私達が戻ってみると、酒も肉もなくなっていた。
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
二人して肉も酒もお代わりを所望か。
「男爵、お酒をお願いできますか? 私は肉を焼きます。」
「ああ、お任せください。少し強めの酒を出しましょう。」
それにしても不思議な気分だ。スペチアーレ男爵はどう見ても父上より歳上、ゼマティスのおじいちゃんよりは歳下かな。それなのに気が合う。今日が初対面なのに飲んでいて楽しい。私の中身がおっさんだからだろうか。
「お待たせしました。『ゾリゲン・スペチアーレ』の十年物です。」
「ピュイピュイ!」
私より先にコーちゃんが食いつくんだよな。
「いただきます。」
まずは一口。やはり旨い。スペチアーレシリーズって全体的にウイスキーかブランデーのどちらかに近い味わいなのだが、これなんかは特に顕著だ。まるで正統派ウイスキー、グレーンに近いのかな。
「ピュイピュイ」
コーちゃんもお気に召したようだ。
「ガウガウ」
カムイは肉を焼けとうるさい。生でも食べるくせに。
「ところで男爵、樽にこだわりはありますか?」
あるに決まってるだろうけどね。
「もちろんありますよ。そもそもここを領地としていただいた理由の一つは木材です。一番の理由は水ですけどね。」
「いい木が多いんですか?」
巨大なムリーマ山脈だもんな。色んな木が生えていてもおかしくはない。
「ええ。ナラーやカッシーの木が多く生えているのが魅力的ですね。たまに半ば魔物と化した木もありますので、注意が必要ですがね。」
「マギトレントに興味はありませんか?」
「マギトレントですか!? あるに決まってます! まさか! お持ちなのですか!?」
「いえ、手持ちにはありませんが、ノワールフォレストの森での群生地を知っています。何本か切ってお持ちすることは可能ですよ。」
「お願いします! ぜひ! ぜひとも! 報酬はいくらでも!」
ふふふ、想定通り。
「報酬にはお酒が欲しいですね。どれをお渡しくださるかはお任せします。私が持って来たマギトレントを見てご判断ください。」
「いいですとも! いつですか! いつお持ちいただけますか!」
顔が近い! 酒臭い! たぶん私もだろうけど。
「では、来月半ばでいかがでしょうか。遅くとも来月末にはお持ちしましょう。」
「おおお! ありがとうございます! もう靴を舐めるだけでは追いつきませんよ! 何をしましょうか! 背中を流しましょうか! ありがとうございます!」
作戦成功。これでもう酒に困ることもない。やはり来てよかった。
この夜はどこまでも男爵と酒を飲み続けよう、と思ったら男爵は私より先に潰れた。仕方がないので、適当な部屋に運び込んでおいた。酒は山ほどある。さあコーちゃん。一緒に飲もうね!
「ピュイピュイ!」
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