さて、ひと段落したことだし、エルフについて母上と相談しよう。
「母上ー、あのエルフどもだけどさ、王宮に引き渡そうと思うんだよね。死なない程度に治療してやってくれない?」
「いいわよ。てっきりあのまま嬲り殺しにでもするのかと思ったけど。待ってなさい。」
「いつもありがと。殺すには惜しいけど見てるとムカつくしね。他に吐かせる情報があるかも知れないからさ。」
「そうね。私達には無価値な情報も聞く人が違えば違うかも知れないものね。」
母上が庭に出てから数分後。
「カース、残念ながら一人死んでたわ。あの感じだと昨日にはすでに死んでたようね。」
母上の口ぶりはまるでお目当てのバーゲン品が売り切れて残念って感じだ。朝見た時には生きてると思ったのだが、残念。
「どっちが死んでたの?」
「女の方よ。餓死かしら?」
あー、餌やってなかったもんな。あーあ。
「それは残念だね。まあ死体も届けておくよ。」
「男の方は歩ける状態じゃないから適当に運ぶといいわ。身綺麗にはしておいたから。」
「分かった。わざわざありがとね。じゃあちょっと行ってくるよ。」
「いってらっしゃい。」
男エルフを鉄ボードに乗せて、アレクと再び王城に行こう。ちなみにコーちゃんはソルダーヌちゃんに巻きついている。さすがはコーちゃん。優しいね。
ちなみに男エルフは数日前と同じ姿勢だ。相変わらず私を睨んでくるが喋れないようだ。
「結局生き残ったのはお前だけか。エルフって弱ぇーな。お前はきっと長生きさせてもらえるさ。せいぜい頑張りな。」
睨む目がムカついたから目隠ししておいた。
さて、到着。
「たびたびすいません。カース・ド・マーティンです。陛下に引き渡す証人を連れて参りました。お取り次ぎをお願いします。」
「は、はい! お待ち下さい!」
すっかり門番さんにも顔を覚えてもらったな。
「ど、どうぞこちらへ!」
案内されたのは王宮内の見知らぬエリア。通された部屋には見覚えのある宮廷魔導士さんがいた。
「やあ。よく来てくれた。我らが取り調べを行うことになっている。一人だけかい?」
「先日はどうも。生きてるのはこいつだけです。残りは……」
ボニ何とかは先日死体を渡したもんな。女エルフの死体も渡しておこう。
「アレク、こいつらの名前は?」
「女がガブリオーレゲオルギア。番の男がテーゲンハルトフォルトナートですわ。」
ガブ、までは覚えてたんだけどな。
「分かった。ご協力に感謝する。ほう『拘禁束縛』が掛けられているのか。これは強力、さすがは魔女殿よ。」
さすが母上。宮廷魔導士が唸るレベルか。『拘禁束縛』は『麻痺』の上位魔法だったかな。母上ともなれば相手がエルフだろうとこの様か。ぜひ教えてもらおう。
「では陛下によろしくお伝えください。近いうちに全員で参りますので。」
「承った。我ら宮廷魔導士一同もカース殿及びマーティン家に感謝している。本当にありがとう。」
「取り返しがつかなくなる前に解決できてよかったですね。ではまた。」
被害は甚大だが、王都壊滅とまではいかないもんな。それにしても盗賊はまだか。来るならさっさと来いってんだ。
王城を出た私とアレク。夕方にはまだ時間がある。
「少し歩いてみようか。街の様子が気になるからね。」
「そうね。本当に酷いものね。」
荒れ果てた街をアレクと二人で歩く。不謹慎なようだが妙な風情があるものだ。
第三城壁内を歩いてみて気付いたのだが、貴族街はひどいものだがハスコーリ・ダ・レイサなどがある高級街がほぼ無傷だった。スピオスライド商会も無事、どうしたことなんだ?
それらの店は固く閉ざされており、表面上は傷が付いているが突破を許していないようだ。つまり現場系エルフどもはこの辺りには手を出さなかった? それとも貴族の邸宅を壊すことで手いっぱいだった?
どちらにしても私にとってはありがたいことだ。特にスピオスライド商会が無事だったのはありがたい。そろそろ手持ちの香辛料がなくなりそうなのだ。寄ってみよう。入口を強くノックしてみる。
反応がない。警戒されてるのかな? 無理もない。またにするかな。
おっ、少し隙間が空きこちらを見ている。すかさず挨拶をする。
「こんにちは。買い物がしたいのですが、いつから営業されますか?」
あら、隙間をバシンと閉められてしまった。狂信者達の暴走もほとんど終わっている。しかしまだまだ警戒を止めるわけにはいかないもんな。
「お客様! もしやマーティン様で!?」
いきなり扉が開き、声をかけられた。
「そうですよ。あなたは確か番頭のバジリックさん。お久しぶりです。」
私にしては珍しく顔と名前を覚えていたぞ。
「今回のこれ……何かご存じでしょうか……?」
「詳しくは知りませんが、ほとんど終焉みたいですよ。だから呑気に散歩と買い物をしてるわけなんです。」
「そ、そうですか……ちなみに何がご入り用でしょうか……」
「ワサビをください。売れるだけでいいです。お支払いは金貨でも肉でもいいですよ。」
番頭さんの顔を見て分かった。いくら襲われてないと言っても外出ができなかったのだ。飢えて死ぬほどではないにしても食料に困っているのだろう。
「なんと! 食料をお持ちなのですか! おありがとうございます! ワサビは全てお持ちください!」
やはりな。では遠慮なく。
「ではとりあえずこれだけお渡ししておきますね。」
オークを十数頭、魚を数十匹、貝類を大量に。なぜここいらが無事だったのかはさて置き、彼らにはしっかり働いてもらわないとな。私の食の楽しみのために。
「うおお……これだけもの……ありがとうございます……明日には覚悟を決めて外に出るしかなかったところなのです。ありがとうございます……」
「それからこれをご覧ください。」
私は国王直属の身分証を見せる。
「はっ……国王陛下の直属……」
「そうです。つまり今回の食料は陛下からのお気持ちです。ご自分も死にかけ、一日一食で戦い抜き、それでもなお王都の民のことをご心配されているのです。」
「なんと……そのようなことが……」
「従いまして、この食料は近所の皆さんで分けてください。他にも適当に配ってはおきますが。」
「ははあ……かしこまりました!」
ちなみに貰ったワサビは四十三本だった。少ない。また来よう。ちなみにノリで国王の使いっぽく振る舞ってしまったので、別に金も払っておいた。失敗したかな。
「いきなりどうしたのカース?」
「この方が陛下にとっては助かるかと思ってさ。王宮としては今回ほとんど何もできなかったわけじゃない? 事実はともかく王都民から見るとさ。これじゃあ今後の支配体制に悪影響だよね。それを少しでも改善できないかと、さっき番頭さんの顔を見た時に思ったんだよ。」
白い奴らを鎮圧もせず暴れ放題にさせてたんだからな。さぞかし王都民は不安だったことだろう。というか私達が解決したようなもんじゃん。まあ好きで動いたんだから文句はないけどね。
「偉いわ。さすがカースね。そこまで陛下のことを考えているなんて。あなたは私の誇りよ。」
「ありがと。アレクにそう言われると照れるよ。後は盗賊だけだね。早く片付けて楽園でイチャイチャしたいよね。」
「カースったら……//」
結局この日は魔力庫の食料、魔物が空になるまで配って歩いた。これが吉と出るか凶と出るか……
でもアレクが尊敬の目で見てくるのがたまらない。このアイデアを思い付いてよかった。
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