久々に無茶な魔法の使い方をしたから頭が痛い。砂漠などで、鉄を作る魔法『鉄塊』を使うのは容易いことだ。周囲にいくらでも鉄分があるのだから。しかし、ここのように海上で『狙撃』や『徹甲弾』などの『鉄塊』を基本とする魔法を使うと、かなり無駄に魔力を食ってしまうんだよな。その上、無茶な連射をしてしまったので脳みそが沸騰しそうだ。
今さらだけど魔法の制御って脳内で行われてるものなんだよな。
コーちゃんがヒュドラの肉片を食べている間に休憩しよう。海にプカプカ浮かんでクールダウンだ。
ちょっと疲れたから自動防御は解いたが、範囲警戒は張っておく。あー、太陽が眩しい。もうすぐ沈みそうだけど。
それにしても厄介な奴だったな。あれが普通のドラゴン並みに自由に空を飛んでいたら、もっと苦戦したんだろうな。ノロい奴でよかった。
「ピュイピュイ」
おっ、食べ終わったかい? よし、帰ろうか。アレクは大丈夫かな。筋肉痛ってポーション飲むのはよくないんだよな。自然に回復させるのが一番らしい。今夜はアレクにたくさん食べて欲しいぞ。野菜が足りないのはどうしたものか。
楽園の私の屋敷の前にはすでに何人か冒険者達が集まっていた。
「待たせたな。ちょいと食材を調達に行ってたもんでな。これを解体しといてくれるか? 今夜の肴だぜ?」
「うげっ! シーオークかよ!」
「海まで行って来たってのか!?」
「これは何だ? 初めて見るぞ!?」
「ギガントマンタじゃないか? 俺も初めてだ……」
「じゃあ頼んだぜ。」
ちなみに貝類は渡してない。解体するほどのものでもないからな。
さて、屋敷に帰ってきた。アレクは寝室かな?
いない。トイレかな?
いない。そうなると……風呂か?
いる!
私も入ろう!
「ただいま! 帰ったよ!」
「おかえりなさい。少しだけ心配したわよ。」
「ガウガウ」
カムイもただいま。こいつ風呂好きだよな。アレクと仲良く湯船に浸かってやがる。
「ピュイピュイ」
コーちゃんはカムイに何か言ってる。さあ、私も入るぞー! 今日は疲れたもんな。
「ふぅー。やっぱりお風呂はいいねぇ。」
「うふふ。そうよね。私も体の痛みが消えていくようよ。」
やはりマギトレントの湯船は格別だよな。あ、もしもイグドラシルで湯船を作ったら一体どうなるんだろう? すごく気になるぞ。それに、折れてしまった虎徹の代わりにイグドラシルで木刀なんて作れないだろうか? 村長に相談だな。まあそれはまた今度か。
「いやー、今日は疲れたよ! 後で話すけど凄かったんだよ!」
「そうなのね。楽しみだわ。カースったらいつも無茶するんだから。」
「ピュイピュイ」
ふふ、コーちゃんは美味しかったって? 後でカムイにもあげるよ。ヒュドラの肉って毒はないよな? 私も楽しみだ。
「ガウガウ」
今日も洗ってくれって? 大して汚れてないだろうに。贅沢なやつめ。
「ところでアレク。もう歩ける? 痛くない?」
「ええ。歩くのには問題ないわ。でもまだ足腰あたりが痛いわね。」
「そっか。それなら今夜は大人しくしてようね。僕に任せてよ。」
「え、ええ。カースに任せるわ……」
アレクがそんな可愛いことを言うもんだから……
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「ふぅ。お腹も空いてきたことだし、みんなでバーベキューといこうか。さっきの獲物は外で解体してもらってるから、もう食べられると思うよ。」
「はぁ……うん。私もお腹が空いたわ。獲ってきてくれてありがとう。」
「いっぱいあるよ。しっかり食べて強い体を作ろうね!」
「ええ……そしたらもっと……激しくできるかしら……」
さすがはアレク。探求に余念がない。いい子だ。
おお、さすがはここまで来るほどの冒険者達。だいたい解体は終わっているようだ。ならば焼くのは私が担当しよう。さっきまで乗ってた鉄ボードを浮かせて下には弱火で『火球』
焼きまくるぞ!
「魔王よぉ、マジで海まで行ったんか?」
「おお、行ったぞ。昼前に出てさっき帰ってきたな。あ、もちろん東のオースター海な。」
「マジかよ!」
「オースター海!?」
「どんだけ離れてると思ってんだよ!」
「この鉄板に乗ってたよな!?」
「魔法の鉄板かよ!?!
