異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

164、すれ違いの朝

公開日時: 2021年4月12日(月) 10:04
文字数:2,600

さて、四男を水壁に閉じ込めて目隠しをする。後は起きるのを待つだけか。ちなみにここは浴室だ。


待ちきれないので水をぶっかけ頬を打つ。


「おら、起きろ。」


「うう、ここは……」


さらに頭を殴る。


「うるせーよ。とりあえず魔力庫の中身を全部出せ。」


「何者だ! 私を誰だとおもっ」


またまた殴る。話をする気などない。


「出せ。」


「私にこんなことをしっ」


とにかく殴る。


「魔力庫の! 中身を! 全部出せ!」


丁寧に大きい声で伝えてあげた。


「出ず、出ずからっ、助げってくぶっれ」


「早く出せ。」


ようやく出てきた。何せこいつも仲間も懐に金を持ってなかったからな。全員魔力庫に入れてるんだろう。あの五人は惜しいことをしたかな?


どれどれ……

・服の着替え

・剣二本

・手帳

・金貨百二十五枚と銀貨三枚

・指輪やネックレスなどの宝石類


取り敢えず全部私がいただいておく。


「さて、約束だ。お前の命は助けてやる。だから今夜あったことは誰にも言うな、伝えるな。そしてこの宿にも二度と来るな、関係者に迷惑をかけるな。少しでも破った時、お前は口を開けなくなる。分かったな?」


「わ、分かっだっぐぼぉ」


「分かったな? 今のは契約魔法だ。お前はもう逃れられない。」


やれやれ、やっと終わった。まあ強盗じゃなくてよかったかな。後はこいつをどこかに捨ててこよう。

再び気絶させて窓から銀ボードで飛び立つ。

あまり遠くでも不自然だから領都内の治安の悪そうなエリアに捨てておいた。


宿に戻った私はベルを鳴らす。


すぐに案内係と亭主がやってきた。


「入れ。」


「し、失礼いたします」


「さっきのあいつは帰った。おそらくここに来ることは二度とない。だから今夜あったことは忘れろ。俺達が来たことを誰にも伝えなければいい。約束できるな?」


「もちろんでございます、うっ」

「できます、っあ」


「今のは契約魔法だ。約束を守ってくれれば何の不都合もない。」


「畏まりました。ご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ございません。ご助力いただきましてありがとうございます」

「ありがとうございます」


「ところであいつは俺達の名前を知ったのか?」


「いえ、知られておりません」


「いいだろう。その言葉、信じるからな。では以上だ。行っていい。」


「失礼いたします」

「失礼します」


今度こそ本当に終わった。あー疲れた。

鉄湯船を収納してみると、アレクはよく寝ていた。やはり防音効果は抜群のようだ。


私はベッドの横にローブを敷いて寝よう。アレクが起きていたら同じベッドで寝るつもりだったが、寝ているから仕方ない。

大部屋だけあって従者用の部屋やベッドもあるが、せっかくだからアレクの近くにいたいのだ。


本当に疲れた。よく眠れそうだ。






アレクサンドリーネは目を覚ました時、自分がベッドで寝ていることが理解できなかった。

風呂に入った記憶はあるが、その後の記憶がない。カースと初めてのお泊りでどんな夜になるのか妄想が止まらなかったことは覚えている。


それが何故ベッドで寝ているのか。そういえば服を着ていない、裸だ。備え付けのローブが掛けられているのみだ。まさかカースが?

でもカースがいない? 見渡してみてもいない。自分を置いて出かけた?


慌ててベッドから降りて気付いた。

ベッドの横で粗末な黒いローブを下敷きに寝ているカースがいることに。


一体何が? 考えても分かるはずがない。

ローブだけを身に纏ったアレクサンドリーネはカースに抱きつき、そして二度寝した。

 







目を覚ましたら目の前にアレクがいた。びっくりだ。大方夜中にトイレにでも行って寝ぼけて私の隣で寝てしまったのだろう。ならばベッドに戻しておかねば。

ゆっくりと持ち上げる。魔法なし、自力だ。

当然ながらアレクは軽い。たぶん三十キロム前後ではないだろうか。いかんな、こんな推測をしては。


全く、世話が焼ける子だ。


まだ眠いのに。ふわぁーあ、元の場所で二度寝しよう。






ノックの音で目を覚ましたのはアレクサンドリーネだ。またまた首をひねる。先程間違いなくカースの横で寝たはずなのに。

まあいいかと、ノックに応対するべく身を起こした。


「はい?」


「おはようございます。朝食をお持ちいたしました。」


そう言えば確かに昨夜、朝食は八時にとお願いしていた。閂を外し従業員を招き入れる。

朝食と呼ぶにはいささか豪華にも見えるが、それがここのメニューなのだろう。

テキパキとテーブルに料理を並べ、そそくさと退散していく。慌てているようにも見えるが仕事が早いのはいいことだ。

ではカースを起こすとしよう。


「カース、朝食が来たわよ。起きなさい。」


そう言ってアレクサンドリーネはカースの体を揺らす。

彼は眠そうな顔のまま起き上がり、問いかける。


「おはよ。よく寝れた?」


「おはよう。よく寝たわ。さあ食べましょう。食欲はある?」


「まあまあかな。いい匂いだね。少し多い気もするけど。」





朝食を終えたカースは「まだ眠いから寝かせて」と言い放ちベッドに入った。アレクサンドリーネを放ったらかしでひどい男である。


アレクサンドリーネはすることがないので、朝から風呂に入ることを思い立ち、入浴するのだった。

そしてここにカースが入って来ることや、自分が寝ているベッドに入り込んで来ることを妄想していた。幸い湯当たりすることはなく気分良く風呂から上がるのだった。

カースはまだ寝ていた。


仕方がないのでアレクサンドリーネもカースの横で寝ることにした。あまり眠くはないので、横になるだけのつもりだった。

しかしいつの間にか眠り込んでしまっていた。







私が再び目を覚ましたのは午前十時ぐらいだろうか。何となく朝食を食べた覚えはある。あっ、まだ残っているのか、後で食べよう。

ベッドで寝たのは覚えてるが、アレクまで寝ていたとは。今度はちゃんとベッドで寝てるな、感心感心。

昨日は結局風呂も入らず寝てしまったので今からでも入るとしよう。十二時まで居ていいはずなので、まだ余裕はある。

洗濯もしておこう。もっともシャツ、ウエストコート、トラスザーズは防汚が付いてるので洗う必要はない。洗うのはパンツと靴下だけだな。

このシャツは汗をよく吸ってくれて快適なのに汚れないってどういうことだ? よく分からないが魔法や魔石はすごいってことだろう。


高い宿は風呂も快適だ。広い石造りでお湯も何かが違う。もしかしたら軟水とかだろうか。




いかん、長風呂してしまった。あと一時間ぐらいしかないな。アレクを起こそう。全く、呑気によく寝てるんだから。

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