アレクにも来て欲しいと思った私は急いで呼びに走った。
「今ギルドに例の三男が来てて宴会やってるんだ。面白いからアレクを呼びに来たんだよ。バイオリン持っておいでよ。」
「そうなの? よく分からないけど行くわ。」
ギルドに戻ってみれば、ダミアンは宴会の中心となっていた。コミュ力高すぎだろ。
「あいつがバカ三男のダミアン。凄い宴会芸を持ってやがるんだよね。僕と友達になりたいんだって。」
「変わり者なのね。お代官様が許したのなら私から言うことはないけど。」
「バイオリンを持ってきてもらったのはね。あいつにアレクの腕を自慢したかったからなんだよ。絶句させてやってよ。おいダミアン! オメーがご執心のアレクサンドリーネが来たぞ!」
その一言でダミアン以外もアレクに注目する。
「おおカース。姿が見えねーと思ったら愛しのハニーを呼びに行ってたって訳か。アレックスちゃんは俺のこと覚えてないだろ。小さかったもんなー。あぁソルダーヌから手紙を預かってるぜ。」
何ぃ? 早く言えよ!
「そうですか。わざわざありがとうございます。まったくいい迷惑をかけてくれましたね。ソルに免じて許してあげます。」
「さあさあアレク! ノリのいい曲を弾いてよ! 全員踊らせてやってよ!」
「無茶言わないでよ……やってみるわ。」
アレクの演奏はやはり圧巻だった。バイオリンでどうやったらそうなるのか分からないが、うねるようなグルーブに跳ねるリズム。ノリノリだ。
ダンスなど知らない冒険者達が好き勝手に踊り出す。私もツイストを踊ってしまうぞ。オッさんだからな。
そんな音に惹かれたのか吟遊詩人まで現れて曲に歌がついた。
その後当然のようにリクエストを聞かれたので『辺境伯の歌』をリクエストしてみた。
『人は無謀と言うけれど
誰かがやらねば始まらぬ
人跡未踏の大魔境
踏み入りたるは冒険者
屠った魔物は砂の数
その名も偉大なドリフタス
救った村人星の数
稀代の初代だドリフタス
ああ辺境
ああフランティア』
素晴らしい!
アレクのバイオリン、吟遊詩人のリュート。
そこに優しく滑らかな歌が乗り、聴き入ってしまった。
冒険者達も盛り上がってどんどんリクエストを言っている。
夜は長いんだぜ。
踊りって過ごすぜロックンロール。
「カースも何か弾いてよ。」
無茶言うな。ブーイングをくらってしまう。下手すりゃタコ殴りだ。でも楽しいから弾いちゃう。スリーコードブルースなら素人でも比較的簡単に弾けてノリノリになれる。バイオリンでやるのは難しいが。ロックにしたりシャッフルにしたり意外と弾けるものだ。でもブーイングがきたから交代。やはり付け焼き刃はだめだな。
「おおカース。下手くそなりに頑張ったじゃねーか。」
うるせーなダミアンの野郎。いつのまにか呼び捨てにしやがって。酔ってやがるのか。
「文句があるなら弾いてみやがれ! リュートか何か持ってないのかよ?」
「なんだ? 俺の美声を聴きたいってか? 仕方ねーな。聴かせてやるぜ。おう吟遊詩人の兄ちゃん! リュート貸してくれ!」
バカかこいつ? 吟遊詩人が命とも言えるリュートを他人に貸すわけないだろ。
「大事に使えよ」
貸すんかい! この短時間にどうやって信頼関係を築いたんだよ! コミュ力モンスターか!?
「クタナツの野郎共! しっかり聴いとけよ! 辺境伯三男ダミアン様の叫びをよぅ!」
結論から言うと、こいつは音痴だった。だが美声だった。音程は三度上がったり五度下がったり意味不明いや高等な?外し方をしている。なのにブーイングがない。なんなんだこいつは!?
リズム感は絶妙で声にグルーブ感が満載だった。そのためかサビ後のコール&レスポンスが最高潮に盛り上がった。
「俺はフランティア辺境伯」「三男!」
「ガキにやられてマジで」「災難!」
「アステロイドは突撃」「突貫!」
「女傑エロイーズ背中が」「敏感!」
「クタナツ男の肉体」「アイアン!」
「魔獣トロルの変異種」「ジャイアン!」
途中から謎かけみたいになってきたが面白かった。夜はまだまだこれからだが、日が沈んだのでアレクを送り届けないとな。そして私も帰ろう。
「ダミアン! 俺は帰るからな。もし勘定が足りなかったら言いな。貸すからよ。」
「おおカース! クタナツを出る前にお前んちに行くわ。待っとけよ。」
マジで来るのか? まあいいけど。不思議と憎めない奴になってしまった……
やはり私は甘いのか……?
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