アレクが帰ってこない……
こうなったら……『魔力探査』
それも全開だ。領都を丸ごと捜索してやるぞ。
うーん、無理か……どれがアレクか分からない……領都の中で強い魔力を感じるのは行政府内。ここにはアレクを上回るであろう反応がいくつもある。このうちの一つが辺境伯なんだろうな。あのオッさんの魔力は並みじゃないもんな。
そして辺境伯家で感じる強めの魔力はラグナかそれともダミアンの家族かな。また魔法学校から感じる凶々しい魔力は校長ババアだろうな。困った……アレクは領都にいないのか? こうなったら魔法学校に行って聞いてみよう。昨日からのアレクの足取りを。
コーちゃん。アレクを探しに行くよ。そろそろ城門が閉まりそうだからその前に外で出ておかないとね。飲んでるところをごめんね。「ピュイピュイ」
「リリス。ちょっと出かけてくる。戻らないかも知れない。リゼットには適当に伝えておいて。」
「かしこまりました。」
「なんだよカース。どこ行くってんだぁ?」
「ちっとアレクを迎えにな。オメーは好きに飲んでな。そのうちリゼットが風呂からあがってくるしな。」
人探しならカムイが頼りなんだがな。まあいい。まずは魔法学校で聞き込みだ。
ほとんど収穫なしだった。分かったことはアレクだけでなくアイリーンちゃんやその他の同級生や下級生も帰ってきてないらしい。一体どうなってんだ?
よし、騎士学校に行ってみよう。
スティード君がいた。スティード君によるとバラデュール君は朝から出かけているらしい。たぶんアイリーンちゃんと。行き先は正確には聞いてないそうだがカスカジーニ山方面に向かったらしい。つまり、山で何かあったってことだろうか。スティード君も協力してくれるそうなので我が家での留守番をお願いした。行き違いになってはたまらんからな。
よし、北の山へと行ってみるか。とりあえず北の城門で騎士に聞いてみよう。アレク達がこの門をくぐったかどうか。
いつもの事務的な騎士によると今朝八人ぐらいで通ったそうだ。男の子は一人だけだったと。おそらくそれがバラデュール君なのだろう。
カスカジーニ山にいると見なして行動しよう。無事でいてくれよ……
「ピュイピュイ」
え? コーちゃんどうしたの? もっと情報を集めなくていいのかって? どういうことだい?
「ピュイピュイ」
カスカジーニ山にいる気がしない? そっか……コーちゃんがそう言うならそうなんだろうね。いつだったか私が魔力を失っている時もそうやってアレクを助けてくれたもんね。そうなるとどこで情報を集めるべきか……
ギルドしかないな……ダメ元で行ってみるか……
休日だけあってギルド内はそこまで混雑していない。少し並ぶだけですぐに私の番となった。
「ご用件をお伺いします」
「魔法学校の五年生を中心とした八人組、もしくは氷の女神が受けた依頼を知りたい。」
「そういったことは守秘義務がごさいます。いくら魔王様でもお教えできません」
「分かってる。もちろんタダで教えろとは言わない。上の者と相談させてくれ。」
ギルドが情報に厳しいことは知っている。しかし、都合によっては容易く情報を漏らすことも知っているさ。
「はぁ……聞くだけでしたら……」
第一関門クリア。
およそ十五分後。通されたのは相談室って雰囲気の部屋だ。ソファも悪くない品だ。
「待たせたね。横紙破りをしてるのは君かい?」
若いな。これでも幹部なのか?
「すまんな。ちょいとワケありだ。先に対価を言う。例のドラゴンの魔石の件があったな? あれを諦める。いや、もし見つかったとしてもギルドの物にしていい。」
「へぇ? ずいぶん譲歩してくれるんだね。確かにあの件はギルドの信頼を揺るがす事件だった。それを追求しないでくれるのはありがたい。だが、今一つ足りないな。」
「ほう? ドラゴンの魔石では不足ってのか? 欲かくとロクなことがないぞ? だがこちらも横紙破りをしている自覚はある。言え、条件を。」
ダルい交渉なんかする気はないんだよ。アレクが心配なんだからな。しかもこいつの態度からするとアレク達が何らかの依頼を受けたのは間違いないようだ。
「いやぁ話が早いね! じゃあ遠慮なく。君さぁ、今月末に七等星昇進試験を受けるんだよね? その試験なんだけどここで受けてもらえるかい?」
「いいだろう。」
こいつ意外と私欲が少ないタイプか? 私がここで試験に通れば、魔王は領都のギルドで七等星になったと言うことができる。しかも七等星からは強制依頼があるからな。ここの組合長の手足として働かせようって魂胆もありそうだな。クタナツのドノバン組合長との約束は七等星になることであって、クタナツで試験を受けることではない。だから今回は領都のギルドで試験を受けることぐらい何でもない。
「は? いいのかい? それは助かるけど。」
「ああ、約束する。俺はここで七等星昇進試験を受ける。だからアレク達の情報をきっちり教えてくれ。」
「いいだろうっおおっぅ……ふふっ、これが魔王の契約魔法かい。いい経験になった。では教えようか。氷の女神が受けた依頼は盗賊討伐だよ。」
「盗賊だと? どこの盗賊だ?」
「そりゃあここら一帯の盗賊さ。相変わらずサヌミチアニ方面には多いしね。」
「アレクが進んで盗賊討伐の依頼を選んだってのか?」
「さあ? 受け付けた者によると氷の女神は乗り気じゃあなかったらしいよ?」
「その依頼を受けたんならどっち方面に行きそうなんだ?」
「一番可能性が高いのはノヒテホ村周辺かな。カスカジーニ山から西に五十キロル地点の。」
「その村が盗賊に乗っ取られてるってことか?」
「その可能性はあるね。それも含めた討伐依頼なんだから。」
ちっ、どう考えてもギルドの仕事じゃないだろ。騎士団の仕事じゃないか。まあいい。もう時間がない。そこに賭けるしかないな……
「邪魔したな。約束は守る。」
「楽しみにしてるよ。おっと、僕は副組合長のガルドリアンだよ。」
そうかい。若いのに幹部とはやるじゃないの。それよりアレクだ。盗賊なんかに遅れをとるアレクじゃないのに……一体どうしたってんだ?
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