翌日、エリザベスは昼過ぎに目を覚ました。懐かしい自室。一体何年ぶりだろう。まだ寝ていたいが、そうもいかない。疲れた体を引きずって居間に降りていく。そこにはベレンガリアとオディロンがいた。キアラは学校だろう。
「姉上! 大丈夫なの!?」
「オディロン……久しぶりね。アンタの羅針盤とマリーのおかげで助かったわ。」
「エリザベスさん、食欲はありますか? なくても食べてもらいますけど。」
「ええ、ありがとう。いただくわ。」
それからエリザベスは分かる限りの状況を説明する。
「カースが……」
「あのカース君がそこまで……」
「ええ、カースの魔力が無ければ死んでたわ。その代わりカースは……バカな奴……」
「じゃあ姉上、あれをカースに届けてよ。母上の秘蔵のポーション。今のカースに効くかは分からないけど。」
「それがあったわね。王都にも行くことだしゼマティス家からもかき集めてくるわ。じゃあ私は寝るから。明日の朝出発するわね。」
「何もできなくてごめんよ。使い道があるかは分からないけど、これも持っておいて。」
オディロンが差し出したのは木製の籠手、脛当て、胸当て、胴巻、鉢金だった。
「良い物持ってるわね。借りておくわ。じゃあおやすみ。」
そう言ってエリザベスは自室へと引っ込んでしまった。かなり疲れていることだろう。
「ベレンちゃん……僕は何をするべきなんだろうね……姉が死にかけて、弟は意識不明。手を出せる範囲を超えてしまってるよ……」
「何言ってんのよ。オディロンの羅針盤のおかげでエリザベスさんは帰って来れたのよ? それに今はオディロンがこの家の主人よ? 旦那様と奥様がご不在のマーティン家を守ることが第一よ!」
「そうだね。キアラのこともあるし。僕がしっかりしないとね。」
「そうそう。独り寝が寂しいなら添い寝してあげるし。サービスしてあげなくもないわよ?」
「いや、それはいいや。むしろ嫌。」
オディロンはマリーの正体を知っても少し驚いただけだった。そもそも幼少期から外見が全く変わってないのだ。不思議に思わない方がおかしい。
それだけに子供ができないことにも納得していた。どうしても子供を切望しているわけではないが、愛する妻との間に子を望むのは自然なことだ。
つまり今後オディロン夫婦に子供はできないことが確定してしまった。それも少しだけショックではあるが、些細な問題である。オディロンにとってはマリーより優先するものなどない。
どうやら自分はマリーより先に死ぬことになりそうだが、それも些細なことだ……などと考えていた。
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