異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

258、ダミアンの決意

公開日時: 2022年12月3日(土) 10:55
文字数:2,189

私が目を覚ましたのは昼よりだいぶ前だった。そして私を起こしたのはカムイだった。


「ガウガウ」


風呂で洗ってくれと言っている。朝はいなかったよな。マーリンちに泊まってから一緒に来たのかな? アレクの姿が見えないし、きっと朝風呂だろうな。それなら私も再び行こうではないか。




「おはよ。」


やはりアレクは風呂にいた。だいぶ伸びた金髪が濡れており、色気たっぷりだ。


「おはよう。起きたのね。カムイまで。」


「カムイに起こされてしまってね。今から洗ってやるんだよ。」


「ガウガウ」


「ピュイピュイ」


ちなみにコーちゃんはタライの中で水風呂だ。





さあ、きれいになったぞ。カムイも湯船に入るといい。


「ガウガウ」


ただしこいつが入るとお湯が減るんだよな。まあいいけど。


「ムリーマ山脈に行く前にダミアンのとこに寄るね。」


「いいわよ。どうしたの?」


アレクにリリスの話をする。賞金の手続きなんて私は知らないからな。ダミアンに頼むのが一番だ。


「そうなのね……リリスが……」


「そんな奴はもうとっくに死んでるかも知れないけどね。悪党が幸せに生活してるなんて許せないからね。」


「もうカースったら成人してもお人好しなんだから。」


「成人と言えばアレクの誕生日だってもうすぐだよね。」


「覚えててくれたの? ありがとう。今月末よ。」


今月末は七等星昇級試験があるんだよな。でも問題ない。どうやってお祝いしようかな。


それから湯船で少しイチャイチャしてから出た。遅めの朝食、ブランチって言うんだったか、をとって辺境伯邸へ行こう。





ダミアンは居た。ラグナもだ。ベッドでイチャイチャしてやがる。


「よおカース! オメーのあの酒すげぇな! 俺ぁ元気いっぱいだぜ!」


「アタシもだよぉボス! 目を覚ましてから元気が有り余って仕方ないよぉ!」


あの酒、ネクタールを飲んだら激しく嘔吐はするが、起きたら元気になってるってことか。意味が分からんが考えてもしょうがない。現実を受け止めよう。


「今日来たのはな、賞金を掛けたいんだわ。サダーク・ローノって奴にな。」


リリスから聞いた話をダミアンにも聞かせる。面倒だがこれぐらいは必要だよな。





「なるほどな。任せとけ。バッチリ賞金首にしといてやるぜ。一度リリスを騎士団詰所に来させておいてくれや。顔の特徴なんかを聞きたいからよ。」


「おお、言っておくわ。じゃあこれ、白金貨な。頼むぜ。」


「しっかしオメーもすげぇ金持ってんよなぁ。羨ましいぜ。」


「ん? 金に困ってんのか? 貸すぞ?」


もちろんトイチの複利だが。


「金より力を貸してくれよ。」


「ん? 力? 何か困ってんのか? ダミアンらしくもない。」


「困ってんだよ。オメーは知らねーと思うけどよ、俺の母親は親父殿の妾の一人なんだよ。だからどうしても正室のガキにぁ位負けすんだよ。」


「お前が? 位負け? 意外だな。妾腹ってのは昨日聞いたかな。」


「なんだ知ってんのかよ。そんなら話は早えー。俺を助けてくれや、カース。」


これは珍しい。厚顔なダミアンが素直に助けを求めているではないか。


「何に困ってんだ? きっちり説明してみな。」


「跡目に決まってんだろ!」


跡目?




ダミアンから聞かされた話は少しだけ衝撃だった。


現、辺境伯であるドナシファン・ド・フランティア閣下。ダミアンによると後継者の最有力候補は長男のドストエフだそうだ。

二男のデフロックは跡目などに興味はない。ダミアンとしては長男ドストエフにさえ勝てば跡目をゲットできるはずだった。

しかし、そこに第三の男が現れた。新たに後継者レースに名乗りを上げたのが五男のデルヌモンなのだ。


頭脳明晰、眉目秀麗。おまけに魔力もずば抜けてると来てダミアン陣営が劣勢だそうだ。


「そんで、俺はどうしたらいいんだ?」


「細かいことは色々あるが、一番はオメーが俺のバックにいるってことを示してーんだよ。何かくれ。珍しいもん持ってねーか?」


「珍しいもんねぇ……」


何がいいんだろう? 魔力庫の中には結構色んな物が入っているが……


「山岳地帯の岩なんてどうだ?」


「いいじゃねぇか。庭に飾るぜ。他には?」


この野郎……


「ワイバーンの皮なんかどうだ? 服でも作れよ。」


「おおいいなー! もう一声! 何か武器系はないか?」


この野郎……


「そんならこれだ。偽勇者が持ってたムラサキメタリックの剣だ。魔力庫に収納できないが、代わりに切れ味はすごいぞ。」


「バッチリだぜ! ありがとよ! 賞金の手数料は出しておいてやるよ! おっと、それからこれ。親父殿からだ。オメーが平民ってのも変な話だよな。」


それは免税許可証だった。この十一月から私は平民なんだよな。変な気分だわ。何か勝手にミドルネームでもつけようかな。例えばお伽話のダイヤモンドクリーク帝国にちなんで、カース・フォン・マーティンとか。うーん、カッコはいいけどゴロが悪いな。

カース・ラ・マーティン、うーんいまいち。まあいいや、気が向いたら何とかしよう。


「ありがたく貰っとくぜ。それにしてもオメーが跡目にこだわってるとは意外だったわ。興味ないかと思ってたぞ?」


「まーな。俺もそんな面倒なことしたくなかったんだけどよ。ちょいと親孝行したくなっちまってな。」


「親孝行か……それなら仕方ないな。やるしかないよな。」


この場合の親孝行とは母親の方だろう。詳しく聞く気はないが、珍しくこいつがやる気になってるんだ。少しは協力してやろうではないか。

母親か……前世では酷い親不孝をしてしまったもんな……

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