もうすぐ春が来て、私達も四年生になる。
ウリエン兄上は領都から王都の近衛学院に無事進学したそうだ。
姉上は魔法学校の四年生、卒業して見事王都に行けるのだろうか。
放課後の算数教室は三日に一回ぐらい行った。アレックスちゃんも覚えが早い方だったが、サンドラちゃんの理解が早すぎる。
もう連立方程式まで解けるようになってしまった。このペースで進んで行くと、一年もしないうちに教えることがなくなってしまう。
困った。数IIBの赤チャートが欲しいぞ。
さてクラスのメンバーだが、珍しく変化なし。三年時と全く同じだ。
なお、授業はどんどん難しくなっている。
一時間目、国語。
四字熟語、慣用句について。
二時間目、算数。
割り算。
三時間目、魔法。
魔力計測、四百まで。
四時間目、社会。
天測について。
五時間目、体育。
槍術。
槍は今日が初体験だ。
これは難しい。私やスティード君は力任せに何とかできるが、みんなバランスを取るのに苦労していた。私の場合、剣も槍も金操で操ると早いのだが、そればかりやってしまうと貧弱な坊やになってしまう。
きちんと身体も鍛えないとね。
剣ではスティード君に勝てないから槍では勝てるよう頑張りたい。槍の達人と言えば、七本槍とか趙雲とか宝蔵院とか? あまりピンとこないな。
むしろ漫画を参考にした方が面白いかも知れない。まあ今は授業通りに槍を振るう。
打ち下ろし、薙ぎ払い、かち上げ、そして突き。先生がするように私達もする。
ちなみに私もスティード君もみんなと同じ槍を使っている。というよりみんな同じ学校の備品を使っている。誰も自前の槍を持っていないのだ。
こうして形稽古で本日は終了。
放課後はスティード君と槍で少し打ち合ってみた。多分互角と見た。
ふぅ、今日もいい汗をかいたぜ。
新学期が始まって一週間、珍しくパスカル君が真剣な顔で話しかけてきた。
「カース君、相談があるんだ。お昼を一緒に食べないか? 」
「相談? 珍しいね。もちろんいいよ。ちなみにどこで食べる?」
「まあまあ大事な話だから……校庭でどうかな。」
「いいよ。一緒に行こう。」
そして昼休み、私はいつものみんなにパスカル君の相談に乗る旨を伝え、いつも通り弁当を分け合い、校庭に向かった。
「さてカース君。相談と言うのはね、うちのベレンガリア姉上のことなんだ。君のお兄さんから聞いてるかも知れないけど、勘当されて冒険者をやっている。」
「うん、聞いてるよ。かなり凄腕らしいね。」
「魔法の腕はそうだと思う。それが冒険者として通用するかは僕には分からないが。
それで本題だが、うちの両親は姉上が家を飛び出た原因に男性関係があるのではないかと疑っている。王都の貴族との婚約を蹴ってまで飛び出した理由は婚約相手が嫌なのではなく、他に意中の男性がいるからではないかと。」
「うんうん、それで?」
「はっきり言うと両親は君のお兄さんを疑っている。姉上は王都の貴族と婚約するぐらいなら娼婦をするって言っていたんだけど、両親はそれを信じてない。
そりゃあそうだよね。一天万乗の貴族との婚約だよ? それより娼婦の方がいいなんて気が狂ったと思われても仕方ない。だからあっさり勘当されたんだけど、最近両親の様子がおかしいから聞き出してみたんだ。その結果、妙なことになりそうだから相談してるって訳さ。」
妙なことねぇ……
「なるほど。それは困ったね。かなり的外れだし。ベレンガリアお姉さんのことは話でしか知らないから何とも言えないけど、うちのオディロン兄は心に決めた女性がいるんだ。冒険者をやっているのもその女性のためなんだ。
元々は執事や家屋管理の道を志していたんだけど、事情があってね。多分お姉さんと同じパーティーを組めるなら勝算ありと見て、冒険者になったんだと思うよ。
ただ、僕の話だし何の根拠もないよ? だからよかったら両親とうちを訪ねてきたらどうかな? すぐにとはいかないだろうけど、僕も両親と兄に伝えるだけ伝えておくからさ。」
「なるほど、建設的な意見だね。相談してよかったよ。この話をカース君の私見として両親に話してみるよ。ありがとう。」
「どういたしまして。ちなみにお姉さんとは全然会ってないの?」
「そうなんだ。飛び出して以来会ってないよ。冒険者をやってるなんて心配なんだけどね……」
「だよね。うちの兄も一週間のうち帰ってこない日の方が多いよ。
あっ、いい情報がある。うちの兄ってね洗濯関係の魔法が超得意でね、いつ帰ってきても汚れ一つないよ。だからきっとお姉さんもそんな風にいつもきれいだと思うよ。」
「そうか。ありがとう。姉上はいい人と組んでるようだね。」
なるほど、やはり上級貴族は面倒くさいな。
私に関係なくてよかった。
帰って両親とオディ兄に丸投げだな。
「カースおかえり。パスカル君とお昼なんて珍しいじゃない。何事だったの?」
おや、アレックスちゃん気になるのかい?
「内緒。相談事だからね。大した話じゃないからそのうち話すと思うよ。ところでアレックスちゃんは卒業したら進路はどうする?
どこかの偉い貴族と婚約したりする?」
「こ、婚約だなんて、私達にはまだ早い……
でもカースがどうしてもって言うなら……」
また話が通じない。最近は少なかったのに、たまにこうなるんだよな。
「いやいや、婚約は置いておこう。ここを卒業したらどうするか決まってる?」
「か、カースがどうしてもと言うならクタナツに残ってもいいんだからね! さもないと領都の魔法学校か、王都の貴族学校に行くかも知れないんだから!」
「なるほど。領都か王都ね。上級貴族は大変だよね。勉強頑張ってね。」
「カ、カースはどうするの? 私が遠くに行ってもいいの?」
おっと、随分とストレートに聞いてくるじゃないか。それなら正直に応えよう。
「よくないよ、寂しくなるね。ちなみに僕は分からないよ。まだ決めてないからね。あちこちに行ってみたい気はするけど。」
「そ、そう、寂しいのね! それならやっぱりクタナツに残ってもいいんだから!」
「まあまあ落ち着いて。まだ先の話じゃないか。焦るのはよくないよ。僕らはみんな貴族なんだから感情で物事を決めるのはよくないよ。じっくり話し合ったりして決めていけばいいんじゃないかな。」
うーむ久々にアレックスちゃんの好意を感じるぞ。確かに嬉しいが、クタナツ内でも最上級貴族なんだから絶対面倒くさい。
これが前世なら適当に付き合ってヤバくなれば別れればいいだけだが、ここではそうはいかない。
軽い気持ちで手を出したら一生祟ってしまう。困った困った。
取り敢えず帰ったら母上に報告だな。
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