異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

172、王国一武闘会 一般の部 魔法なし部門

公開日時: 2021年12月11日(土) 10:08
文字数:3,576

パイロの日。朝から天気が悪い。大降りではないが小雨がパラついている。コロシアムには屋根などないからどうするのだろうか? 私が出場するわけではないから構わないけど。


 私達は馬車で会場入り。見るだけってのは気楽でいいもんだな。

おじいちゃんが用意してくれたのは席と言うよりビップルーム、観覧室だった。定員五名の部屋には私達四人とコーちゃん。そしてシャルロットお姉ちゃん、アンリエットお姉さん、その上エリザベス姉上まで押しかけてきた。護衛は外だ。さすがに入り切れない。いくらおじいちゃんでもこの一部屋を取るだけで精一杯だったのか。


「いいわねカース! 兄上が出たら全力で応援するのよ! 拡声の魔法も使いなさい!」

「え!? 兄上出るの!?」


私を始めみんな驚いている。姉上しか知らなかったのか。同じく知らなかったであろうアンリエットお姉さんが少し悔しそうだ。ちなみに私は拡声の魔法など使えない。覚える気は……なくはない。


「それは楽しみだね。ウリエンお兄さんって強いしかっこいいし!」

「あらスティード君、よく分かってるじゃない。後でお小遣いをあげるわね。」


兄上が褒められると姉上はご機嫌だよな。


「スティード君は兄上の弟子だもんね。」

「たった数日だったけどウリエンお兄さんに教わったおかげで強くなれた気がするよ。」


姉上の機嫌がどんどん良くなっていくな。でも無尽流からだって何人も出場するって話だし、兄上はどこまで勝ち進めるんだろう。道場主のレイモンド先生や他の人達もかなり強かったし、槍の破極流からだって大勢出場しそうだし。


ちなみに席が足りないのでアレクは私の膝、サンドラちゃんはスティード君の膝の上に座っている。局所的にイチャイチャ空間ができてしまった。


そうこうしているうちに始まりそうだ。


『只今より王国一武闘会 一般の部、魔法なし部門を開催いたします! まもなく国王陛下のご入来です。静粛に! ご起立、脱帽でお待ちください。』




『ローランド王国国王グレンウッド・クリムゾン・ローランド陛下のご入場です!』


今日は雄大に歩いて武舞台に登場だ。いつの間にか雨は止んで……違う、屋根はないのにドームのように何かに覆われているんだ。結界魔法陣の小さいバージョンか。武舞台も乾いているようだ。仕事が早いな。


『皆の者、楽にしてよい。あいにくの天気ではあるが、これこそ我が国が誇る結界魔法陣の出番と言えよう。晴れていたなら余のドラゴンと共に登場しようと思っていたのだがな。皆を楽しませることができなくて残念だ。代わりに表彰式では簡単な芸を見せてやろう。楽しみにしておくがいい。それでは諸君の奮闘を期待している。』


やはり拍手喝采。しかし雨だからドラゴンに乗って来なかったとは……意外と面倒くさがりなのか? 


『本日も司会進行、そして実況を担当いたしますのはこの私! 王都冒険者ギルドは人気ナンバーワン受付嬢にして王都に咲いた青いバラ! ベリンダ・マッケンロードがお送りいたします』


『そして解説はこの方! まさか王都にいらっしゃるとは! その名も高き無尽流の剣の遣い手! 剣鬼こと四等星フェルナンド・モンタギュー様だぁー!』


『みなさん、おはようございます。先週のベルベッタ殿ほど上手く話せるかは分からないが、頼まれた以上は全力で取り組むつもりだ。よろしくお願いします。』


なんと! フェルナンド先生が解説だって!? これは楽しみだ。幸いこの席は実況、解説がよく聞こえる。


『それでは一回戦を行います。番号札一から十の方は一番武舞台へ。十一からニ十の方は二番武舞台へ……………とお移りください。』


十人ずつの対戦のようだ。


『第一武舞台の試合を始めてください。ところでフェルナンド様は独身だとお伺いしておりますが、どなたか意中の女性でもいらっしゃるんですか?』


『はっはっは。私のような粗野な冒険者を相手にする女性などおりませんよ。未熟な我が身が嫌になります。』


いつもの先生だ。いくら何でも自分に厳し過ぎる。あんなイケメンキラキラ王子様と同席したら青バラさんもメロメロだろうな。


『あぁんもう。渋い、渋過ぎます。私のハートはすでにドキドキです。いつの間にか第四試合まで終わってますが、構いません。サクサク進めていきましょう。』


『みんないい戦いをしている。熱気がここまで伝わってくるかのようだ。』


『あぁもうコメントまで堪りません。なんて甘く滑らかな声なんでしょうか。耳元で優しく私の名を囁いて欲しい声です。それを思うだけで私の足腰はガクガクです。』


『声と呼吸には密接な関係がある。特に長時間戦う時、はたまた逃げる時。呼吸が整っていないだけで死ぬこともあるのです。それ故にいつ、どんな状況でも同じ声を出せることは生存に必要な技能なのです。』


