その夜、先生達は泊まってくださることになった。と言うより父上から道場が決まるまで泊まるよう頼まれたらしい。
これは嬉しい。今の我が家にはマギトレントの湯船があるのだ。ぜひ堪能していただきたい。
さて、私はマリーにより晩御飯抜きを言われてしまったので、別室にてマリーとお茶をしている。ご飯はダメだがオヤツはいいらしい。
「坊ちゃん、先程は見事な風操でした。発動するまで少しの気配もありませんでした。」
「そう? でもダメだったね。マリーほどの美人なら先生の気を逸らせるかと思ったけど。」
「先生は視線も興味も私に集中しておいででしたよ。その上で避けられたのです。本を読んでる最中、腕に止まった虫を何気なく叩く感覚に近いのでしょうね。」
達人すぎる。私の剣など虫に等しいと言うことか……何回凄いと言っても追いつかないな。
「さらに言いますと、先生は私が坊ちゃんにあれこれ仕込まれて自らスカートを捲るとお考えだったようです。ですから予想が外れ、ほんの僅かですが隙はできておりました。惜しかったですね。」
私がマリーを仕込むって何だよ。そんなハイレベルなプレイを子供に求めるなよ。先生はそっちも達人なのか。そしてマリーはなぜそこまで読み切ってるんだ?
我が家で最強なのは母上だと思っていたが、実はマリーだったりするのか?
はっ!? これもファンタジーあるあるだ!
長年仕えてくれている過去が不明の執事、もしくはメイド。その正体はどこかの国や組織に追われた暗殺者だったりテロリストだったりするアレだ!
そうなるとマリーの場合は逃亡の果てに捕まり奴隷となった所を父上に買われたってことになる。年齢不詳な所もあるあるに準拠しているし。私が小さい時から外見が変わってないし。
よし、思い切って聞いてみよう。
「ところでマリーの耳はどうしたの? 見た感じスパッと切られてるみたいだけど。」
「言いにくいことを聞かれますね。まあ大したことではありません。自分で切り取っただけの話です。旦那様にはもちろんお伝えしてありますよ。ちなみに理由は内緒です。説明に丸三日ぐらいかかるのが面倒だからです。」
「意外と正直に言ってくれるんだね。それだけ聞けば充分だよ。」
つまりマリーのいた組織では耳に特徴があるんだ。例えばピアスとか刺青とか。ところがそれだけを外すことができないから耳ごと切り落としたんだ。ならばそんな組織や地方、盗賊団とかを調べれば、マリーの素性は割れる。まあそんな面倒なことをする気はないが。
「そんなことよりたまには僕とも風呂に入ろうよ。」
時々オディ兄と風呂に入っているのが羨ましいのだ。
「もちろんいいですよ。お背中流しましょうね。」
マジか! 言ってみるもんだな!
そして浴室。肌寒くなってきた十月にマギトレントの湯船が暖かい。
マリーと一緒だ。
〜〜削除しました〜〜
そしていつもの大人達の夜。
「マリーはカースと風呂に入ったんだって? 珍しいな。」
「坊ちゃんから誘われたこともありますが、少し意地悪をしたくなったもので。」
「はっはっは。聞いたぞ、スカートを捲られて、それをジジイにバッチリ見られたんだってな。」
「そうです。あのような達人に鋭い目で見られてしまいました。だから熱くなってもう我慢できません。旦那様……」
「待ってマリー。我慢できないのは私もよ。アッカーマン先生の達人ぶりを目の当たりにしたんですもの。凄すぎるわ……」
「イザベルもか。よーし俺もジジイがクタナツに来てゴキゲンだからな。張り切るぜ!」
こうして三人のいつもの夜が始まった。客人がいるのに。
〜〜削除しました〜〜
翌日、学校にて。
「スティード君ー! 昨日ついにアッカーマン先生がいらしたよー! 稽古つけてもらったんだけど、凄過ぎてよく分からなかったよ!」
「おはよう。そんなに凄いんだ! 道場を開かれるのはいつぐらい?」
「それがまだ分からないみたいなんだよ。でも入門は許可してもらっちゃったよ! 気軽な感じだったよ!」
「うわーいいなー! 僕もお願いしてみてもいいのかなぁ?」
「いいと思うよ! 放課後うちにおいでよ!」
アッカーマン先生に習ったらスティード君がますます強くなってしまうな……
でも私だって負けん! マリーのご褒美を目指して頑張ろう。これは浮気ではない、ご褒美だ。オディ兄が羨ましい。
そして放課後、私とスティード君はメイヨール家の馬車で我が家に向かった。
アレクも来たそうな顔をしていたが、剣術の話なので口を挟んでこなかったようなのだ。なんと可愛いやつだ。
到着。今日は珍しくコーちゃんは家にいる。すっかりキアラとも仲良くなってくれたからだろうか。
おおっ、なんだこれは?
