そしてパイロの日。
エリザベスはカースのミスリルボードを使ってクタナツを目指すことを決意していた。
しかし改めてカースの魔法のデタラメさに閉口してしまった。
ただ浮くだけなら自分の身一つの方が遥かに簡単だ。しかし速度を出そうとした時にそれでは難しいことに気付く。ボードのような物に座り、周りを風壁で囲った方が最高速を出せることが分かった。
しかし問題はまだあった。魔力消費が大きいことは当然としても、バランスが取れない。空中に浮かべた板の水平が取れないのだ。
板を小さくするべきか……しかしこの板はミスリル製だ。おいそれと切断などできない。
困ったエリザベスはマリーに相談するのだった。
「別に坊ちゃんの板で飛ばなくても良いのでは? 金操ではなく風操で飛ぶのですよね? そこらの木の板で十分では?」
「……その通りね……無理にカースの真似なんかする必要ないわね。盲点だったわ。」
やがてエリザベスはカースほどの速度は出せなくとも、ある程度まともに空を往くことができるようになった。果たしてクタナツまで魔力は持つのだろうか?
村長の屋敷。その一室にて。
「村長、あの人間が外に戻ろうとしているが口封じはしなくていいのか?」
「ああ、構わん。人間ごときがここまでそうそう来れるとは思えん。逆に来れるほどの人間であれば歓迎すればよい。」
「ふむ。村長が言うならそれでいいか。それにしてもバルトロメーウスイニがあそこまで愚かだったとは。」
「同胞殺しは別段禁忌というわけではないが、あの人間には借りができたか。まあこちらも命を助けてやったのだ。おあいこだな。」
「あの人間の体内にはイグドラシルの魔力が充満していた。長く持つものではなさそうだが、あのようなことが起こるとは。村長は知っていたのか?」
「いや、話には聞いたことがあるが目にするのは初めてだ。そもそも人間にイグドラシルの結晶を使ってやること自体があまりないからな。」
「いつぞやは人間の勇者が来たが使う必要もなかったからな。それどころか毒を求めるとは外道な勇者もいたものだ。」
「それよ。この度の毒。確かに禁術の毒に似ておった。さすがにあそこまでの毒性はないが、とても人間風情に作り出せるとは思えぬ。」
「ならば同胞か? マルガレータ以外にも出奔した者はいたはずだが。」
「その可能性はある。我ら同胞に仇なすのでなければ放っておいてもよいのだがな。マルガレータにしてもそやつらにしても変わり者が増えたものよ。」
神殺しの猛毒、禁術の毒とは一体……
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