辺境伯家上屋敷からいきなり飛び立つ。こんな状況なのだから関所破りなど気にしても意味がない。全力でクタナツへ向かう。
毒にやられた姉上を運んだ時よりきっと速い。かなりぶっ飛ばしたからな。わずか三十分ちょいでクタナツ南の城門に到着。ここは平和でいいなぁ。
「次!」
「お役目ご苦労様です。ところで本日メイヨール卿はどちらにいらっしゃいますか?」
身分証を見せながら質問する。
「北の城門におられる。通ってよし!」
「ありがとうございます。」
騎士長か代官に伝えるのが一番いいのだが、スティード君パパでも充分すぎる。出る前に寄ってみよう。さて、わずか三、四日ぶりの実家だ。
「ただいま!」
「あれ? カース君? えらく早いのね。一人?」
「そうなんだよ。王都で緊急事態。母上は?」
「いらっしゃるわよ。奥様ー! カース君が帰ってきましたよー!」
「あら、カース。早かったのね。どうしたの?」
「うん、実はね……」
掻い摘んで事情を説明する。見たところ母上の体調はよさそうだが……無理して欲しくないな……
「もちろん行くわよ。ベレン、あなたはどうするの? 弟さんが心配なんじゃない?」
「行きたいです……私も同行して……いいんですか……?」
「もちろんいいわよ。ね、カース?」
「もちろんだよ。ベレンガリアさんの魔力は頼りになるしね。パスカル君にも会いたいよね。」
「さあ、そうなると問題はキアラね。夏休みになってから毎日のようにどこかに行ってるの。朝出て帰ってくるのは夕方なの。きっと今日もそうなるわ。」
自由すぎる……あっ、私と同じか。文句も言えないな。キアラが来ないのはまあいいとしても、一人だけ置いて出発できない。
「よし、それならベレンガリアさんはキアラの帰りを待って一緒に来ればいい。キアラ一人だと迷子の心配があるけど、ベレンガリアさんと一緒なら王都にだって来れるよね?」
一応羅針盤も渡しておこう。これなら最悪でもクタナツに帰り着くことぐらいできる。
「ええ、そうね……それにキアラちゃんの魔力なら王都だろうとスムーズに行けるわよね。」
「よし決まり。じゃあキアラが帰ってくるまでにギルドとか代官府に連絡をお願いできる? もちろん父上にもね。」
「ええ! 任せておいて! 王国の一大事だものね! 元貴族なんだから張り切らないと!」
「じゃあカース、私は準備をするからその間にマリーに伝えてらっしゃい。」
「分かった! 行ってくるね!」
母上は大丈夫かな……杞憂だといいんだが……
父上にも来て欲しいが、さすがに無理だな。さて、マリーはいるかな?
居た。
「という訳なんだよ。助けが欲しい。」
「もちろん行きましょう。エルフの面汚しどもを成敗しないといけませんしね。」
「ちなみにオディ兄は?」
「帰りは夕方ぐらいになると思いますので、書き置きをしておきます。キアラお嬢様と一緒に王都に来ればいいでしょう。」
「いつもありがとう。助けてもらってばかりだね。感謝してるよ。」
「好きでやってることですよ。気にしないでください。」
ありがたい。いかん、泣きそうになってきた。
マリーと一緒に再び自宅へ。
「カース君、奥様はギルドに行かれたわ。意外な助っ人がいるかも知れないって。」
おや、母上が助っ人を頼みに行ってくれたのか? ありがたい。
「じゃあベレンガリアさん、後は頼むね。キアラが王都に来るか来ないかは本人に任せればいいと思うよ。」
「うん! カース君、奥様を頼んだわよ! マリーさんもご無事で!」
「うん。じゃあまた王都で会おうね。パスカル君は辺境伯家の上屋敷にいるからね。」
「行って参ります。」
それから私とマリーはギルドへ向かった。さあ助っ人とは誰だ?
「魔女様! 準備万端です! いつでも行けます!」
やっぱアステロイドさんか。よく居てくれたな。総勢五人で母上を囲んでいる。
「うちのパーティー『アステロイドクラッシャー』です。何なりとお命じください!」
「アステロイド、ありがとう。急な願いなのに聞いてくれて感謝してます。お礼は期待してなさい。」
「はい! い、いや、お礼なんて! 魔女様のためなら例え火の中海の中です!」
他のメンバーもうんうん頷いてる。まさかみんな信者なのか? さすが母上。お礼って何だ? 金なら私が出すぞ?
それにしてもクタナツのトップパーティーが来てくれるなんて。金じゃ買えない豪華さ、ありがたいことだ。もうスティード君パパに言うこともあるまい。このまま出発だ。無事でいてくれよ……みんな。
こうして総勢八人。私達は一路王都を目指しクタナツを後にした。後発組の到着はキアラの帰り時間次第だ。城門が閉まる前にクタナツを出なければ到着は明日の昼ぐらいになってしまう。
頼むぞキアラ……
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