髪をかき上げながら声をかけてきたのはアレックスだった。
「マーティン君だったわね。貴方さっき面白いことを言ってたわよね。狼ごっこ無敵とか。
あれは私に対する挑戦よね? 受けて立つわ!」
できる女は行動が早い!
ふふふ、面白い!
「やあアレックスちゃん。挑戦じゃないよ。お誘いだよ。一緒に狼ごっこしようよ。」
少々馴れ馴れしいが子供なんだし別にいいだろう。
付かず離れずを決意したことなど忘れよう。
「むむっ! 初対面で愛称呼びとは……さすが好色騎士アラン卿のご子息ね。
しかもお誘いだなんて……」
マジか、父上ってそうなのか。
いや、若い頃の話かも知れない。
「公職? 騎士はみんな公職なんじゃないの?」
五歳に好色を理解できるわけないだろ。
まあ公職もなお理解できそうにないが。
「騎士はみんな好色ですって? そんなことあるわけないわ!
そんなの王都の西や南方の騎士だけよ!」
そうなのか。
「ふーん。そんなことより狼ごっこしないの? みんなでやらない?」
「み、みんなでやる、で、ですって!? 何て破廉恥な!」
だめだコイツ、五歳でどんな発想してんだよ? 姉上に近いのか……
「はれんち? って何? 狼ごっこやらないの?」
「そ、そうよね! 狼ごっこの話よね! もちろんやるわよ! 明日の放課後よ!
他に誰か呼んでもいいのよ!」
「うん、みんなでやろうね!」
やっぱり友達がいないのか。
セルジュ君達に声をかけておこう。
「じゃあアレックスちゃんまた明日ね。
僕のことはカースでいいよ。」
「ふふん、いい心がけですわ。カースと呼んであげます。ではまた明日、御機嫌よう。」
呼び捨てかよ! 確かにそう呼べとは言ったけど!
今度こそ帰ろう。父上とマリーが待っている。
「父上お待たせー。ちょっと話し込んじゃった。」
「おおーもう友達ができたか。えらいぞ。
セルジュ君達以外なんだろう?」
「うん、アレクサンドリーネちゃんて言う女の子。アレクサンドル家だって。明日狼ごっこするの。」
「おっ、女の子とはやるじゃないか。
しかもアレクサンドル家ってことは騎士長の娘さんだろうな。」
「へー、アレックスちゃんも父上を知ってたよ。こうしょく騎士なんだって。父上は有名なんだね!」
「う、うむ、昔のアダ名だな。大昔のな。」
(さすが俺の息子、初日で騎士長の娘と仲良くなるとは。まああのオッサンは堅物だからな。娘もどうせガチガチの貴族娘なんだろうな。何にしてもカースが楽しく過ごせそうで安心だ。)
父上がやけにニヤニヤしているな。我が子の入学が嬉しいのかな。
今日から通常授業が始まる。
一時間目は国語だ。
先生が教壇に立ち、白板に黒で字を書いていく。技術的には黒板でも白板でも作れるらしいが、白いチョークを作るより黒いチョーク風の何かを作る方がコスト的に安いらしい。
ウネフォレト先生がローランド文字を五文字ほど書いていく。
「さあみなさん、国語のお勉強をしますよ。
先生が書いたこの字を一緒に声に出して読みましょうね。」
平仮名にあたるのが、ローランド文字。
そして漢字にあたるのか、神代文字である。
神代文字の歴史は古く、ローランド王国の歴史は三百年ぐらい、その前に戦乱の時代、さらにその前の統一王朝時代以前から使われているらしい。
「あ・い・う・え・お」
これは日本語の平仮名のように見えるがローランド文字なのである。
発音も『あいうえお』とは違うが、もちろん楽勝だ。
このように誰も脱落することなく国語の授業は終わった。
次は算数だ。
「みなさんはあまり買い物をしないと思うけど、算数ができないと買い物もできないの。欲しいものが買えなかったりするから、まずは数えることから始めようね。」
貴族が多いクラスだからな、自分でお金を使うことは少ないだろう。私も今のところない。
先生は白板に数字を五つ、その下に丸を数字の数だけ描いていく。
「これは数字と言います。数を表す時はこの文字を使うのよ。
じゃあ声に出して読んでみましょうね。」
数字はアラビア数字そっくりなので私には楽勝だ、ありがたい。
さらに都合のよいことに十進法だったりする。
この授業も脱落者など出ず、全員クリアしたようだ。と言うのも先生は一人ずつ声に出させて読みを、ノートをチェックしては書き方を確認していたからだ。
ちなみに教科書はない、あるのは自前のノートのみだ。
次はお待ちかね、魔法の授業だ。
「今日からみなさんに魔法を教えるナタリー・ナウムです。楽しくお勉強しましょうね。」
入学式で進行をしていたおばさん先生だ。
「今日は最初ですからみなさんの魔力を計っておきましょうね。
これは『標準魔力検査球』と言いまして、これに手を乗せてみなさんの魔力を計ります。
これに手を乗せますと、魔力量に応じて黒色が段々と薄くなります。
早速アレクサンドルさんからいきましょう。」
そう言って先生はサッカーボールぐらいの真っ黒な球を取り出した。
「さあ手を乗せて、心を落ち着かせてください。
はい、アレクサンドルさんの魔力量は五ですね。
では次は…………」
真っ黒な球がガラスのように透明になる様子は中々に美しい。
結果、貴族は全員五、平民組も三、四、五ぐらいで二以下はいなかった。
「みなさん終わりましたね。魔力量は少なくても問題ありませんが、多いと便利です。
次回は半年後に十まで計れる魔力検査球を使いますので、それまでにたくさん増やせるよう頑張りましょうね。
それでは明日からは魔力を増やす授業を行います。大変ですがクタナツ人の皆さんならきっと大丈夫です。
ではまた明日、御機嫌よう。」
なるほど、なるべく差がつかないよう小さく刻んでいくのか。
半年後が楽しみだな。
さあ、お昼の時間だ弁当だ。
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