昼食後、私としてはデートを再開するつもりだったのだが……
「よかったら……うちの道場に来ないか?」
「私はいいわよ。カースのカッコいいところが見れるし。」
何!? まあいいか。カッコいいところが見せられるかどうか分からないが、道場に興味はあるし。
「いいよ。何の道場? 何流?」
「槍……破極流。」
どこかで聞いたことがあるような?
領都の中心部からはだいぶ離れた所にその道場はあった。アイリーンちゃんは走って行きたかったようだが、私が断った。食後に走るなんて嫌だからな。
「押忍!」
女の子らしからぬ鋭い挨拶をするじゃないか。ならば私も「押忍!」
そしてアレクも「お、オスっ」かわいいぜ。
中では数人の男が汗を流していた。休みの日なのによくやるよな。
ん、あれは? もしかして……
「スティード君!?」
「え? カース君!? アレックスちゃんも!?」
妙な所で会うものだ。来てよかった!
「スティード、カース君を知っているのか?」
「もちろんだよ! 僕の最高のライバルさ!」
ふふ、少し恥ずかしいけど嬉しいな。
「そう……さっきまで稽古をつけてもらっていた。彼はすごいな。」
「当然だよ! よしカース君! やろうか!」
「よし! いくよ!」
私は普通の木刀を取り出し襲いかかる。スティード君は木の槍を持っている。構える前に飛び込んだので懐に入ることができた。さあどうする?
「甘いよ。」
スティード君は慌てず腕を畳んだまま石突で私の足の甲を突いてきた。ギリギリで避けたが踏み込んだ右足の甲、その左側がざっくり切れてしまった。さすがスティード君!
ちなみに私は道場に入った時点で着替えており、麻の上下に裸足である。
さすがにいつもの服装に虎徹を使ったら勝負にならないからな。スティード君とは真剣に勝負したいので丁度いい。
「やるねスティード君!」
乾燥の魔法で出血を止めておく、滑ったら危ないからな。さあもう一回行ってみようか!
再び懐に潜り込もうとしたが、今度は激しい打ち下ろしや細かい足払いに襲われ近づけない。地道に修練を積んでいることが伺える。
ならば後の先狙いだ。長物を振り回すとどうしても体力の消耗が早い。最小限の動きで防御して体力を浪費させてやる!
「さすがカース君、でもいいのかい?」
スティード君も動きを止め、間合いを広めに取って待ちの姿勢だ。これが達人同士なら先に動いた方の負け、となるのだろうが私達は違う。身を低く構え突進する。すると必然的に上からの叩き下ろしが来る!
私は水平に掲げた木刀で上からの槍を防ぐ! 槍の重みに体がさらに沈む、と見せかけてスティード君にクルッと背を向け左足での後ろ蹴り! 脛に命中! 「ぐあっ!」スティード君の顔が歪む。
上手くいった……
骨にヒビぐらい入ったかな?
「どう? まだできそう?」
「参ったよ。これが決闘ならまだやるけど、ここまでだよ。やっぱりカース君はすごいよ!」
「いやいやスティード君こそ強くなり過ぎだよ! とてもまともな手段では攻め込めそうになかったよ!? で、なんでまた槍を?」
「普段学校では剣ばかりだからね。槍の強さも知っておかないと上には行けないと思ったんだよ。カース君こそアイリーンさんと一緒とはどうしたことだい?」
「よく分からないんだよね。アレクの友達みたいだから、かな?」
「カース! カッコ良かったわ! スティード君に勝つなんて凄いわ!」
よかった。アレクに良いところを見せられた。嬉しい。スティード君は『アレックスちゃんがいたんじゃ勝てないよ』と言いたそうな顔をしている。
「久しぶりだな。次は僕とやろうか。」
あ、知ってる顔だ。スティード君より大きい男の子……名前が思い出せない。まあいいや。
「やあ、久しぶりだね! 少し待ってね。」
スティード君とポーションを半分ずつ飲もう。ヒビが入ってたら大変だか……危なっ、いきなり槍で突かれた! 待ってって言ったのに。無尽流ではよくあることなので当たりはしないが。
「バラド! それは!」
アイリーンちゃんの声がかかる。そして思い出した! 彼はバラデュール君だ! 確かソルダーヌちゃんに想いを寄せていたよな。
アレクもスティード君も何食わぬ顔で見ている。私を信頼してくれているのだろう。さあ、仕切り直しだ。
「この前ね、辺境伯に会ったんだ。ソルダーヌちゃんの婚約の件で……」
「何っ!?」
効くのかよ! 隙だらけじゃないか! あの子も罪な女だな。
あっさり間合いを詰め鍔迫り合いに持ち込む。先ほどのスティード君のように石突で私の足を狙うが、遅い。先に私が柄頭を腹に打ち込む。
怯んだバラデュール君、少し間合いが空いたのでそのまま腹に横薙ぎ! 倒れ込んだので頭を狙い振り下ろ「参った!」
「本当に?」
私は構えを解かずに問いかける。
「本当だ。やはり君は強いな。歯が立たなかったよ。」
まあ、信じていいかな。間合いを空けて今度こそポーションを飲む。
「スティード君、半分飲まない?」
「ありがとう。いただくよ。実は脛が痛かったんだよ。」
「バラド! お前は何ということを!」
アイリーンちゃんだ。
「アイリーン、ここは道場でしょ? 油断しててもいいの?」
「……そうだな。私が甘かったか。お前の男はすごいんだな。」
それからは他の人も交えて色んな組み合わせで乱取りをした。スティード君との対戦成績は……負け越した……
アレクは槍の素振りだけしていた。
そして、そろそろ終わろうかという頃。
「バラド! 夕飯はお前の奢りだ! いいな!」
「あ、ああ。もちろんだ。」
アイリーンちゃんは厳しいな。どこに怒りのポイントがあったのだろうか。
「ところで今日は子供しかいないみたいだけど、道場主や師範の先生とかは?」
「パイロの日はどなたもいらっしゃらない。私達が自主的に通うのは許されているんだ。」
なるほど。少し残念だ。
「カース君、夕飯を一緒にどうかな。バラドの奢りだ。」
「だめよ! 夕食は私達二人だけなの! もう帰るんだから!」
さすがアレク。私もそう思っていたんだ。せっかくのアイリーンちゃんからのお誘いだが、今日はデートできなかったからな。
「アイリーンさん、それはだめだよ。お邪魔虫だよ。」
さすが、スティード君も分かっているな。
「そ、そうか。今日はありがとう。付き合わせてしまったな。迷惑でなければ、また稽古をつけて欲しい。」
「たまにならいいよ。本当にごくたまにね。」
「カースの凄さが分かったようね。ふふん。」
今日のアレクは珍しく年相応だな。宝物を自慢したい子供のようだ。そんなところも可愛いらしいぞ。
「じゃあスティード君またね。バラデュール君にアイリーンちゃんも。」
「じゃあみんな、またね。」
ちなみに帰り道がよく分からない。まあいいや、適当に歩こう。これもデートだ。
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