ゼマティス家に到着して思い出した。サンドラちゃん達が来る予定になっていたんだった。
「あら、カース君おかえりなさい。私達を置いて海に行ってたらしいわね?」
「いやー、ごめんよ。王子と一緒だったもんでさ。他のことをコロッと忘れてしまったんだよ。つまり王子が悪いんだよ。」
「ごめんなさいね。私もそうなの。王城でフランツウッド王子と一緒になってしまって、ここまで同道したの。王子と同じ馬車に乗って緊張してしまって。」
さすがにアレクでも王族の相手は緊張するよな。
「まあシャルロットお姉さんと楽しくお話しできたからいいんだけど。」
「僕なんかゼマティス夫人に稽古をつけてもらったんだよ!」
おお、セルジュ君。昨日は伯父さん、今日は伯母さんか。ツイてるね、ノッてるね。
「僕はゼマティス家の護衛の方々に稽古つけてもらったよ!」
おお、さすがは上級貴族ゼマティス家。スティード君に稽古をつけられるほどの護衛が揃っているのか。
「カース君、それは間違いよ。うちの護衛がスティード君に稽古をつけてもらったの。」
あら、伯母さんが言うならそうなのだろう。なんたってスティード君は国内若手ナンバーワンの剣士だからな。うーむ、私だってあの時準優勝したはずなのに、スティード君との実力の差がどんどん開いていくな。だが、そんなことより……
「ところで今夜の夕食はすごいよ! 食べてびっくりしてね!」
「私も聞いて驚いたわ。本当にカース君たら。」
伯母さんも驚いてくれたようだ。それより母上はどこだ? 母上にも食べて欲しいのに。
「伯母様、母上は?」
「イザベルさんなら昼過ぎに出かけたわよ。お友達のところですって。今夜戻るかどうかは分からないそうよ。」
「そうでしたか……」
まあいいや。また今度食べてもらおう。母上は王都育ちなんだし、懐かしい友達もたくさんいるんだろうな。
そして夕食。アステロイドさん達もいない。
「おいしっ! 何よこれ! カースあんたこんな物どこで手に入れてきたのよ!」
おや、シャルロットお姉ちゃんがいつもの口調になっているぞ。長女の自覚はどうした? まだまだだな。
「どこでと言われたらオースター海だよ。」
「オースター海? あそこにこんな凄い魔物がいるっての!? 白状しなさい! これは何よ!」
「まあまあ、待ってよ。みんなまだ食べてるんだから。みんなで食べながら正解を出していこうよ。」
伯母さんとアレクは正解を知っているからだんまりだ。
「うーん、この美味しさと肉質は海龍系かしら?」
「サンドラちゃん、いきなり惜しい!」
ちなみにキアラは正解なんかどうでもいいとばかりにパクパク食べている。ふふ、美味しいだろう?
「ヒュドラ……」
え!?
「ギュスターヴ? アンタ何言ってんの? ヒュドラですって?」
「美味しい……」
「ギュスターヴ君正解! よく分かったね! 正解者にはご褒美! ヒュドラの牙をプレゼント!」
「いい……いらない……」
「あ、そう? じゃあお姉ちゃんにあげるよ。」
あの時たまたま拾った数本しかない稀少な牙なんだぞ?
「ありがと……いやいや! ヒュドラですって!? よく勝てたわね……」
「大変だったよ。三時間ぐらいかかったかな。ギガントマンタもあるから、また今度食べてみてね!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんもカムイもギガントマンタの肉は嫌いだと言っている。私には分からない臭みがあるらしい。グルメなんだから。
「ヒュドラの肉を食べると寿命が延びるらしいわね。ありがとうカース君。」
「そうなの? やっぱサンドラちゃんは物知りだね。」
目には海原 山毒キノコ 初ヒュドラってか。
何にしても喜んでもらえるのは嬉しいな。
それにしても、今になって王子に負けたのが悔しくなってきたぞ。あの野郎、私を兄だと!? キアラにそこまで惚れ込んでるってのか!? 国王の命令とか言ってたな。まさか私が養子の件を断ったからキアラに狙いを定めた?
控えめに考えても王国内で最も魔力が高い人間は私だろう。二番目はキアラか……
ならばこの国を支配する王族としては野放しにはできないのは当然か……
もちろん私に謀叛を起こす気などない。平穏に生きることが最上だと知っているからだ。どうしたものか……
国王を始め、私が知っている王族の方々はファンタジーあるあるに準拠しない立派な人物に思える。宰相だって初めはムカついたが、実際には国の平和を願う傑物なのだろう。
明日は慰霊祭か……
私は何をすればいいのだろうか。
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