こいつらはアレクのファン、追っかけか?
「アレクサンドリーネちゃん! 俺、明日は頑張るからね!」
「きっとアレクサンドリーネちゃんを魔の手から救ってみせるから!」
「ア、アレクサンドリーネたん、マジ天使……」
全体的に若い、 たぶん二十代にはなってないだろう。いつもこんな風に囲まれているのだろうか。私が隣にいるのも目に入らないってか。
「行こうか。お腹空いたよね。何が食べたい?」
「じゃあみんな明日は頑張ってね。やっぱり焼肉かしら。」
「ピュイピュイ!」
コーちゃんも焼肉が大好きだ。
「ま、待ってよ!」
「ひ、昼飯なら俺らと!」
「お、奢るんだな……」
「私と食事に行きたかったら明日強いところを見せてね。期待してるわ。」
アレクは悪い女だな。でもそんなところも魅力的だ。気にせず焼肉に行こう。遅めの昼ご飯だ。
心なしか道中で人々の視線がアレクに集まっているかのようだ。同情の視線も感じる。ダミアンはどんだけ評判が悪いんだ?
うーむ……明日に備えて何かしておくべきことはないか……?
あ、防具か。
「どこかいい防具屋って知ってる?」
「うーん、私もあまりそんなお店には行かないから……『ウォークライ』がいいって小耳に挟んだような。」
「よし、行ってみよう!」
意外と近かった。
「らっしゃい。ここは貴族のガキがデートで来るような店じゃねーぞ」
第一声がそれかよ。
「客だよ。ここの評判がいいから来ただけだ。こんな籠手のような物で上腕を守りたい。何かないか?」
「ああん? 籠手だぁ? どれ…………
マジか……こいつぁまさかエルダーエボニーエント……?」
「そうだよ。それを王都の魔法工学博士だかが加工したらしい。ここまででなくてもいい。軽くて丈夫で邪魔にならない防具が欲しい。少し前まではミスリルの腕輪をつけていたが、人にやったもんでな。」
「……あるわけねーだろ……ドラゴン素材に匹敵する装備じゃねーか……」
ドラゴンか。興味深い。いつか会ってみたいものだ。やっぱりムリーマ山脈のどこかにいるのかな?
「いやいやこのレベルでなくてもいいって。ガルーダやサンドゴーレムの魔石もあるし。」
「ほお、それなら……ん? よく見りゃお前、なんつー服着てんだ! そんな服着れんなら袖を長くしろよ!」
確かにそうだ。しかしその気はない。
「このスタイルが気に入ってんだよ。だからシャツの下に目立たない防具が欲しいのさ。」
「お前、明日の大会に出るのか? さすがに今からじゃ間に合わねーぞ?」
「ああ、ダミアンの魔の手からこの子を守らないといけないからな。無理か?」
「その子が、例の……分かった! 明日の朝に間に合わせてやる! 服を脱げ!」
うーん、嘘はついてないつもりだが、ふらっと小粋にショッピングとはいかなくなってしまった。
店主は上半身裸になった私の上腕部を触ったり計ったり曲げ伸ばししたりと、職人魂を発揮していた。
アレクは『カースって着痩せするタイプなのね』って言いたそうな赤い顔をしていた。腐っても剣士だからね、背中には結構筋肉がついてるんだよ。
「よし、いいだろう! これならできそうだ! 明日の朝、コロシアムに持って行ってやる! お前、名前は?」
「カース・ド・マーティン。いくらかかる?」
「分からん。特急料金だからな。それから魔石も置いていけよ。ビックリさせてやるぜ!」
まあいいか。どんな物ができるか楽しみにしておこう。
「俺はウォークライの店主、ロッソだ。楽しみにしておけ。」
帰り道、アレクが心配そうに声をかけてきた。
「ねえカース、頭は大丈夫なの?」
え? 私の頭がおかしくなったとでも?
「頭? 気は確かだと思うけど……」
「違うわよ。頭の防御は固めなくていいのかなって。」
「なんだ、びっくりしたよ。正気を疑われたのかと思った。頭は帽子があるからいいよ。」
サウザンドミヅチのボルサリーノ風中折れ帽だ。
「ああ、そう言えばそれがあったわね。それなら安心ね。」
「アレクは明日、ミニスカートね。男どもを惑わしてやってよ。」
私も見たいし。
「え、ええいいわよ。ちょっと恥ずかしいけど……カースがそう言うなら……」
これで少しは他の参加者の集中力を削ぐことができるか。今日は早く寝るとしよう。
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