そういえばマルグリット伯母さんもシャルロットお姉ちゃんもいないんだった。
夕食はギュスターヴ君と三人かと思えば、彼はすでに食べたらしい。広い食堂に私とアレク、そしてコーちゃんのみ。贅沢なようで寂しくもある。みんなの帰りは遅いだろうし、気にせず風呂に入って寝室に行こう。
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その頃王城では大勢の貴族が一堂に会し、賑やかながらもどこかしめやかなパーティーが開かれていた。昼間のパーティーに比べて料理の質は落ちるようだが、その代わり量は多く用意されていた。とは言ってもそこは貴族、このようなパーティーでガツガツと食べるような真似をする者はそうそういない。
例外は……キアラだ。
昼間のパーティー同様、小さな口に料理をたくさん詰め込んでモキュモキュと食べている。なぜアランやイザベルは注意しないのだろうか。
「あら? こんな小さい子まで出席してるのね? まあ、なんてはしたない食べ方をしてるのかしら? お里が知れますわねぇ?」
「本当にねぇ? いくら王都の貴族が総登城だからって来るべきでない家柄はありますわ」
「聞けば今回の騒動を解決したのは、あのクタナツの田舎者だそうじゃない? 疑わしいわよねぇ?」
「ええ本当に。王国貴族の誇りはどうなっているのかしら?」
「いくら数が多いと言っても所詮は平民の集団ですわ? 千だろうが万だろうが羽虫と変わりませんわよ」
「それもそうですわね。そんなことで功を誇るなんて所詮はクタナツの野蛮人。卑しいものですわ」
「おねーちゃん達は食べないの?」
「はあ? 私に言ってますの?」
「私達が立ったまま食事などあり得ませんわ?」
「あなたは空腹なんでしょ? 全部食べたらいいわ?」
「おねーちゃん達はお腹が空かないの?」
「別に空いてませんわよ」
「ほら、あっちに行きなさいよ。好きなだけ食べてればいいでしょ」
「まったくどこの子よ? 親の顔が見てみたいわ」
「親の顔? 母上ならあっちにいるよ。父上はそっち。」
キアラが指を向けた方を見る三人。
イザベルは男性貴族、アランは女性貴族に囲まれている。
「誰よ!? あんなに大勢いたら分かるわけないわ!」
「そもそもあなた名乗りなさいよ! 私達を誰だと思ってるの!?」
「私達三人とも伯爵家よ? 下級貴族風情が対等な口をきくんじゃないわよ!?」
「キアラ・ド・マーティンです。クタナツ学校の四年生です。おねーちゃん達は?」
「は? あなた思いっきり田舎者じゃない!」
「何でここにいるのよ?」
「さっさと帰ったら?」
「何で? まだお料理たくさんあるよ?」
「そんなことはいいのよ! 目障りだから消えろって言ってんの!」
「そうそう! クタナツだかアマナツだか知らないけどさ! 調子に乗らないことね!」
「どうせ食事もロクにとれない下級貴族でしょ? それ食べたら帰りなさいよ!」
「まだ帰らないよ? フランツ君が待っててって言ってたから。」
「はぁ? フランツ? なに色気付いてんのよ? あなたみたいな子供は帰って勉強でもしてなさい!」
「そもそもこんな子供に近付く男って何者よ? どうせ下級貴族でしょ?」
「家名を言ってみなさいよ! フランツ何て言うのよ?」
「知らなーい。カー兄は王子って呼んでた。」
「カーニイ? オウジ? 意味が分からないわ? 」
「カーニイワオウジ? フランツ・カーニイワオウジ? 知らない家名ね!」
「名前にドが付いてないってもしかして平民なんじゃないの?」
「王族って言ってたよ。」
「オーゾク? さっきからあなた何言ってるの? いい加減にしないと怒るわよ!?」
「オーゾクのフランツ……何か引っかかるものがあるわね。何かしら……」
「ねぇこの子頭おかしいんじゃない? もう放っておこうよ?」
