パイロの日、早朝。朝日のようにさわやかな目覚めだ。アレクはまだ寝ている。無防備な寝顔が劣情を煽る、まったく悪い子だ。
たまには朝から風呂でも入ろうかな。決戦を前に身を清めておこう。決して風呂で一人、朝の雄大を鎮めるためではない。
私が風呂から上がる頃、アレクもすでに起きており食卓についていた。
「おはよう。起きたら横にいないから寂しかったわ。」
「ピュイピュイ」
「おはようございます、坊ちゃん。」
「おはよ。ごめんごめん、可愛らしい寝顔を見てから風呂に入ってたんだよ。」
「しっかり食べて、今日は頑張ってくださいね。私も応援に行きますから。」
「ありがとう。期待してるよ。」
そして食事を終え、ドレスアップを終えたアレクと共にコロシアムに向かう。領都の郊外にある闘技場だ。昔はここで奴隷同士の対戦や奴隷対魔物の見世物が行われていたらしい。最近は月に数回のイベントぐらいにしか使ってないとか。だいたい五千人ぐらい入るらしい。領都の人口が六万人らしいのでかなりの大きさと言えるだろう。よく子供のイベントなんかに使うことができたもんだ。やはりダミアンに頼んで正解だったようだ。
私達は馬車に乗って現場に到着した。そこにはすでに大勢の人が集まっており、受付をしたりウォーミングアップをしたり、屋台で飲み食いしたりと様々だった。
「じゃあ私はダミアン様の所に行くから。頑張ってね。」
「ああ、途中まで連れて行くよ。さすがにこの中を一人で歩かせられないからね。じゃあコーちゃん、アレクを頼むね!」
「ピュイピュイ」
受付の係員にアレクを引き渡す。これでいいだろう。アレクはそっと私の頬に口付けをしてから中に入っていった。
私も受付を済ませておこう。申し込み用紙に記入して金貨一枚と合わせて提出。
「ルール、規則は確認されましたね?」
「はい。問題ありません。」
「ではいきます。」『契約』
おお、契約魔法をかけられた。公正な大会になりそうだ。
受付終了は九時。まだまだ時間はある。さっき朝ご飯は食べたけど、屋台でも巡ってみるかな。
「おい坊ちゃん! 持ってきたぜ!」
昨日の防具屋ウォークライのロッソだ。
「おお、ありがとう。どれどれ。」
それは白いサポーターのようだった。見た目はショボい。
「坊ちゃんのそのシャツだけどよ、防刃が付いてるよな? だからこいつは対衝撃用だ。ハンマーくらっても骨が折れることはないぜ。」
それはすごい!
「せっかくだ。俺が付けてみせるから殴ってみな。」
「オッケーいくよ。」
ロッソの上腕を虎徹で強めに叩く!
「痛てっ! なんだよそれ! ただの木刀じゃねーのかよ! まあいいや、骨は折れてねーぞ。」
これはすごい。あれで骨が折れてないとは。いい買い物をしたな。
「ついでにこれもだ。脛用だ。巻いておけ。」
脛はトラウザーズがあるから問題ないが、薄いからあっても邪魔ではない。つくづくいい買い物をしたようだ。
「しめて、金貨八十二枚だ。払えるか?」
「当たり前だ。ほれ。」
現金で渡す。少し重いか?
「毎度。贔屓にしてくれよ?」
ふふふ、防御がさらに固くなった。
今度こそ何か食べよう。
「カース君!」
「カース君!」
「あっ、セルジュ君にスティード君! 昨日来てくれたんだってね。わざわざありがとね!」
「街で噂を聞いてびっくりしたよ。アレックスちゃんが賞品になってるってさ。」
「僕もアイリーンさんに聞いたんだよ。心配しなくていいとも聞いたけど。」
「いやー、あまりにもアレクに群がる男が多くてさ。ダミアンに頼んで開催してもらったんだよね。」
「アレックスちゃんのためにそこまでやるなんてね。彼女は幸せ者だね。」
「ちなみに僕とアイリーンさんも参加するよ。」
マジかよ!
「そうなの? 大丈夫? 結構距離が離れてるけど。」
「うん、もしかしたらカース君と対戦できるかも知れないと思ってさ。アイリーンさんも同じみたいだよ。」
「スティード君、浮気はよくないよ? サンドラちゃんに言っちゃうよ?」
「いやいやセルジュ君、違うよ? アイリーンさんのことは話したじゃないか!」
ははは、朝から楽しいな。
この前はスティード君に負け越したからな、今日は負けないぜ。スティード君だろうとアレクは渡さん!
そろそろ九時だ。参加者が中に入り始めている。私達も行こう。結局屋台の食べ物は食べられなかったじゃないか……
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