結局昨日は焼肉の後、ダミアンの部屋に場所を変えて飲み直した。親父殿の酒だ、なんてダミアンはスペチアーレシリーズの初期の作品を持ち出して来やがった。これはすごい。楽しく飲んでいたらラグナとダミアンがイチャイチャし始めたからさっさと帰った。もちろん私達も帰ってからイチャイチャした。
そんな翌日、パイロの日。今日もアレクと過ごせるのだ。何をしようかな?
そうだ! 劇場だ! いつかのようにみんなで劇場に行こう。
『リリスー。今日たぶん劇場何かやってるよな? 貴賓席とっておいてくれない?』
リリスは魔力が高いからな。伝言の魔法が届くんだよな。便利ー。
数分後、リリスが寝室に現れこう言った。
「かしこまりました。」
まあ貴賓席が空いてなかったら一般席でもいいよな。
「おはよう。リリスが来てた?」
「おはよ。ちょっと呼んだからね。今日は劇場に行こうよ。」
「それはいいわね。楽しみだわ。」
さてさて朝食だ。マーリンも劇場に誘おう。
「まあ! またいいんですか! ありがとうございます!」
当然旦那のオリバーさんも呼んでいい。
「ただいま帰りました。貴賓室とれました。本日の公演は午前十時からです。」
ちなみに、領都の自宅にも『時の魔道具』を置いてある。日付も時間も間違えないのだ。
「分かった。ありがとな。リリスも行くよな?」
「ありがとうございます。お邪魔させていただきます。ちなみに今日の演目は『悪役令嬢サンドラの憂鬱』です。午前、午後、夕方と三回に分けて全部上演するそうです。」
それはいい。結末を見てなかったんだよな。いやぁ楽しみだな。
第一幕、第二幕が終わった。ストーリーは前回と同じだが、映画ではないので当然セリフや動き、そして役者の熱が違う。これはこれで面白い。やはり演劇はいいものだ。
そして貴賓席では出前も取れる。ここは贅沢をして高級店『ベイルリパース』にお願いしてみた。
五人分で金貨百二十五枚。出前料を含んでいるとは言えすごい値段だ。でもみんな喜んでくれたので問題ない。
そしていよいよ第三幕が始まる。
極寒のムリーマ山脈を越えての逃避行。庭師オリーと公爵令嬢サンドラは手に手を取り危険な冬山を越えようとしている。襲いくる魔物、手練れの追っ手。それらから見事サンドラを守りきり、ついにダイヤモンドクリーク帝国へと辿り着いた二人。
胸が熱くなる展開だ。しかしそれからがまた凄かった。庭師オリーはダイヤモンドクリーク帝国の長男と名乗っていたものの、王子ではなかった。王子として認められているのは双子の弟オルランドだったのだ。
しかしオリーことオリベイラを兄と慕うオルランドは協力してサンドラを捨てたユムネホフ王国に復讐することを誓う。
国力で遥かに勝るダイヤモンドクリーク帝国である。たちまち王宮まで攻め込み陥してしまった。
そしてサンドラを捨てたハインツ王子とオリベイラの一騎打ち。わずかな傷だけを負い見事ハインツを切り捨てた。これにて一件落着かと思ったら真の悪役令嬢『フランソワ』が登場した。
フランソワは恐るべき魔力を持っており、オリベイラやサンドラの魔力では歯が立たず、帝国の騎士すら皆殺しにされてしまった。
ついに最終局面。オリベイラは弟のオルランドを召喚。二人掛かりでフランソワに立ち向かうも、やはり歯が立たない。しかし、トドメを刺そうと大きな魔法を使おうとしたフランソワに隙ができ、オリベイラが見事後ろからフランソワの首をとることに成功。
王国は滅び帝国の領土は広がった。めでたしめでたしの大団円となった。
「サンドラちゃんが幸せになれそうでよかったわ。フランソワって嫌な奴ね!」
アレクったらサンドラに感情移入してるな。私もだけど。ついサンドラちゃんって言いたくなるんだよな。
「古の大帝国、ダイヤモンドクリーク王朝にこのような歴史があったのですね。」
大帝国と言っても現在のローランド王国の方が広いかな。魔境を開発した分だけ。ダイヤモンドクリーク帝国が分裂して、戦乱の時代が続いて、魔王が現れて、勇者が現れて……
そしてローランド王国が建国されたのが三百年ぐらい前か。今が王国暦三百四十年ぐらいだから……この国も結構続いているよな。やはり王族がまともだと違うんだろうか?
演劇は面白かったし勉強にもなった。たまにはこんな休日もいいよな。こっちのサンドラちゃんがハマるのも分かる気がするな。王都ではどんな演劇が流行ってるのかな?
この日は五人でカファクライゼラに寄ってコーヒーや紅茶を飲みながら演劇の感想を言いながら盛り上がってしまった。世代や身分を越えて盛り上がれるっていいよな。いやぁいい休日だった。明日からまた楽園でがんばろう。
悪役令嬢サンドラのスピンオフを書いております。
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