翌朝、寝ていたいけど学校があるので早起きしてクタナツに帰らなければ。
スパラッシュさんは頭が痛そうだ。相当飲んでたもんな。こんな時に治癒魔法や回復魔法が使えたらいいのだが私は一切使えない。だから魔力庫には高いポーションをどっさり用意している。
丁寧に詠唱する所からじっくり練習したのだが全然だめだった。努力すれば誰でも使えるはずなのに……解せぬ。
母上によると回復系の魔法は半ば個人魔法に近いらしく才能次第らしい……転生管理局の役人め、適当なこと言いやがって……
スパラッシュさんを寝かせたまま銀ボードに乗せてクタナツに帰る。一畳分しかスペースがないから寝られると狭いんだよな。
城門をくぐり抜けギルドに向かう。スパラッシュさんはまだ起きない。受付に終了報告をしておく。本来ならスパラッシュさんがするべき業務だが仕方あるまい。
ついでに解体もお願いしておく。
大量にあるので大変だろうな。売る物と引き取る物の相談は放課後だ。楽しみにしておこう。
さて、眠いけど学校に行くとしよう。
よし、ギリギリ間に合った。
「おはよ。どうにか間に合ったよ。」
「早かったじゃない。今日と明日は休むかと思ったのに。」
「スパラッシュさんのおかげでスイスイ集められたんだよね。詳しくは昼休みに話すね。」
そして国語の授業が始まったのだが、ついつい寝てしまい頭から水球を落とされてしまった。
この学校はサボってもいいのに、こんな時は厳しいんだよな。
ちなみに水は私にしかかかってないし周辺は全然濡れてない。さすがはクタナツ教師、制御が素晴らしい。
結局私は教室の後ろでずぶ濡れのまま立って授業を受けた。そして算数が始まる前に乾かした。どうにか算数、魔法の授業は寝ずに受けることができた。
ちなみにこのように居眠りなどで水球をくらうことは一組では少ない。たぶん年に一、二回ぐらいだろう。二組では冬にくらって風邪病になる子もいるらしい。今のところそれで怒鳴り込んできた親はいないようだ。
昼休み。いつものようにみんなでお弁当を食べる。
「で、どうだったの?」
「バッチリ集まったよ。朝一でギルドに解体を頼んだから放課後に確認に行くよ。みんな来る?」
「もちろん行くわ。」
「私もいい?」
「いいよ。セルジュ君とスティード君も来る?」
「「行く!」」
面白くなってきた。新しい服を作るのも楽しみだし魔石も楽しみだ。
それからいつものように昼寝をして四時間目、社会。
寝ずに頑張った。
五時間目、体育。
いつも通り水壁を殴り続ける授業だ。そろそろ次の段階に行くらしい。
そして放課後。
「うちの馬車で行きましょうよ。」
アレクサンドル家の馬車で行くことになった。よほど一台にみんなで乗るのが楽しかったと見える。私もだが。
わいわいお喋りをしていたらギルドに着いた。
「初めて来たわ。」
「僕も。」
「僕は父上と依頼を出しに来たことがあるよ。」
おお、セルジュ君は来たことがあるのか。
「じゃあ倉庫に行こうか。」
「お疲れ様でーす。解体は終わってますか?」
「終わってるよ。よくもまああれだけのものを獲ってきたもんだな。ここに書いてある。読んでおいてくれ」
紙には……
グランサンドワーム…一匹
サンドゴーレム…魔石七個
ジャイアントスコルピオン…三匹
デザートスコルピオン…十二匹
エビルパイソン…四匹
エビルパイソンロード…三匹
イービルジラソーレ…十六匹
中々……頑張ったものだな。
「ではグランサンドワームとジャイアントスコルピオン、エビルパイソンロード、イービルジラソーレの魔石と、エビルパイソンロードの皮だけいただきますね。」
「分かった。職員を呼んで来るから待ってな」
係員が席を外した。
「よかったら一人一つぐらい持って行ってもいいよ? 何かいいのある?」
「あらあらカース君たら。気前がいいのね。それなら遠慮しないわよ。私はエビルパイソンの皮が欲しいわ。」
早速サンドラちゃんがくいついた。
「じゃあ僕はサンドゴーレムの魔石を貰っていいかな?」
セルジュ君は渋い選択をするな。ゴーレムの魔石って意外と貴重なんだよな。
「じゃあ僕はジャイアントスコルピオンの皮を頂こうかな。欲張ってごめんね。」
欲張りなのか? スティード君は謙虚だなぁ。
ギルド職員がやって来て、買い取って貰う物、引き取る物を選別する。
その結果、私の懐には金貨二百六十枚と少しが転がりこんだ。
どっさり儲けて懐ほかほかだな。
真っ赤なジャケットでも着込んでパーティーに行ってしまいたい気分だ。
「せっかくだから、このままタエ・アンティに行かない? 今日ぐらい奢るよ。」
こうして私達はみんなでお茶をするために移動するのだった。
「カース君、昨日だけであれだけ獲ったなんてすごいね!」
スティード君は驚いてくれたようだ。
「ガイドのスパラッシュさんって人が凄かったんだよ。魔物がわらわら寄って来て、てんてこ舞いだったけどね。」
「スパラッシュさんて凄いらしいわね。見た目からは想像もできないわ。」
アレクが言うのももっともだ。
スパラッシュさんて見た目は冴えない中年オヤジだからな。確か四十五歳だったかな。
「どうやって魔物を引き寄せたのか気になるわ。」
サンドラちゃんはやはり現実的だ。
「えーっとね、呪われた笛って言ってた。それを吹くと澄んだ綺麗な音色なのに魔物がわらわら寄って来たんだよね。」
「それってもしかして呪いの魔笛?」
さすがサンドラちゃん、詳しいな。
「あー、そんな名前だったよ。砂漠なのに音が響いてさ、いい音色だったよ。」
「カース君、アンタよく生きてたわね……呪いの魔笛って言えばそこら辺から魔物を根こそぎ集める悪夢の笛よ? 」
「根こそぎって程は来なかったかな。あっ、でもノヅチはヤバかったよ。」
「えっ!? ノヅチ!?」
「知っているのかライデ、いやアレク!?」
「ライ……? ノヅチって魔王のペットでしょ? 勇者でも倒せなくて未だにヘルデザ砂漠を彷徨ってるっていう……」
「僕も聞いたことがあるよ。何でも吸い込むんだよね。ノヅチを見ただけで風邪病にかかるとか触ると死ぬとか。」
時々セルジュ君は意外な知識を披露してくれるんだよな。
「スパラッシュさんが指示してくれてさ、大急ぎで逃げたよ。ノヅチが暴れた後には大穴が空いてたよ。」
それにしても魔王のペットか。勇者ムラサキ・イチローの冒険にはそんなこと書いてなかったぞ。子ども向けだからか?
あの本の地名は知らないのばかりだし、一体どこで戦ったんだ?
ちなみにこの日はみんなコーヒーを頼んだ。
スティード君はミルク持ち込み、セルジュ君はハチミツ持ち込み。みんな用意がいいんだなぁ。
支払いは五人で金貨十枚。平民一人の十年分の食費に相当する金額だ……
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