異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

135、アリョマリー家と契約書

公開日時: 2022年7月12日(火) 10:35
文字数:1,969

ナーサリーさんはきれいにしてから鉄ボードに乗せている。後はゼマティス家に帰って母上に診せればいいだろう。

それにしても私の魔力はどうなってるんだ?

魔物はアンデッドになるし、酒は腐るし。いや変質、または発酵とでも言うべきなのか?

さすがにイグドラシルは枯れないよな? または神木のアンデッドになるとか? 意味不明だな。


到着。うわ、みんな庭で稽古してるよ。夏休みだぜ? 熱心だな。キアラは海かな? オディ兄とマリーもいないようだ。


「母上ただいまー。ナーサリーさんが倒れたから診てあげてくれない?」


「おかえり。あらあら、ナーサリーったら。だらしないわね。」


そう言って母上はナーサリーさんの額とヘソに手を当てて魔力をチェックしている。


「ただの気絶ね。何かすごい出来事でもあったのかしら?」


「うん、実はね……」


魔王ポーションについて説明する。


「またカースは……まあいいわ。それなら問題ないわね。どこかの客室に寝かせておいてあげなさい。そのうち目を覚ますわ。」


「うん、ありがとね。」




さて、ナーサリーさんを寝かせたらアリョマリー家に行くとしようか。


「ピュイピュイ」


おっ、コーちゃんも来る? いいよ。

シュルシュルと私の首に巻きついてくる。かわいいなぁ。


「カース、気を付けてね。ちゃんと夕食までには帰ってきてね!」


「分かってる。アレクも頑張ってね。」


母上に稽古をつけてもらえる機会なんてそうそうないもんな。でも母上の教え方って見本を見せて後は自力で地道にやれってパターンだよな。


はっ!?


もしかして母上って教えるのが下手なのか?

自分が天才であるが故に自分が習得した方法を基準にしている? 感覚派だから上手く教えられないとか? まあ今さらだな。母上のやり方で私達兄弟は絶大な魔力を手に入れたんだ。それに比べたら小手先のテクニックにどれほどの価値があろうか。




さて、ゼマティス家の馬車に揺られてアリョマリー家へ。契約書をチラッと見て帰るだけなんだけどね。


「到着いたしました」


ゼマティス家の御者さんから声がかかる。


「少し待っておいてください。」


さすがに大きいな。いつぞやのアレクサンドル家上屋敷を思い出す。門番に挨拶をしよう。


「僕はカース・ド・マーティン。坊ちゃんを呼んでもらえるかい?」


「メ、メイリオ坊ちゃんはご不在だ」

「で、出直してもらおう」


へえ。そんなこと言うんだ。


「いいのか? 坊ちゃんには契約魔法がかけてある。約束を破ると酷い目に遇うぞ? 五分だけ待ってやるから坊ちゃんに確認した方がいいな。」


単純計算では、私より魔力が高ければ契約魔法を破ることもできるだろう。または、そんな魔法使いでもいれば解除できるだろう。いればな。


門番の一人は慌てて中に入って行った。不在じゃねーのかよ。どんだけ後ろめたい契約書を作ったんだよ……


「ど、どうぞ、お通りください」


門が開いた。馬車ごと中に入る。




「ど、どうぞ、こちらへ」


「いや、見る物を見たらすぐ帰る。ここに坊ちゃんを呼んでもらおうか。」


「そ、それは……」


私はまだ馬車から降りていない。奴が来たら降りるつもりではある。


「そんなに心配しなくてもいいぞ。アレクサンドル邸のようにここが更地になることなんてないさ。」


「は、あは、はは……」


呼びに行ってくれた。初めから妹の魔力庫に入ってるなんて言わなければ早かったものを。




やっと、来た。あの兄ちゃん、メイリオって言ったか。馬車から降りよう。


「見せてもらおうか。」


「あ、ああこれだな……」


まずは表面。


・メギザンデ・ド・アリョマリーとアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルは魔法対戦を行う。


・ルールは王国共通ルールに準拠する。


・負けた方は二度と家名を名乗れなくなる。


「特に問題ないな。」


兄ちゃんも安心した顔を見せる。


「では裏面はどうかな?」


兄ちゃんの顔が曇る。

アレクは表しか読んでなかったようだが、裏面にも文章はある。



・これらの内容が履行されるかどうかは審判の判断次第となる。


・アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルに助太刀する者がいた場合、メギザンデ・ド・アリョマリーの勝利となる。




『遠見』いや『顕微』を使わなければ見えないような小さな字で書かれていた。


「ふーん。なるほどな。よく分かった。手間を取らせたな。じゃあな。」


「ま、魔王……どうするつもりだ!? やはりアリョマリー家も更地にするのか!」


「しねーよ。言っただろうが。契約書の内容を確認しに来ただけだ。これでもしアレクが負けていたとしても文句なんか言わないさ。」


そんな恥ずかしい真似するかよ。


「そ、そうか……」


「じゃあこれは貰っていくぜ。どうせいらないだろ?」


「あ、ああ……」


この分では妹は名前を失っていなさそうだな。どうでもいいけど。しかし確認してよかった。やはり貴族を相手に契約魔法を結ぶ時は注意が必要だな。アレクには教育的指導が必要か。ふふふ。

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