「私おかしくないよ。一組で全教科一位だもん! あ、フランツ君!」
「待たせたなキアラ。さあ行こうか。」
「ちょっとアン……」
「オーゾク……フラン……」
「は、ははーぁ!」
一斉に膝を折る三人。ようやく気付いたらしい。
「カラン伯爵家所縁の者か。今宵は無礼講である。そのような無粋な真似をするでない。陛下がそうおっしゃっておっただろう?」
「し、失礼をしまし……」
「フランツウッド王子……」
「ところでこちらの子は……」
「これが見えぬのか?」
王子が指差した先はキアラの胸元。勲章が輝いている。
「はっ! 勲一等緋翠玉褒章!?」
「ひっ! じゃあこの子がクタナツの!?」
「氷獄の魔導士!?」
「いかにも。お主らの言動は全て私の影が聞いておったぞ? だが今夜は無礼講ゆえ構いなしとする。以後気を付けるがよい。」
「はっ、ははあ!」
「ご厚情に感謝いったぅし……」
「ありがとっご、ざいます!」
「ではキアラ、私と踊ってくれるかな?」
「いいよー!」
去っていく二人を呆然と見つめる三人。
「ねぇ、フランツウッド王子って婚約者がいらっしゃらなかったっけ?」
「いつの話よ? もう二年は前じゃないの?」
「そうよね……誰だっけ?」
「確か辺境伯家とかじゃなかった?」
「あー、思い出したわ。王国一武闘会にも出てたジャジャ馬女でしょ?」
「だから王子に捨てられたってわけね。バカな女もいるものね」
「バカで悪かったわね。」
突如独り言が聴こえた。小さいが通る声だ。
「ちょっと! 今言ったのあなたでしょ!」
「何か文句あるって言うの!?」
「私達は伯爵家なんだから!」
先ほどから五分も経ってないのにこの鳥頭っぷり。ちなみに彼女達は一歩も動いていない。
「あーら、おばさま達って口の割に耳はいいのね。羨ましいことだわ。」
「おばっ! キィー! 何よあなた!」
「名乗りなさい! 無礼者!」
「ちょっと高級素材のドレス着てるからって調子に乗って!」
「今夜は無礼講なんだから無礼でいいんじゃない? 今なら私をバカと言ったことも許してあげるわよ?」
「はぁ? 私? あなたどこの誰よ?」
「ちょっとキレイだからって自分が主人公みたいな顔して!」
「ちょっと高そうな首飾りを身につけてるからって調子に乗って!」
何が彼女達をそうさせるのだろうか。もう止まれないらしい。
「黙れ端女。こちらの御方をどなたと心得る。この紋章が目に入らぬか! 恐れ多くもフランティア辺境伯ドナシファン閣下が四女ソルダーヌ様であらせられる。今宵は無礼講ゆえ、一言謝れば許すとお嬢様は言っておられる。返答はいかに!」
エイミーだ。今夜の彼女は男装。しかし胸元は隠しきれても整った容貌、鋭い目つきは隠しきれず……ある意味ではソルダーヌより注目を集めていた。
「へ、辺境伯……」
「辺境の英雄……」
「の四女……ジャジャ……」
「残り五秒!」
「ご、ごめん、なさい!」
「ち、違うんです! ごめんなさいんです!」
「ちょ、ちょっとまっ、が、のめんなさい!」
「そう、仕方ないわね。なら許してあげるわ。でもあなた達って懲りなさそうね。せいぜい気を付けてお喋りすることね。行っていいわよ?」
彼女達は見事に息の合った動きでソルダーヌの前から消えていった。
「ソルダーヌ様、本当のことを言わなくてよかったのですか? あのような不名誉な……」
「いいのよ。その方がカース君の同情を引けるかも知れないし。それに王家の名誉を傷付けるわけにもいかないものね。」
「かしこまりました……」
教団の騒動で貴族達もストレスが溜まっているのかも知れない。ソルダーヌの心境はストレスでは済まないというのに。
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