うーん、あるあるだな。まあナンパされてるのはお姉ちゃんだし、私はどうでもいいや。ねーコーちゃん。
「ピュイピュイ」
「ねぇねぇ、一緒に踊ろうよ?」
「そうそう! キレのいいステップを見せてやんよぉ?」
「おっ、靴なんかエドワードイエローじゃん? いい趣味してんべなぁ!?」
やたらファッションにうるさい奴がいるな。
「男は間に合ってるわ。冒険者風情が声なんかかけないでくれる?」
うおっと、これは辛辣だな。なぜ冒険者って分かったのかは分からないが。さあ、こいつらはどう出る?
「あぁん!? 王都でもちったぁ有名な俺らキッコータイアップを知らねってかぁ!?」
「ちっとキレーな顔してっからって調子に乗ってっとブチ殺されんぞぁ!?」
「上級貴族がこんなとこで火遊びってか!? あんま吹き上がってんじゃねーぞ!?」
すごいな。上級貴族ってことまで見抜いてんのか。なのに絡んでくるのね。冒険者って無敵かよ。
「へぇ? 私がゼマティス家の者だと分かってコナかけてるの? いい度胸ねぇ。誰から相手してやろうかしら?」
おお、お姉ちゃんが豹変した。いきなりどうした? でも面白そうだから黙って見てよう。
「は、 ハッタリだぁ! ゼマティス家のモンがこんな所に来るかよぉ!」
「おっ、おお! ぜってぇハッタリだぁ! てめぇどこのモンよ!?」
「いい魔力してんべぇ。あながち嘘でもなさそうじゃん? 何でこんな店に来てんだぁ?」
「アンタらの知ったことじゃないわよ! あんまり調子に乗ってるとこっちの魔王も黙ってないわよ!」
私を巻き込むんじゃないよ。まったく……
「あぁ? ギャハハハ! 魔王だぁ!? こんなチビがかぁ!?」
「ゲァーッハッハぁ! 魔王スタイルはキメてんみてぇだけどよぉ! カッコばっかで強くなれりゃあ苦労しねぇぜ!」
「ぜんっぜん魔力を感じねぇぜ! そこいらの雑魚以下じゃねぇか! ハッタリもいい加減にしとけやぁ?」
「ちょっとカース、何とか言いなさいよ!」
私のことは放っておいて欲しいのに……
「お前らさ、このお姉ちゃんにぁアジャーニ家のマルセルの手が付いてんぞ? それでも手ぇ出す気か?」
必殺虎の威を借る私だ。効くのかな?
「ちょ、ちょっとカース……べ、別に私マルセルの手は……まだ、その……」
「はぁ? アジャーニ家だぁ!? おめぇこんな場所でお貴族様の御威光が通用するとおもってんのか、あぁん!?」
「さっきからハッタリばっかでよぉ!? あんま舐めてっとブチ殺すぞぉこら!」
「アジャーニ家だぁ!? 魔王だぁ!? 呼んでみろや! まとめてブチ殺してやんからよぉ!」
カッチーン、とはこないけど。魔王をブチ殺すときたか。なら仕方ないな。いつものように対処するとしよう。
「お前ら金持ってんのか?」
そう言って私は手元から大金貨を一枚弾いてみせる。白金貨は持ってないが、これぐらいは持ってるのだ。
「てっ、てめぇ! 金持ちぶってんじゃねぇぞ!」
「大金貨ぐれぇギルドに行きゃあ下ろせるんだからよぉ!」
「で? 大金貨を賭けて何かしてえってのか? おぉ!?」
話が早いな。
「大金貨一枚を賭けたゲームといこうぜ? ルールは簡単、この場から一歩でも動いた方が負け。たったそれだけだ。やるか? 参加者はこの四人、勝った者が大金貨の総取りって約束だ。」
「ギャハハハぁ! やってやんっぜっぼほおお……」
「ゲァーッハッハっがっあばっざ……」
「やってやんぜっげばだなっ……」
ふふ、全員にきっちりかかったな。では『金操』
三人の足を一歩動かす。もう私の勝ちだ。
「ほれ、大金貨一枚払え。早くしろ。」
「うぐぐっ……手持ちが……ない……」
「くっそ、なんでだ……どうやって……」
「バカな……そんなことが……受け取れ……」
一人だけ大金貨を持ってやがった。それなら残り二人は……
「さて、お前らの分は借金だ。トイチで利息が付くからしっかり払えよ? 十日ごとに少しでも金を払っているうちは死にはしないさ。約束するぜ? コツコツときっちりギルドに入金しとけ。分かったな?」
「あ、あうっぐぉぼ……」
「くっ、わがっだぁっど……」
問題なく終了。いい稼ぎになったな。やはり金貸しは儲かるようだ。
「お、お前……まさか本当に……魔王なのか……?」
「気付くのが遅いんだよ。どいつもこいつも俺と似たような格好しやがって。まあ命があるだけ良かっただろ? さっきの話は全部本当のことだしな。」
「あ、ああ……」
私が口座を持っているのはクタナツのギルドなのだが、連携していないフランティア以外のギルドからでも入金はできる。逆に言うと金の出し入れに関してだけ、王国中のギルドは連携している。手数料取られるけど……
他の事に関してはノータッチだ。クリムゾンドラゴンの魔石はどうなったんだろうね。
「やるわね……。この短時間でいい稼ぎね!」
「たまにはこんな店も来てみるもんだね。」
コーちゃんも楽しそうにお薬と酒を味わっていることだし。そろそろかな。
「チィっす魔王さん!」
「コンバンハっす!」
「ゴクロッス魔王さん!」
帰ろうとしていたら見覚えのある三人組が現れた。
「おお、お前らか。調子はどうよ?」
適当に答えてみた。
「おかげさまでバッチリっす!」
「俺らもうすぐ七等星になりますぜ!」
「今日は氷の女神さんは一緒じゃないんですかい? でもさすが魔王さん! いい女連れてますね!」
シャルロットお姉ちゃんも一般的には美人の部類に入るもんな。しかし、アレクと比べてしまったら……悪いが相手にならないぞ。
「こちらはゼマティス家のシャルロットお嬢様だ。お前ら身分を弁えておいた方がいいぞ。」
「カースったら……」
「ゼ、ゼマティス家……ですか……」
「こ、こりゃまた失礼を……」
「すんませんっしたぁーー!」
よし。今度こそ帰ろう。コーちゃんどうだった?
「ピュイピュイー!」
美味しかった? それはよかった。少し買って帰ろうね。楽園用に。
「ビービー」
「アトレクスも喜んでるわ。カースのおかげよ。ありがとう。」
「どういたしまして。さあ帰ろうか。」
ちなみにさっき私に挨拶をしてきた三人組は私達に絡んできた三人組のところに行って何やら話をしている。説教でもしているのだろうか。面白い奴らもいるものだ。さて、帰ろ帰ろうゼマティス家に帰ろう。
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