夕食前に父上が帰ってきた。昨日の夜は遅かったようだが、今日は早いな。
「おージジイ、元気そうじゃねーか。」
「お前こそ立派になりおって。あの悪たれボウズが……一人前になりおって!」
あっ、父上がすごく嬉しそうだ。
「この子達を見れば分かる。お前は立派な親になったのだな。ワシは嬉しいぞ。」
「ジジイ……」
父上が感極まってる……
私も嬉しい……
母上もウルッときている。
「さあさあ飲みましょう。久しぶりの再会に乾杯しましょう!」
母上の言葉からパーティーが始まった。
私とキアラは隅で食事をしているが、大人達はかなり飲んでいる。父上は相当嬉しそうだ。
母上も奥様と話が弾んでいるようだ。マリーもその間をテキパキと給仕している。
先生も嬉しそうだ。アランアランと目を細めている。
「よしジジイ! 風呂に入るぜ! 背中を流してやる!」
「おう! 贅沢な風呂を作りよって!」
二人は風呂に入っていった。師弟の絆を感じるな。
「でなぁ先生はなぁあたしに言ったんだよぅ。」
「ええ、ええ、そうなんですか。羨ましいですわ。うちのアランだってすごいんですわよ?」
「聞きたいなぁイザベル様ぁ。アランさんは渋くてカッコいいよなぁ。あたしだって先生がいなければクラッと来たかもしんねぇよぅ。」
「そうでしょそうでしょ。アランは最高なんですのよ。」
こっちは母上のノロケか。父上はモテモテだな。
あっ、父上達が出てきた。
次は母上達が入るのか。なら私とキアラはその次だな。と思っていたらキアラが眠そうだ。ならば。
「母上ー、キアラも入れてあげてー。」
風呂に突入だ。どさくさに紛れて奥様の裸体を見てやった。役得だ。
ふう。父上達は場所を移して飲んでいるようだ。またマリーと風呂に入りたいが、さすがに昨日の今日で言い出せないな。
大人しく一人で入ろう。
いやこんな気分の時は外だ。空中露天風呂だ。
ホットミルクを用意して久々の鉄湯船を出す。外ではコーちゃんが銀湯船に悠々と浮いている。
私が外に出るとコーちゃんはピュイピュイと声をかけてくれた。よし、行くぞ。首輪は外さない!
くっ、これはきついな……
全然ゆっくりできないじゃないか!
家の屋根程度の高さでもう限界が来そうだ。
無理だ、降りよう。
ふう、大惨事にならなくてよかった。まあ首輪ありでここまで浮かせただけでも良しとしよう。
銀湯船の隣に下ろしてコーちゃんと戯れようかな。コーちゃんはいつも可愛いなぁ。星空が綺麗だなぁ。うん、ホットミルクが美味しい。
星空を見て思いついた。
別にマリーでなくてもプロのお姉さんがいるではないか。私の童貞はアレクに捧げたいが、それまで違う方法で遊ぶのはアリだろうか……ナシだな。さすがにこの歳から娼館通いなんかしたくないな。
でも時々マリーが気まぐれを起こしてくれることぐらい期待してもいいよな?
次の日、先生と父上は早々に出かけて行った。何でも候補地をいくつか見て回るらしい。道場ができるのは嬉しいが、先生が居なくなるのは少し寂しいな。
まだ二泊しかされてないのに、長い間うちに居たように感じるのだ。
今日もいい天気だ。さわやかな登校だね。
「スティード君おはよ。昨日は楽しかったね。」
「おはよう。アッカーマン先生は凄かったけど、キアラちゃんの魔法もかなり凄くなかった?」
「あー確かに。狼ごっこにあの魔法はやり過ぎだよね。そりゃ母上も怒るよね。」
「おはよー。狼ごっこしたの? 呼んでよー。」
「あーセルジュ君おはよ。昨日うちでね、無尽流のアッカーマン先生と狼ごっこをしてたらキアラが大きい魔法を使ってめちゃくちゃにしたんだよ。」
確かにあの展開はセルジュ君も呼ぶべきだったな。いや、待てよ?
