「ねえスティード君……お姉さんの言ったこと、どう思う?」
「え? どう思うも何も、そのままじゃないの? 結局エリザベスお姉さんは遥か北の山岳地帯から二週間でここまで戻って来たんだよね? たった二週間で……」
「そうね……でもカースなら二、三時間じゃない? つまりもし、今カースが目覚めていれば明日にはここに、私の側に来てくれるのよ。」
「そうだね。でもその仮定は無意味だよ。それより僕達、いやアレックスちゃんがどうやってお姉さんに付いて行くかが問題なんだよね?」
「そうね……」
そして翌日。エリザベスは朝食の時間に目を覚ました。多少は元気を取り戻しているようだ。
「何よエリ姉、元気じゃん。心配したのよ?」
「シャルロット……悪かったわね。ご執心のカースがヤバいのよ。なのに私はおめおめと生き残ってしまったわ。」
「エリ姉……」
「それよりエリザベス? オウタニッサがやってくれたわよ? 私達ウリエンさんを狙う女を集めて決戦よ。陛下の御裁可もほぼいただけるようだわ。」
「何よアンリエット、私はそれどころじゃないわ。それに今やったら全員同時に相手にしても私が勝つわ。延期しておいて。」
「エリザベス……本気でそんなこと言ってるの?」
「当たり前よ。今ならだけどね。」
「お姉さん、後で手合わせをお願いできませんか?」
アレクサンドリーネはエリザベスの魔力が変わったことが気になっていた。どことなくカースの魔力を感じるのだ。イグドラシルの結晶のことを考えると自然なことかも知れない。
「アレックスちゃんにしては珍しいわね。軽くならいいわよ。あまり魔力を使いたくないの。」
「ありがとうございます。」
そして朝食を終え庭に出る二人。アンリエット達は学校へ行ってしまった。アレクサンドリーネは今日は学校どころではない。
珍しく伯母マルグリットがその場に同席している。
「とりあえずアレックスちゃん、好きに撃ってくるといいわ。少しぐらい外しても伯母様が防いでくれるわ。」
「それはいいけど大きい魔法を使ってはだめよ? あまり広い庭じゃないんだから。」
「はい! いきます!」
『氷弾』
カースの頭や肩に乗った果物を正確に撃ち抜けるアレクサンドリーネだが、エリザベスには当たらない。胴体の中心を狙ったはずなのに脇をすり抜けてしまった。
『氷散弾』
『水球』
『風弾』
『風斬』
『火球』
「はい、そこまで。いくら庭でも火の魔法は困るわ。」
「ごめんなさい……」
マルグリットに制されてお開きとなった。結局エリザベスには横をかすめるだけで当たりもしなかった。
「アレックスちゃん。付いて来たいんでしょ? 残念だけど無理よ。理由は簡単、私の魔力が足りないからよ。カースと一緒にされては困るわ。」
「お姉さん……」
「私一人でさえギリギリだったのに二人なんて無理よ。それにアレックスちゃんを危険で汚い目に遭わせられないわ。領都まで、それが限界よ。」
「そうですか……」
「お昼には出るわ。領都ですら長旅なんだからしっかり準備しておくわよ。」
「はい……ありがとうございます。」
エリザベスがクタナツから王都まで要した時間は五日。王都からフランティア領都までは一体何日かかるのだろうか。
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