見覚えのある村の入り口に着陸した。粗末な門、確かにここはフェアウェル村だ。
私が挨拶をするまでもなく、誰か出てきた。確かあの人は……
「お久しぶりです。アーダルさんですよね。以前飲み薬でお世話になったカースです。村長はいらっしゃいますか?」
「待っていろ。精霊様、狼殿。ようこそお越しくださいました。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
もう、コーちゃん達には丁寧なんだから。
待つこと五分足らず。
「来い。村長がお会いになる。」
「ありがとうございます。」
そしてアーさんの後ろに付いて歩く。妙に懐かしいな。あの時はほぼ寝たきりだったよな。
「この村が、カースとエリザベスさんを助けてくれたのね……」
「そうなんだよ。もっとも、僕はほとんど寝てたけどね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「コーちゃんとカムイにもかなり助けてもらったよ。ありがとな。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「マリーさんもそうだけど、伝説上の存在でしかなかったエルフの村に来れるなんて……変な気分だわ。」
私は伝説ですら知らなかったけどね。だって勇者ムラサキの冒険の中にエルフの記述なんか無かったのだから。
そして村長の屋敷へ到着した。ここでお世話になったんだよな。
「入れ。」
「お邪魔します。」
「失礼いたします。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
村長だ。当然だが変わっていない。
「よく来たな。ほとんど魔力を感じぬが、よく来れたものだ。」
「お久しぶりです。いつぞやはお世話になりました。いつかお礼を言いたいと思っておりましたが、この度ようやく叶いました。村長、ありがとうございました。おかげさまで僕も姉も無事に生きております。」
「ありがとうございます。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
アレクにコーちゃん、そしてカムイまで一斉に頭を下げる。
「ふ、儂は大したことはしておらん。全てはお主の魔力よ。せっかく来たのだ、少しは注いでいってはどうだ?」
「もちろんです。微力を尽くします。あ、それからこれはローランド王国の国王からの国書です。」
「ほう。国王と言えば勇者の末裔か。どれどれ……」
中身は私も知らない。何が書いてあるんだろうな。普通に考えれば抗議ってとこだが……
村長の顔色に変化はない。
「客人、二人の死体を出してくれるか?」
「はい。こちらです。」
黒幕エルフと女エルフの死体を魔力庫から出した。
「ふむ。アーダルプレヒトよ、見覚えはあるか?」
「ある。男はボニファティウスデトレス、女はガブリオーレゲオルギアだ。」
「最近出奔した奴らか。エルフの恥を晒しよって……客人、わざわざ届けてくれて礼を言う。また、このような不始末をした我らエルフをグレンウッド国王は条件付きで許すそうだ。」
礼を言うのか。さすがにできた村長だな。
「僕は詳しいことは知りませんが、条件とは?」
「我らの村から代表がローランド王国に挨拶に来いとよ。舐められたものよ。」
「そうですか。大変そうですね。行かれるんですか?」
あれだけのことをされて、挨拶だけで許すって甘すぎな気もするが……まあここの村人に罪なんかないし。そう考えると挨拶すら不要なのか?
「行くわけがなかろう。我らは人間風情に興味などない。我らが敬意を表するのは、お主らのようにここまで来れた者のみ。それ以外の人間など、そこらの虫けらと変わらぬ。」
はぁー、辛辣だな。もしかして身内を殺されて怒ってるのか? そうは見えないな。まあ私にとってはどうでもいいことだ。
「じゃあもし! ローランド王国とエルフが戦争になったらどうするんですか!?」
うお、急にアレクが大声で。人間風情って言われたもんな。舐められるのはよくないよな。でも……
「戦争? ならんよ。ここまで攻めてこれる人間がいるなら歓迎するまでだ。それともそこの坊ちゃんが尖兵とでも言うのか?」
「アレク、落ち着こうよ。戦争になったら勝つのはローランド王国なんだから。余裕を持たないとダメだよ。」
その瞬間、空気が変わった。特にアーさん。
「聞き捨てならんな。人間風情が我らに勝てると言うのか?」
「そりゃ勝ち負けの話をすれば勝てますよ。人間をバカにするのはいいですけど、勝ち負けは別でしょう。」
フェルナンド先生をこの村に連れて来たら、それだけでこっちの勝ちだ。アーさんは意外とムキになるタイプなのか?
「あの二人を仕留めただけでエルフの力量を判断したのなら大間違いだぞ? 」
「いやいや、アーさん。僕はエルフの皆さんと敵対する気なんかありませんよ? やたら人間風情とか虫けらって言われるものでカチンと来ただけです。要は挨拶に来ないってことでいいですね?」
「ああ。行かぬ。ただし、国王がこの村に来るなら歓迎しよう。」
さすがに村長は冷静だな。
「分かりました。まあ、返事を貰ってこいって指示は受けてません。一応伝えようとは思いますが、文書にしてもらっていいですか?」
「いいだろう。書いておく。」
「ありがとうございます。じゃあその間にイグドラシルに魔力を込めておきますね。」
アーさんに伴われてイグドラシルへと移動する。私達だけで近付くのはまずいからな。
「ところでお前からはほとんど魔力を感じないが大丈夫なのか?」
お、意外に心配してくれるのか?
「ええ、大丈夫です。なぜ僕の魔力がこうなったかは分かりませんけどね。」
到着。
やはり目の前まで近付くと壁だな。デカすぎるんだよ、この木は。
ゆっくりと錬魔循環を始める。
そして前回と同じ場所に手を当てて……
ふん!
体感で八割近く魔力を注いだ。魔力ポーションを使ってまでやる気はない。ここまでだ。
「凄かったわよ! もう私では理解できないぐらいの魔力を感じたわ!」
「へへ、そう? 僕も成長したもんだね。」
「お前……どこからそんな魔力が……」
知らねーよ。
「結構溜まったんじゃないですか? 借りを返せてよかったです。」
「あ、ああ……むしろ過分だ……」
それはよかった。
「ところでアーさん、イグドラシルの天辺、頂上ってどうなってます?」
「ふむ、興味があるなら登ってみるといい。」
「それもそうですね。行ってみます。よし、みんな乗って!」
みんなを鉄ボードに乗せ、イグドラシルから少し距離を取り上昇する。さすがにアーさんは乗ってこなかったか。
それにしても……まるで、どこまでも続く断崖絶壁を登っているのかと錯覚してしまう。
「遠くからでも上が見えなかったけれど、近くだと何も分からないわね。どこまでも登っていけそうね。」
「ホントだね。もう結構登ったんだけど上が全然見えないね。」
「ピュイピュイ」
え? 中腹から進んでない?
鉄ボードは確かに上昇しているのに、なんだそれ?
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