだぜ!」
「いい指揮だったぜー!」
こうして代官レオポルドンの評価は一夜にして反転した。
杓子定規の出しゃばり貴族野郎から、自ら前線に立つやり手の代官へと。
残る問題はどこから、なぜ蟻が来たのか? ということだ。
グリーディアントが大群で押し寄せたという事は、何者かが奴等の獲物を奪ったという事だ。例えば何も知らない新人が自分の獲物を蟻に奪われて、ムキになり奪い返すケースがある。
今回はどうなのか。
蟻の巣を特定することも含めて慎重に調べる必要があるだろう。
果たしてオディロンの腕は関係あるのだろうか……
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