異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

221、アレクサンドリーネ オンステージ

公開日時: 2021年6月8日(火) 10:10
文字数:1,761

アレクにも来て欲しいと思った私は急いで呼びに走った。


「今ギルドに例の三男が来てて宴会やってるんだ。面白いからアレクを呼びに来たんだよ。バイオリン持っておいでよ。」


「そうなの? よく分からないけど行くわ。」




ギルドに戻ってみれば、ダミアンは宴会の中心となっていた。コミュ力高すぎだろ。


「あいつがバカ三男のダミアン。凄い宴会芸を持ってやがるんだよね。僕と友達になりたいんだって。」


「変わり者なのね。お代官様が許したのなら私から言うことはないけど。」


「バイオリンを持ってきてもらったのはね。あいつにアレクの腕を自慢したかったからなんだよ。絶句させてやってよ。おいダミアン! オメーがご執心のアレクサンドリーネが来たぞ!」


その一言でダミアン以外もアレクに注目する。


「おおカース。姿が見えねーと思ったら愛しのハニーを呼びに行ってたって訳か。アレックスちゃんは俺のこと覚えてないだろ。小さかったもんなー。あぁソルダーヌから手紙を預かってるぜ。」


何ぃ? 早く言えよ!


「そうですか。わざわざありがとうございます。まったくいい迷惑をかけてくれましたね。ソルに免じて許してあげます。」


「さあさあアレク! ノリのいい曲を弾いてよ! 全員踊らせてやってよ!」


「無茶言わないでよ……やってみるわ。」


アレクの演奏はやはり圧巻だった。バイオリンでどうやったらそうなるのか分からないが、うねるようなグルーブに跳ねるリズム。ノリノリだ。

ダンスなど知らない冒険者達が好き勝手に踊り出す。私もツイストを踊ってしまうぞ。オッさんだからな。


そんな音に惹かれたのか吟遊詩人まで現れて曲に歌がついた。

その後当然のようにリクエストを聞かれたので『辺境伯の歌』をリクエストしてみた。


『人は無謀と言うけれど

誰かがやらねば始まらぬ

人跡未踏の大魔境

踏み入りたるは冒険者

屠った魔物は砂の数

その名も偉大なドリフタス

救った村人星の数

稀代の初代だドリフタス

ああ辺境フロンティア

ああフランティア』


素晴らしい!

アレクのバイオリン、吟遊詩人のリュート。

そこに優しく滑らかな歌が乗り、聴き入ってしまった。

冒険者達も盛り上がってどんどんリクエストを言っている。

夜は長いんだぜ。

踊りって過ごすぜロックンロール。


「カースも何か弾いてよ。」


無茶言うな。ブーイングをくらってしまう。下手すりゃタコ殴りだ。でも楽しいから弾いちゃう。スリーコードブルースなら素人でも比較的簡単に弾けてノリノリになれる。バイオリンでやるのは難しいが。ロックにしたりシャッフルにしたり意外と弾けるものだ。でもブーイングがきたから交代。やはり付け焼き刃はだめだな。


「おおカース。下手くそなりに頑張ったじゃねーか。」


うるせーなダミアンの野郎。いつのまにか呼び捨てにしやがって。酔ってやがるのか。


「文句があるなら弾いてみやがれ! リュートか何か持ってないのかよ?」


「なんだ? 俺の美声を聴きたいってか? 仕方ねーな。聴かせてやるぜ。おう吟遊詩人の兄ちゃん! リュート貸してくれ!」


バカかこいつ? 吟遊詩人が命とも言えるリュートを他人に貸すわけないだろ。


「大事に使えよ」


貸すんかい! この短時間にどうやって信頼関係を築いたんだよ! コミュりょくモンスターか!?


「クタナツの野郎共! しっかり聴いとけよ! 辺境伯三男ダミアン様の叫びをよぅ!」






結論から言うと、こいつは音痴だった。だが美声だった。音程は三度上がったり五度下がったり意味不明いや高等な?外し方をしている。なのにブーイングがない。なんなんだこいつは!?

リズム感は絶妙で声にグルーブ感が満載だった。そのためかサビ後のコール&レスポンスが最高潮に盛り上がった。


「俺はフランティア辺境伯」「三男!」

「ガキにやられてマジで」「災難!」

「アステロイドは突撃」「突貫!」

「女傑エロイーズ背中が」「敏感!」

「クタナツ男の肉体」「アイアン!」

「魔獣トロルの変異種」「ジャイアン!」


途中から謎かけみたいになってきたが面白かった。夜はまだまだこれからだが、日が沈んだのでアレクを送り届けないとな。そして私も帰ろう。


「ダミアン! 俺は帰るからな。もし勘定が足りなかったら言いな。貸すからよ。」


「おおカース! クタナツを出る前にお前んちに行くわ。待っとけよ。」


マジで来るのか? まあいいけど。不思議と憎めない奴になってしまった……

やはり私は甘いのか……?

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