先生と奥様とキアラとコーちゃんで、狼ごっこをしてるのか?
「ただいま帰りました。」
「お邪魔します。」
「おおカース帰ったか。お前達もまざれ。今はキアラちゃんが狼じゃ。」
「「押忍!」」
さすがにキアラには追いつかれないぞ。
と思っていたら、意外と速い。ちょこまかと動いて近付いてくる。
しかも私を標的にしてるのか?
くっ、兄の意地にかけても負けられん!
逃げている最中に何かに足を取られた。これは!?
以前私が使った泥沼の小さい奴? しかも丁度私の足のサイズと踏み込みのタイミングまで合わせて!?
しかしそのぐらいで私の足腰は負けん!
必死に片足を抜いたらそこにも泥沼が!?
両足ともハマってしまった……
「カー兄つかまえたー!」
あえなくキアラに捕まってしまった……
こいつ、狼ごっこに容赦なく魔法を使ってきやがった。
その場で見ていると、次に奥様が捕まり、スティード君も捕まった。嘘だろ? キアラはまだ四歳だぜ?
先生とコーちゃんはちっとも捕まらない。
キアラはムキになって庭を丸ごと水壁で覆いやがった!上もだ!
その中に私達、先生とコーちゃんも含まれている。そしてキアラは水壁を少しずつ狭めて一網打尽を狙っている。本当に容赦ないな……
これには先生も逃げ場がない。
私達も水壁に囚われてしまった……なのに顔だけ空間が空いている。制御上手すぎだろ……
そう思っていたら、コーちゃんはいつの間にか外側に出ているし、先生は手の平で何かをして水壁に穴を開けていた……あれはゴモリエールさんの!?
そこに母上が現れた。
「こら! キアラ! 狼ごっこで魔法を使ったらダメって言ったでしょ!」
母上が何かをしたら水壁が消え去った。そしてキアラは頭から水球を落とされていた。
やはり子供への罰は頭水球なのか。
「ふぉっふぉっふぉっ。やはり面白いのう。良い子に育っておるな。」
「先生、この子ったらすぐ魔法を使うんですよ。お恥ずかしいですわ。」
やはりキアラは凄いな。勝てば官軍、いや国軍か。
「先生! 僕の友達です!」
「スティード・ド・メイヨールと申します。騎士を目指しております! 僕も先生の道場に通いたいと思ってます! 何卒入門のご許可を!」
「おお、ええよ。来い来い。あー丁度よい、お前達に剣術の心得を教えてやろう。聞きたいかえ?」
「「押忍!」」
「それはの。剣術は所詮遊びだと言うことじゃ。いや、剣術に限らぬ。食う寝る以外のことは全て遊びよ。だからほどほどにやるがよい。くれぐれも剣に命を賭けるようなバカになるでないぞ?」
すごい……すごくて分からない。これを私が言ったらみんなブチ切れそうだが、先生が言うと説得力が違う。
「そしてカースよ、お前はもう気付いておるじゃろう? 剣より大事な物などいくらでもある、そうじゃろう?」
「お、押忍。たぶんあると思います。」
「じゃろう? ワシもじゃ。剣などより女の方がよほどいいわえ。のうハルバート。」
「もう先生ったら。お弟子さんにそんなこと言ったらだめだよぅ。」
奥様はハルバートさんと言うのか。ハルさんだな。
「分かりました! ほどほどに無尽流を修めたいと思います!」
「押忍! 僕もほどほどに頑張ります!」
スティード君もやる気だな。試験なしで入門できるのは助かった。
それから私達は狼ごっこを日暮れまで続けた。結局、先生とコーちゃんは一度も捕まらなかった……
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