お昼ご飯。校庭では各学校のみんなや見物客が思い思いに昼食を食べている。何と屋台も出ている。
「サンドラちゃんの問題はどうだった?」
「意外と簡単だったわ。でも面白い問題も出たわよ。『十七頭の馬を長男に二分の一、二男に三分の一、三男に九分の一となるように分けなさい』ですって。一瞬困ったわよ。」
一瞬しか困ってないんかい。
ちなみに学校で分数は教えられてない。
「ええーそんなの無理だよ。十七は素数じゃん、分けられないよ。」
「おっ、セルジュ君は素数を覚えたんだね。でもこれ半分算数じゃないからね。むしろトンチが必要な問題だよ。」
「ええーカース君もう分かったの!?」
いや、知っていたのだ。ふふふ。
「そんな問題も出るのね。私には分からないわ。カース教えなさいよ。」
「また今度ね。今日の所は宿題ってことで。もちろんサンドラちゃんは解けたんだよね?」
「もちろんよ。十七は分けられない時点で他の解法を考えたわ。」
さすがだ。前世でこの問題を聞いた時には十五分かかってようやく解いたものだ。
さて、昼からはエキシビションマッチのような催しがある。希望者は会場にいる先生達に挑戦したり魔法の見本を見せてもらうことができる。
校庭のあちらこちらではそのような光景が見えている。
そんな時、何人かがこちらにやって来た。あれはフランティア本校のみんなかな?
「アレックス。そちらの皆さんを紹介してくださる? 優勝校クタナツの皆さんと交流したいらしくて。」
「いいわよ。みんな、彼女は私の幼馴染のソルダーヌよ。名前の通りフランティア辺境伯家の四女。そしてソル、この男の子は私の…………カース・ド・マーティンよ……」
アレクは顔を真っ赤にして私を紹介してくれた。なんて可愛いんだ。私なんか紹介する必要ないのに。
「僕よりスティード君とサンドラちゃんを紹介してあげてよ。」
「そ、それもそうね……クタナツ最高の頭脳、サンドラちゃんと最強の剣士スティード君よ。それからセルジュ君だって劣るものではないわよ。」
最高と最強か。でも五年生の中で、の一言が抜けているぞ。
それから交流は進み、剣術部門の代表バラデュール君はスティード君をライバルと見なしたらしい。学問部門の代表、イエール・ド・ファフネーズちゃんもサンドラちゃんをライバルと見なしたようだ。
私とセルジュ君は相手にされてないので二人でお喋りに興じている。
そこに……
「カース君は僕のライバルだ! 君より強い!」
どうしたどうした!? 珍しくスティード君がムキになっているぞ?
「カース君は私よりすごいのよ! 取り消しなさい!」
サンドラちゃんもどうした!?
「じゃあついでだから私も言っておくわ。私のカースはクタナツ最強の魔法使いよ。別に信じなくてもいいわよ。クタナツには魔女様がいらっしゃるしね。」
アレクまでどうした? こちらはムキになってはいないようだが。
「つまりそちらの男の子がクタナツの切り札って訳ね? 大会にも出ないなんて余裕ね。」
話がおかしい。クタナツの切り札な訳ないだろう。
「ソルダーヌ様、何おっしゃってるんですか。」
「優勝した三人を全部門で上回るって無理でしょー。」
当たり前だ。スティード君にもサンドラちゃんにも勝てる訳ない。一体どう話が転がったらそうなるんだ。
スティード君に聞いてみると……
「クタナツ校で他に強い人はいるかって話になったからカース君を挙げたんだよね。そしたら『どうせアレクサンドリーネ様の七光りじゃないの?』なんて言うものだからついムキになっちゃったんだ。」
サンドラちゃんは……
「私の知識の源はカース君だって言ったら『こんな時までお世辞言わなくてもよくない? それにアレクサンドリーネ様に言うならともかく、そのお付きの男なんかに気を遣っても意味ないよ?』なんて言うのよ! 何も分かってないくせに!」
なるほど。私のために怒ってくれたのは嬉しいな。
「うーん、二人ともそう言ってくれるのは嬉しいけど、あんまり無茶振りされると困るよ。アレクも。」
そこにソルダーヌちゃんが割り込んでくる。
「あらあら余裕なのね。アレックスがメロメロになるだけあるのかしら。興味が湧いてきちゃったじゃない。」
「ならソルダーヌ様、僕がやります!」
ターブレ・ド・バラデュール君も口を挟んできた。
「どうかしらカース君? ターブレ君と勝負してみない? こちらで言い出したことだから勝ったら賞品を出すわよ。勝てたらね。」
「賞品次第かな。僕の服装を見てくれる? そんな僕が欲しがりそうな物があるならやってもいいよ。」
今日はサウザンドミヅチのウエストコート、トラウザーズ、ブーツを身に付けている。これを装備してたら勝負にならない気もするが。
「何よそれ? どれだけお金を積んだらそんな服を作れるのよ。残念ながら賞品は出せないわね……あなたの力を見たかったわー。はぁーあ。」
そんな期待を込められた目で見られてもなぁ。
「じゃあ領都に小さい家を用意できる? 安くしてくれるだけでいいよ。それならやるよ。」
「いいわよ。あなたも卒業したら領都に来るの?」
「いや、アレクが行くから時々遊びに行く用。愛の巣かな?」
「そんなカース、ああ、愛の巣だなんて……」
おっと、またまたアレクが真っ赤になってる。
「じゃあやろうか。準備はいい?」
バラデュール君を見上げて尋ねる。
「いいぞ! どこからでっ」
いきなり虎徹で脛を打つ。
あっさり骨が砕け、バラデュール君は座り込んだ。
「まだやる?」
「くっ、開始の合図もしてないのに卑怯な!」
どの口が言うかな。
いいぞって言ったじゃないか。しかもわざわざ準備はいい? って聞いてあげたのに。
「じゃあまだやるんだね。」
虎徹を振り上げ頭を狙う。
「それまでよ! ターブレ君の負け。残念ながら卑怯とは言えないわね。家は用意するわ。値段はまた相談しましょ。」
「何よソル。諦めがいいのね。でもそれで正解よ。カースは容赦ないから降参しないと酷いことになるもの。」
そんな酷いことにはならないと思うぞ。
「あんまり高いのは無理だよ。金貨百〜二百枚ぐらいでお願いね。」
そこにサンドラちゃんが。
「女の子のために家まで用意するなんてますます大貴族オヤジになってきたわね。」
分かっている。金にモノを言わせてやるぜ。
「おっと、これを飲むといいよ。」
バラデュール君に高級ポーションをプレゼント。サービスだ。
「くっ、すまん。いただこう。」
「ターブレ君よかったわね。実戦じゃなくて。それにしても、よく普段からそんな高そうなポーション持ってるわね。」
「カースは凄いんだから!」
「でも春から心配ね。アレックスが領都に行ったら色んな男から狙われるわよ? そんなに何回も来れないでしょ?」
「そうだね。アレクはこの上なく可愛いからね。まあその辺は何とかなるよ。」
「違うわよ。そっちじゃなくてアレクサンドル家なんだからバカな男がたくさん寄って来るって意味よ。分かってるの?」
「ソル、クタナツの人間にそんなこと言っても通じないわよ。それに両親だってカースに一目置いてるの。変な見合い話を持ってくることもないわ。それよりあなたはどうなのよ? 気になる男の子はいないの?」
おっ、風向きが変わってきた。バラデュール君がピクッと反応したぞ?
これはどうなるどうなる?
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