ふう、二杯目のポーションは効きが悪い。クソまずいし……だが、どうにか脇腹の傷は塞がった。魔力も残りは二割ってとこか。ギリギリだったな。あぁ疲れた……何でいきなり主に出会うんだよ! もしかして冬眠を邪魔されてイラついたとか? ドラゴンが冬眠するなんて聞いたことがないんだが。コーちゃんがギリギリまで気付かなかった理由と関係があるのかねぇ。
「カース! 見てたわよ! やっぱりカースは最高よ! 私もう……」
強者に発情するクタナツ女性の特徴。とても嬉しいが今の私にそんな余裕はない。
「アレク、ごめん。後にしよう。まずはあいつを回収しないとね。実は魔力もヤバいんだよ。」
「そ、そうよね……ごめんなさい私ったら……あんまりカースが素敵だから、つい……」
「いつもありがとね。」
そう言って乱暴に唇を奪う。アレクが待っているから私は負けられないのだ。もしここで私が死んだら、アレクに待つ運命は良くても野垂れ死にしかない。
「……っは……嬉しい……」
よし、再び滝壺へとダイブだ。本当は出直したいのだが、万が一ドラゴンゾンビなんかになってしまったら最悪だからな。
うおっ! 湖底が……一面エメラルドを敷き詰めたかのように輝いてやがる……つまり、これ全部あいつの皮膚ってことか。まずは収納できるかどうか……
だめだ……たぶん大きすぎるんだろう。収納できない。まだ生きてるって可能性も少しはあるが。残った魔力でこいつを陸上へと……『浮身』いけそうだな。
ん? どこかが引っかかっているのか……
うわ、こいつ、体が湖底と一体化してる……のか? 岩と皮膚の区別……は色が違うからつくのだが。完全にくっ付いている。そりゃあ収納できないわ……
仕方ない。岩を切ろう。『水鋸』
水中で魔法を使うのって陸上の数倍から数十倍も魔力を消費するってのに……手間かけさせやがって……
『ピュイピュイ!』
あっ、コーちゃん! どこに行ってたんだい!? 無事、だよね?
『ピュイピュイ』
あー、滝の水ごと吹っ飛ばされてたのね。それもかなり上流まで。で、今流れに乗って戻ってきたと。それって普通に滝から落ちたってことだよね。やっぱりコーちゃんはすごいね。まあこんな滝壺で作業してる私も私か。
岩と一体化していた個所は全て切った。これでどうだ……やった! 収納できた! 魔物退治はここまでやって終わったと言えるんだよな。冒険者はつらいよ。残り魔力が一割を切った……やばい……
「カース、大丈夫?」
「いやーそれが結構危ない。もうポーションは飲めないし、残り魔力が一割もない。どこかでじっくり休憩しよう。何か食べたいしね。」
「分かったわ! そうかと思ってさっき見つけておいたの! こっちよ!」
さすがアレク。最高の恋女房だぜ。早くここから離れないと危ないもんな。
アレクが案内してくれたのは岩に囲まれて目立たなくなっている半洞窟とも呼べる場所だった。本物の洞窟ではないため、奥に何か潜んでいるのか心配する必要もない。敷物にはミスリルボードがちょうどいいかな。
とっくに昼は過ぎているためアレクもお腹が空いていることだろう。待たせて悪かったなぁ。
「さ、カース。お弁当を作ってあるわ。」
「おお! さすがアレク! いつの間に!? ありがとう! 嬉しいよ!」
あれだけ私と一緒にいたのに、一体どこにそんな時間があったというんだ? すごすぎる。
「美味しい! これって昨日の夕食の?」
「ええ。あの材料でお弁当も用意してみたの。」
今朝の朝食よりボリュームがあり、なおかつ肉肉しい。魔境で戦う冒険者のことを考えてある。さすがアレク!
食後。すでに指先まで紅潮しているアレクのために人肌、いや一肌脱ぎたいところだが……だめか……
「カース。ここに……」
「う、うん、ありがと……おやす……」
アレクの膝枕は最高だ……
カースのバカ……
あんなにカッコいいところを見せてくれて……こんなにも私を欲情させたくせに……
でも仕方ないわよね……ドラゴンダイブの滝、その主に勝ったんだから……
同じノワールフォレストの森であっても剣鬼様はエルダーエボニーエントに勝たれたとか。『遠見』で見た感じからするとカースが徹甲弾と呼んでる魔法ではエルダーエボニーエントには効きそうにない。でも剣鬼様では滝壺の主に攻撃すらできない。やはり相性なのかしら……
たぶんカースが滝壺の底にまで潜ったために、主はカースの魔力を感知したのね……
カースほどの魔力……狙わないはずがないわ。カースが魔力を失って、取り戻してから……未だにカースの普段の魔力は感じ取れないけれど、きっと滝壺で何か魔法を使ったのね。
ああ……カース……早く起きてよ……起きて私をめちゃくちゃに……
膝枕をしていると自分で慰めることすらできないのが……もどかしいわ……カースのバカ……
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