「多分だけど、新しい道場ができたら入門者が殺到すると思うんだよね。そこで先生は全員に狼ごっこをやらせそうな気がする。楽しめそうじゃない?」
「面白そうだね。剣術はともかく狼ごっこには参加したいよ。」
面白くなりそうだ。セルジュ君はスティード君がいるから目立たないが、体育の成績は悪くない。体は太いが基礎体力はバッチリある方だ。鍛錬遠足だって最後まで自力で歩き通したのだから。魔法だってそうだ。先日、学校生活最後の測定があったのだが……
私、アレク、セルジュ君の三人だけが一万だった。
スティード君は五千と少し、サンドラちゃんは六千と少しだったのだ。つまりセルジュ君は五人の中で学問・魔法・体育の合計点が上位に位置している。もしも私達四人がいなかったら総合で学年トップだったかも知れない。
そんなセルジュ君が道場に来るとは。面白くなりそうだ。
そして放課後。
今日はアレクとデートがてら靴と帽子、ベルトを受け取りに行く。
帽子とベルトはファトナトゥールだが、靴は靴屋だ。
まずは靴屋から行こう。
やはり一番街にある『チャウシュブローガ』だね。ここの店主はおじいさんなのだが、名人と言われているらしい。
「こんにちはー。」
「こんにちは。」
「いらっしゃい。できてるよ。」
「ありがとうございます。」
早速履いてみる。
おお、履きやすい! なのにピッタリとフィットしている!
今回頼んだのはウエスタンブーツに近いもので、普段私が履いているものに寄せてもらった。色は黒、トラウザーズとの相性もバッチリだ。靴底はお任せで魔物素材、丈夫で柔らかい骨がオススメらしい。それ以外はサウザンドミヅチだ。これで暑さや汗に悩まされることはない。素晴らしい靴ができた。
「最高です! ありがとうございました! またお願いいたします!」
「いい仕事をさせてもらったよ。いい素材が手に入ったらまたおいでね。」
次に私達はファトナトゥールへと顔を出す。
「こんにちはー。」
「こんにちは。」
「いらっしゃーい。できてるよー。」
どれどれ。早速かぶってみる。ベルトは収納しておこう。
ボルサリーノの中折れ帽に近いデザインだ。黒地にぐるりと巻かれた灰色の飾り布がいい感じだ。
「似合ってるわね。なんだか渋みが出てきたわよ。」
「えへへ、そう? ありがと。」
確かにこれはかっこいいな。今気付いたけど、これは夏には向いてないか……
サウザンドミヅチの革なので温度調節が効く。よって夏でも問題ないのは問題ないが……見た目が暑苦しいかな?
さあ、次はアレクだ。
真っ白で鍔が広いエレガントな帽子だ。高原の避暑地を歩くお嬢様がかぶっていそうだ。
「うわー、すごく似合うね。そのまんまだけどお嬢様って感じがするよ。当たり前だよね。」
「ふふ、ありがとう。いい感じね。」
これでコートと帽子がお揃いだ。デザインも色も全然違うが同じ革から作られた逸品だもんな。
それにしても皮なめしから始めてるのに一ヶ月かからないなんてどうなってるんだ? やはり魔法で解決しているのだろうか。すごいものだ。
ついでなので、手袋を発注しておいた。これで全身がサウザンドミヅチだ!
もちろんシャツや下着は除く。
手袋はアレクと全く同じになるよう注文しておいた。またまた楽しみだ。女の子を着飾らせるのがこんなに楽しいとは知らなかった。アレクも喜んでいるし、いいよね。
またサンドラちゃんにオッさんと言われるのだろうか。そうだよ私はオッさんだよ。
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