異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

145、首輪と密会

公開日時: 2021年3月24日(水) 10:54
文字数:2,807

殺し屋騒動から数日後。

ある日の夕食、母上が何かを私に寄越してきた。


「待たせたわね。一ヶ月って言ったのにだいぶ過ぎてしまったわ。ごめんなさいね。」


「あっ、もしかして! 循環阻害の首輪?」


「そうなの。これは『循環阻止の首輪』、別名『魔法使い殺し』よ。」


さっそく付けてみる。

うわっすごい。初めて錬魔循環をした時のような重苦しさがある。全然魔力が廻らない。

以前は重いコンダラを押すように感じたが、今回は立ち往生したトラックを押すように感じる。


「母上ありがとう! すごいねこれ。かなりいい練習になりそうだよ。錬魔循環からじっくりやり直すね。」


「それがいいわね。まだまだ魔力が上がるわね。どこまで行ってしまうのかしら。」




早速やってみた。

髪の毛のような細い魔力が、ナメクジより遅いスピードで体内を廻っている感覚だ。

これはきつい。小さい頃を思い出すなぁ。

思えば母上の経絡魔体循環は地獄だったよなぁ……あれよりだいぶマシだな。


しかしこのままでは日課の魔力放出ができない。いや、その時だけ外せばいいのか。


私の魔力庫は接触していれば使えるタイプなので首輪を外さなくても収納できる。魔力が廻りにくいので収納するのも一苦労だが。

ちなみに装着はできない。木刀を手に出すことはできるが、服を体の表面に沿って出すことはできない。

つまり、どこでも一瞬で裸になることもできる。

さらに言えば人知れずパンツだけを脱ぐこともできる。履けなくなるのが難点だが。


いかんな……変態魔法に磨きがかかってしまっている。


例えば肛門魔法だが、今ではただ勢いよく水を出すだけでなく、肛門付近で激しく回転させることもできる。制御が未熟な者がこれをやると汚い水がトイレ中に飛び散るだろう。

さらに火の魔法を使わずとも温水が出せるようになった。これは風呂にも有効で、最近は沸かし過ぎることもない。

また、乾かすにも手を使う必要がなくなった。肛門で乾燥魔法を使うことにより解決したのだ。

もちろん肛門から温風だって出せる。


やはり変態か……


まあいい。今日から当分の間は地道に錬魔循環だ。頑張ろう。




翌日の朝。


「おはよう。あら? カース君それって……」


「おはよ。分かる? さすがサンドラちゃん。循環阻止の首輪、昔つけてた循環阻害の首輪が効かなくなったもんでさ。」


「だからってそれを付けるなんて、やっぱりぶっ飛んでるわね。

でもそれ高かったんじゃない? よく買ってもらえたわね。」


「どうなんだろう? よく分からないよ。まあ買ってくれたってことは安かったんじゃないかな?」


何となく自分で金貨五枚を払ったことは内緒にしておいた。


「ふーん、安かったのー。アレックスちゃんに聞いたら何て言うかしらね?」


うっ、久々の名探偵モードか。いつだったか金操のことでついた嘘を暴かれてしまったんだよな。サンドラちゃんは趣味が悪いよなぁ。でも何でこんなに鋭いんだ?

私の嘘が下手なのか?


「アレックスちゃーん、おはよう。見て見て、カース君のこれどう思う?」


「おはよう。あら、カースどうしたの? 循環阻止の首輪なんか付けて。寝ぼけてうっかりお家を灰にしたとか?」


「それは置いといて、これっていくらに見える? カース君たら安物なんて言うのよ。」


「確かにカースから見たら安物ね。金貨十枚ぐらいかしら。」


「えっ!? これ金貨五枚だったよ!?」


「そっかー、カース君って金貨五枚は安物なのねー。金貨十枚の剣も安物って言ってたもんねー。」


もうバレた。

口が滑ってしまった。

くそぅ。


「サンドラちゃんは鋭いよね。まるで嘘を見抜ける個人魔法でも持ってるみたいだよね。」


「ギクッ! バレたのなら仕方ないわね。だから私に嘘をつかない方がいいわよ。」


「えっ!? 本当に? 持ってるの? すごいのね。」


「もーアレックスちゃんは騙されやす過ぎよー。だからカース君に引っかかるのよー。」


意外と本当っぽいな。余計なことを言わなければよかった。

それより私は何かアレクを騙したのか? 風評被害がひどいぞ。


「さ、サンドラちゃん、カースは私を引っ掛けたりなんか……むしろ私が……」


「はいはい、もちろん知ってるわよ。そしてカース君はそんなアレックスちゃんが可愛くて仕方ないって事もね。あー朝から暑いわー。」


全くその通り。

こんな単純なアレクは可愛いのだ。





放課後、珍しくサンドラちゃんが来て欲しいと言うので馬車に同乗した。

着いた先はタエ・アンティだった。


「今日は私の奢りね。でもコーヒーはだめよ。」


「じゃあホットミルクにしようかな。で、何事だい?」


「大したことじゃないわ。バレてしまったようだからきちんと伝えておこうと思っただけ。個人魔法をね。」


「あら、やっぱり持ってるんだ。なら聞かせてもらおうかな。」


「嘘が分かるのは本当。でも悪意のない嘘限定なの。」


「よく分からないね。例えばどんな感じ?」


「カース君の話って下らない嘘が多いじゃない? 冗談とも言うけど。あれなんか全然悪意がないわよね。だからすぐ嘘って分かってしまうの。面白いから嘘って指摘する気もないわよ。」


面白いのか下らないのかどっちだ?


「うーん、分かるような分からないような。

じゃあ、算数だけど教えることがまだまだたくさんあるんだよね。」


「嘘ね。教えることはありそうだけど、たくさんはないのね。残念だわ。」


正確にバレてる。この一年教えたらもう教えることがない。


「サンドラちゃんはアレクと同じぐらい可愛いね。」


「嘘ね。可愛いって言ってくれたのは嬉しいけど、アレックスちゃんと同じぐらいが嘘ね。」


「やっぱり正確なんだね。悪意のある嘘は見抜けないのが惜しいね。」


「まあ個人魔法だしね。そんなものよね。はっきり分かるようになったのも最近だし、それに勝手に嘘を判定して魔力を消費するのよ。相手によっては全く反応しないってこともあるし。」


やはり個人魔法は役に立たないと言われるだけあるな。


「でも何でわざわざ言ったの? 黙ってれば分からないのに。」


「カース君はダメねぇ。女が聞いて欲しいって言ってるんだから黙って聞いてればいいのよ。」


おお? 淑女レベルが上がってる?

しかしこれは淑女と言うより……悪女?

本当に九歳か?

どいつもこいつも……子供らしさを忘れないで欲しいものだ。


「ところで、この話は僕達だけの秘密?」


「カース君はどうしたいの?」


「どうしたいってことはないよ。わざわざバラす必要なんてないし。せいぜいアレクに言うぐらいかな。」


「やっぱりカース君はダメねぇ。こんな時に他の女の話をするなんて。じゃあ私達だけの秘密よ。誰にも言わないでね。」


「分かった。秘密ね。」


おかしいな。

こんな妖艶な九歳がいるか?

どこの悪女だ。


「今日はありがとう。お礼にカース君の秘密も黙っててあげるね。」


「それは助かる。じゃあ帰りは歩くからいいよ。やっぱり馬車は嫌だわ。また明日ね。」


私の秘密って何だ?

肛門魔法を知られたら生きていけないぞ?

これは悪女のテクニックと見た。気にしなーい!

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