青バラさんの暴走ぶりがすごいが、先生の真面目っぷりも凄いな。大昔、兄上に稽古をつけていた時は結構砕けた態度だったのに。


『さて、私達の甘い時間を邪魔するかのように試合が進んでいきます。現在第十四試合まで終了いたしました。サクサク行きましょう! 次は第三武舞台、試合開始です!』


『剣や槍だけでなく様々な武器が使われておりますな。こうして客観的に見るのもいい勉強になるものですね。』




「きゃあ! 兄上よ! あそこ! 応援するわよ!」


いきなり姉上が騒ぎだした。まだ一回戦なんだから慌てなくてもいいのに。


『兄上ぇー! ぶっ殺してぇー! 瞬殺よぉー!』

「ちょっとエリザベス! こんな所で拡声を使わないでよ!」


アンリエットお姉さんの言う通りだ。うるさ過ぎる。『消音』


ふう、静かになった。二人が言い争う声も聞こえない代わりに解説も聞こえない。解除。


「兄上の試合終わったよ。静かに見ようよ。」


「さすが兄上ね! 瞬殺ね!」

「さすがウリエンさんね! 最高ね!」


この二人は仲がいいのか悪いのか……




『さあ一回戦が全試合終了しまして、二回戦への進出者は五十四名! ここからは一対一での対戦となります! 早速二回戦第一試合を始めます!』


『ほほう、第一試合は無尽流の若き道場主、レイモンド選手ですか。相手は……胤田いんだ流の槍使いですね。』


おお、いきなりレイモンド先生の登場か。道場主が出場するなんて責任重大、プレッシャーもすごいだろうな。でも、もう終わってしまった。瞬殺じゃないか。兄上はこんな人と対戦しなければならないのか……


『レイモンド選手はあっさり勝ちましたね。さすが無尽流の道場主です!』


『ええ、彼は基本に忠実な男です。アッカーマン先生が後継に指名するだけあります。』


おお、新たな真実。アッカーマン先生のご指名だったのか。揉めたりしなかったんだろうか?


『純朴な顔立ちが母性本能をくすぐりますね! あっ、でも私はフェルナンド様一筋ですから!』


『何事も一つのことに打ち込むのは大事ですからね。』


本当に自由な青バラさんだなあ。先生のフォローがまたすごい。


「そう言えば今日はアイリーンちゃんは来てるのかな?」

「叔母様と一緒に見るらしいよ。そのベルベッタ様だけど剣鬼様に挑んだって解説で言ってたね。」


「へぇー、それが先生に手傷を負わせたって戦いなのかな? 先生に手傷ってすごいよね。」

「手も足もでなくてかすり傷が精一杯だったんだって。」


「それでもすごいよ。先生の防御って本当に鉄壁だもん。ドラゴンですら先生には勝てなかったんだもんね。」

「つくづくすごいよね。ウリエンお兄さんはそんな人の弟子だもんね。羨ましいなあ。」


姉上はスティード君の口から兄上の話題が出てきただけでまたまた機嫌がよくなる。単純だなあ。




『二回戦が全て終了いたしました! 昼休憩を挟みまして三回戦を開始いたします! さあフェルナンド様、私とお昼をご一緒いたしましょう! さあさあ!』


私達はどうしよう。さすがのアレクも今日は弁当など作っていないだろう。そこにタイミングよくノックの音が。


「失礼いたします。フランティア辺境伯家側仕えエミリー・ド・セバスティアーノと申します。こちらにアレクサンドリーネ様はいらっしゃいますか?」


「あら、どうしたの? ソルも来てるのかしら?」


「はい。ソルダーヌ様よりお昼をご一緒にいかがかとのお誘いでございます。」


「いいタイミングだわ。カース行くわよ。サンドラちゃん達はどうする? たぶんイエールさんもいるんじゃない?」


「それなら行ってみようかしら。ところで私とスティードはソルダーヌ様のお邪魔にならないかしら?」


サンドラちゃんにもソルダーヌちゃんが私を狙っていることは話してある。


「いえ、問題ないかと。」


「あんた達、このまま帰って来なくてもいいけど兄上の応援はしっかりやりなさいよ!」


言われるまでもない。あっちの部屋に滞在するかどうかは居心地次第かな。こっちは姉上がうるさいし。シャルロットお姉ちゃんが少し寂しそうな顔をしているな。悪いが無視だ。

コーちゃん行こうか。


「ピュイピュイ」

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