「いいや、普通の鉄板さ。『鉄塊』で鉄を出して『金操』と『点火』で成形しただけ。」
「わざわざこんなもんに乗らんでも魔王ならそのまま飛んだ方が速いんじゃねーの?」
それは多分そうだと思う。だが今となっては何かに乗ってないと落ち着かないんだ。姉上みたいに軽い木に乗るなら魔力の節約にもなるんだろうが。
「まあ色んな事情があるってことよ。普段はうちのかわいいアレクやカムイも一緒だしな。さあ、焼けたんじゃないか? 食べようぜ!」
「おーう!」
「酒は行き渡ったか?」
「いいぞ!」
「魔王! 挨拶しろよー!」
地域に親しまれ、皆様に愛される魔王か。
「えー、今日の良きに日に一組のカップル、いやパーティーがこの楽園を旅立つ運びとなりました。その餞としまして本日一席設けることとなりまして、昼からわざわざオースター海まで行って食材を獲得してきたぜぇー! 味わって食べろよ! 乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
あちこちでコップをぶつける音がする。今夜も三十人近く集まっているもんな。ちなみにほとんどの者が木製のコップを使っているが、私とアレクは違う。以前ホユミチカで土産を買った際に自分達用のコップを買っておいたのだ。陶器の少しお高いやつだ。うむ、酒が旨い。
「はいカース。」
「ありがと。美味しそうだね。」
アレクがシーオークの肉を取り分けてくれた。なんていい子なんだ。
旨い。魚のホロリと崩れる食感に豚肉の旨味。これには王都で買ったソースが合いそうだな。
「おーう魔王よぉ飲んでるかぁ!?」
こいつもう酔ってるのか?
「おう、飲んでるぜ。ディノ・スペチアーレを出してくれてありがとな。」
「なーに、いいってことよ。それよりもよぉ、こんな所にこんな豪邸をよぉ、どうやって建てたんなぁ?」
「この豪邸は発注しただけだぞ。フランティア領都のマイコレイジ商会に。」
「そんなこたぁ分あってらぁ! 費用だぁ運搬だぁどうやったかってこったぁな!」
酔いが回るのが早すぎじゃないか? 私はまだ一杯目がなくなってないってのに。
「費用は白金貨五枚だったかな。内装を含めたらもっとかかったぞ。運搬も何も魔力庫に入れただけだからな。まあトイレの浄化槽はそのまま運ぶしかなかったけどよ。」
「おま、魔王っ! 白金貨五枚だぁ? どっからそんな金が出てくるんなぁ!? そんだけあったらわざわざ豪邸なんか建てんでも遊んで暮らしゃあええだろうに!?」
「だからもっと稼ぐんだよ。もっともここで暮らすとするなら金なんか無意味だろ?」
「ギャハハ! さすが魔王だぜ! 容易くこれだけの獲物をとってきただけあるよなぁ!」
「全くだぜ! これで十等星って無茶だろ!」
「おう! そろそろランク上げとけよ! 俺らぁ上のモンが困っちまうぞ?」
「オメーなら楽勝だろぉ?」
「あー、まあアステロイドさんにもクタナツの次代を頼むって言われたからなー。ボツボツ上げてみようかとは思ったんだよなー。」
「そういやアステロイドさんって魔女様の召使いになったってホントなのか?」
「え? 俺は下僕って聞いたぜ?」
「マジで? 弟子じゃねぇの?」
「上手くやってるよなぁ……いいなぁ……」
下僕だとしても羨ましいのか。さすが母上。
「親衛隊って言ってたかな。たぶんアステロイドクラッシャー全員が。この前は王宮のパーティーで母上と踊ってた。」
「はぁ!? 王宮だぁ?」
「王都に行ってんのか!?」
「それが何で王宮なんかに!?」
「しかも魔女様と踊った!?」
長くなるが、じっくり話してやろう。酒の肴にちょうどいい。ついでに私の勲章も自慢しよう。アレクやアステロイドさんも勲章貰ってたしな。
「めちゃくちゃじゃねぇか……」
「そんなヤベー事件が起きてたんかよ……」
「偽勇者に教団かよ……」
「偽者じゃあ魔王には勝てんよなぁ……」
「とまあ、そんな訳でアステロイドさんも国王陛下から勲章を貰ったってわけ。アステロイドさんには俺も助けられたよ。」
ちなみに黒幕がエルフって話はしてない。私が黙っていても漏れる時は漏れるのだが、わざわざ無用な軋轢を生むこともあるまい。そもそもエルフの存在なんか疑わしいってのが常識だしな。
全員アステロイドさんの活躍に興味津々だ。来月の始めにはクタナツに戻ってくるから直接聞くといい。
さて、ここでもう一つ驚いてもらおうか。
「アレク、今日の話だけどね。こんな獲物を手に入れたんだよ。見て。」
「何かしら?」
鉄板から少し離れた所にドシン、とヒュドラを出す。頭を全て失い、足は一本だけ残っている。元々は何本足なんだろ? 胴体も半分ぐらいしかない。さて、何て魔物でしょう?
「うおっ、デケェな……」
「あん? この鱗って、まさか……」
「おい、ここって首だよな? 首の数が……五つ?」
「いや、それで半分っぽいぞ? なら首の数は……」
さすがにクタナツの凄腕冒険者達。本来なら私がタメ口きいていい相手ではないのだが、まあいいや。
「アレクは分かる? すっごい苦労したよ。」
「…………ヒュドラ…………」
アレクの一言で、その場が静寂に包まれた。
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