どうにかクタナツを脱出し、現在は夜の空、小粋に夜間飛行だ。
「カースよぉ、オメーの妹ぁどーなってんだ?」
「知らねーよ……」
「私も聞いてましたよ! フランツウッド王子がどうとかおっしゃってましたよね!」
ちっ、リゼットまで……
「つまりよぉ? オメーの妹は、気軽に王都に行けるほど魔力があって、第二王子とも縁が深ぇーってことだよな?」
「そうだよ……なぜかあのクソ王子の野郎……キアラに惚れたんだとよ……クソ王子がぁ……」
「ぎゃーっはっはっは! オメーら兄弟揃ってそっくりじゃねーか!」
「さすがカース様の妹様です! 王族すら虜にするってことですね! ちらっと拝見しましたが、快活で可愛らしい女の子でしたもの!」
「お、リゼット。よく分かってるな。そうだよ。キアラはかわいいよな。そりゃあ王族も惚れさせるよな。」
自分で言ってて悲しくなってきた……
キアラ……マジでクソ王子なんかと……わざわざ王都まで会いに行くぐらいなのか……お兄ちゃんは寂しいぞ……
「そろそろ着くぞ。うちの庭に降りるからな。」
「もう領都かよ。オメーってホントでたらめだな。」
「さすがはカース様です!」
夜間飛行をするのに『暗視』の魔法は最適だ。便利すぎる。覚えてよかった。さて、人知れず領都に帰るぞ。
『闇雲』
『隠形』
闇に紛れて庭に着陸。誰にも見られてないとは思うし見られても気付かれないとは思うが……
アレクはもう寮に帰ってるよな。
「帰って来れたか……領都によ。今度こそ親父殿に会いに行くぜ。カース、オメーも来てくれや。」
「ああ、行こう。リゼットも行くよな?」
「はい。ご一緒いたします。」
不意に玄関が開き、うちから飛び出してきたのはラグナだった。
「ダミアン! ダミアンダミアン! 無事だったんだねぇ! 心配したんだよぉ! ごめんよぉアタシがいなかったばっかりに!」
「おうラグナ。心配かけたな。俺ぁ無事だぜ。カースのおかげでよぉ。」
しっかりと抱き合っていやがる。正室のリゼットの目の前だってのに。どさくさに紛れてリゼットまで私に抱きついてきやがった。まあ、それぐらいは許してやるけどさー。
「おいダミアン、今夜辺境伯はどこにいるんだ?」
「ここ連日は行政府にいるはずだ。じゃあラグナ、行ってくるぜ。今夜はカースがいるから問題ねー。いい子で待ってな。」
「ああ、ボスぅ……ダミアンを頼むよぉ。」
「おう。任せとけ。」
敵はダミアンの無事はおろか、居場所すら確認できていないはずだ。このタイミングで辺境伯のところに訪れるのは悪い動きではない。無傷をアピールすることにもなるしな。あれだけの大怪我でも翌日に無傷で現れる。長男だか五男だか知らないが、かなりの脅威を感じることだろうよ。
夜道を三人で行政府に向かう。このメンバーで歩くってのも変な感じ。いや、コーちゃんもいるから四人か。
「それにしてもカースよぉ……やっぱオメーの母ちゃんすげぇよなぁ……」
「今さらどうした? そりゃ母上は俺より凄ぇーぞ。」
「俺らぁ滅多刺しにされたんだぜ? 即死じゃないのが不思議なぐらいによ? それがなぁ……どこにも傷痕が見つからねぇんだからよ……リゼットもだろ?」
「ええ、その通りです。本当にありがたいことです。」
「ピュイピュイ」
なになに? ふむふむなるほど。さすがコーちゃん。
「マジで死にかけだったみたいだな。コーちゃんが全力で命を繋いでくれてたみたいだぞ。反撃もしてくれてたみたいだし。」
「やっぱそうかよ。ありがとな。今度旨い酒持ってくるからよぉ、飲もうぜ。」
「ありがとうございますコーちゃん。大地の精霊フォーチュンスネイクって凄いんですね!」
「ピュイピュイ」
そんな話をしている間にもう着いてしまった。辺境伯邸は夜でも門番がいるのに、行政府にはいない。役所は日没とともに受付終了だもんな。
「開門だ!」
姿は見えなくても夜間対応ぐらいしてるよな。
「本日の受付は終了している! 明日参られい!」
「俺だ! ダミアンだ! 開けろ!」
「ふざけるな! ダミアン様は昨夜お亡くなりになられたわ! その名を騙っても無駄だ!」
は? 死体も確認してないくせに?
「バカ言ってんじゃねぇ! ここにこうして生きてらぁ! 足だってあるってんだ!」
「まだ言うか! 大人しく帰ればよい! さもなくばこの地でその名を騙ることがどれほどの重罪か思い知らせてやるぞ!」
どうなってんだか……
「まあまあ門番さん。こいつが本物かどうかせめて顔だけでも確認してみてはどうだい?」
「ちっ、まあいいだろう。」
そう言って通用門横の覗き穴が開く。
「…………ダミアン……様?」
「おう! 三男様だぜ。俺が死んだなんて誰が言った? 無傷でピンピンしてるぜ。さっさと開けな。」
そして通用門は開かれた。
慌てる門番を他所に中に入る私達。しかし、入って一分も経たないうちに騎士に取り囲まれてしまった……
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