私は上空を睨み、警戒を続けている。目視のみだ。魔力探査は行っていない。大物に備えて魔力を節約しておかなければならないからな。
時々ハーピーが飛んでくるが一匹たりとも通していない。全て下から氷弾で仕留めている。
「いい感じね。その調子よ。」
「押忍!」
母上に褒められると嬉しくなるのは小さい頃からの習慣みたいなものだろうか。やる気が出るわー。
「奥様。とんだことになりましたね。」
「魔境だもの。よくあることだわ。」
マリーが来た。どんどん戦力が整っていくではないか。こっち方面に割り振られた騎士や冒険者も集まってきたことで魔法使い達の出番は減りつつある。こうやって交代しながら戦わないと、すぐに戦線が崩れそうだもんな。
なんせ夜間警備の担当以外は昼間に働いたばかりなんだから。魔力もだが体力だって消耗してるよな。晩飯前ってこともあるし。嫌なタイミングで来やがるもんだ。
魔物の大襲撃は大抵冬だ。餌が少なくなって飢えた魔物がクタナツを襲うってパターンが定番なのだが。だいたい五〜二十年に一度ぐらいあるようだが周期が空くほど魔物の規模が大きくなるとか。今回は十年ぶりか……クタナツは大丈夫か? あっちの防衛も気になるな。いやむしろ、ソルサリエが一番ヤバいのか。さすがにそれぞれに任せるしかないだろうな。代官も頭が痛いだろうな。拠点が増えれば増えるほど防衛する兵力も分散するんだもんな。辺境伯に助けは依頼してそうなもんだが、あっちも大変だもんなぁ。フランティア領はどこもかしこも大騒ぎか。
こりゃあ南側の貴族はかなり面白くないだろうよ。あ、西のサヌミチアニもかな? でもあそこは国王が北に行く時だけは立ち寄りそうだな。このまま寂れていくのか?
ぼーっとこんなことを考えながらも私はハーピーを撃ち落としている。時折ボスっぽいのもいるが身体が大きいだけで特に問題はない。しょせんハーピーは空のゴブリンみたいなもんだからな。
「カース。相変わらず凄いな。魔力は大丈夫かい?」
「ああオディ兄。魔力は問題ないよ。こっち担当になったの?」
「ああ、マーティン家の力を合わせて守りきろうな。そのうち父上も戻ってくるだろうからさ。」
「うん。がんばろう!」
そう言ってオディ兄は前線へと向かった。オディ兄の乾燥魔法と圧縮魔法は恐ろしい威力だからな。洗濯やアイロン掛けを極めた先にそうなってしまうとは面白いこともあるもんだ。
さてと……ついに来たか……
私が人生で初めてギルドに持ち込んだ獲物、コカトリス。鶏みたいな外見のくせに優雅に飛んで来やがった。余裕かましてるようだが手加減なんかしないぞ。
『浮身』
下から一気に上昇し至近距離から……
『風斬』
母上の魔法を意識して薄く薄く、鋭く練り込んだ風の刃だ。
ギギィィボボァォプシュ……
首を落とすには至らなかったが致命傷だ。そのまま死ね。
「コカトリスが落ちるよー!」
本来なら浮身を使うところだが、その魔力すら節約だ。ついでに落ちる衝撃でトドメを刺すって意図もある。
首から血を吹き出しながら落ちるコカトリス。猛毒の血ではあるが下にいるのは凄腕の魔法使い達だ。放置でいいだろう。一声かければ十分だ。それより忘れてはいけないことがある。
コカトリスは番いで行動するってことだ。一匹仕留めたならば、もう一匹が来ることを警戒しておかないとな。
ほら来た。一回り大きいコカトリス。こっちがオスか? よし、コカトリオスと呼ぼう。
『ガバァァァオォォォォ』
石化ブレスかよ。コカトリスに手足を石にされた冒険者は何人か見たことがある。治るまでえらい時間がかかるんだよな。だが、そんなのくらうかよ。空中戦で私に勝てるつもりか? 鳥より早く飛ぶ私に。
たちまちコカトリオスの上をとった私は先ほどの要領で……
『風斬』
『風斬』
よし、致命傷だ。落ちやがれ。
「またコカトリスが落ちるよー!」
今度は私も下に降りよう。邪魔にならないように収納しておかないとな。
よし、最初の奴はきっちり死んでるし、今落ちた奴もそのまま死んだ。では収納、終わりだ。
「カース、収納したばかりで悪いけど大きい方のコカトリスを出してもらえる?」
「押忍!」
母上は何をするんだろう?
目の前に置いた全長十メイル程度のコカトリス、いやコカトリオス。私が切り裂いた首元から少し下を切り開き……何かの器官を取り出した。もしかして毒袋?
「もう収納していいわよ。悪いけどこれは貰っておくわね。使えるものは何でも使わないとね。」
「うん。もちろんいいよ。魔物に毒を使うの?」
「その通りよ。まだ使うほどの魔物はいないけど、念のためね。」
コカトリスは一応大物とは言えるが、ここにいる人間からすれば強敵ってほどでもない。地上から襲いくる魔物も他の魔物の死骸が自然と城壁代わりになり進撃が停滞している。このままであれば地道に退治するだけで済むのだが……
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