アレクを迎えに行こう。大した怪我はしてなさそうだけど心配だからな。
「アレクー。大丈夫?」
「大丈夫よ、負けちゃった……」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんはアレクの首に巻きついて、カムイはアレクの胸元に顔をスリスリしている。可愛い奴らめ。
「やっぱりアンリエットお姉さんは強かったね。それよりお姉さんの足を刺したのは短距離転移?」
「そうなの。穴の中でじっと待ってたの。お姉様があの地点に立つ瞬間をね。」
「すごかったね。あれって武舞台に直接魔法陣を刻んだってことだよね? よくそんな間があったよね。すごいよ!」
「カースのコートとサウザンドミヅチの短剣のおかげよ。あれで身を隠しながら急いで刻んだの。でもこのコートは反則すぎるわね。」
「ははっ、だよね。さすがにドラゴン素材には勝てないだろうけど。子供の魔法を防ぐには十分だろうね。」
「じゃあ、気を取り直してエリザベスお姉さんの応援に行きましょうか。」
「そうだね。みんな強そうだったよね。兄上まで参加しちゃって。どうなるんだろうね。」
さて、見物に戻ろう。
『二回戦第一試合を開始します! 一人目はァー! ティタニアーナ・スカーレット・ローランド様! 魔法だけでなく武術の腕も確か! 完全無欠の王族だぁー!
二人目はァー! オウタニッサ・ド・アジャーニ選手! クレバーな試合運びが印象的! 姫様を相手にどこまで戦えるのか! 早くも注目の一戦です! 双方構え!』
『始め!』
どちらも動かないな。
『オウタニッサ、久しぶり。』
『お久しぶりです。姫様。』
『ウリエンは私がもらう。』
『だから戦うのでしょう。』
『分かった。かかって来るといい。』
『いきます!』『闇雲』
『おおーっと! オウタニッサ選手! 武舞台上を闇雲で覆ってしまった! どこかで見たような戦法だぁー!』
『ただの闇雲ではないの。毒焔も一緒に使っておるようじゃ。』
『うむ。先日の魔蠍ほどの毒でもなければ効くまいに。一体どんな狙いがあるのか。』
『風操』
二女の魔法で闇雲はあっさり吹き飛ばされた。今日は晴れているので、上に結界は張られてないからな。
『おおーっと! 闇雲が晴れたと思ったら! オウタニッサ選手がどこにもいなーい! 見たところ武舞台に穴も空いておりません!』
『やはり格上に勝とうと思えば奇襲しかないか。悪い考えではないの。』
『問題はどこに隠れたかということだ。私には分からない。』
アレクもやったことだけど、この戦法って観客には退屈で仕方ないよな。
おや、二女が武舞台に寝転んでしまったぞ? スカートは長いから中身が見えるなんてことはないが。つまりオウタニッサ選手は上にいると考えているのか?
しかし一分もすると起き上がってしまった。待ちきれなくなったのかな?
『火柱』
珍しい魔法だ。高く火柱が上がるだけの魔法だ。上空にいるからか? それにしても太い火柱だな。私がスパラッシュさんの葬式の時に使ったやつの三倍はある。
『いましたー! オウタニッサ選手! はるか上空に隠れておりましたぁー! ティタニアーナ様の巨大な火柱の前には姿を現さざるを得ませんでしたぁ!』
『あれほどの上空にまで火柱を届かせるとはさすがティタニアーナ様じゃな。よく上にいるとお気付きになったものじゃ。』
『おそらくは他にないとご判断されたのだろう。だから太めの火柱で燻り出したと。』
それからは二女の猛攻だった。下から突き上げるように魔法を撃つかと思えば、落雷や重圧などで上からも攻撃を加えている。
対するオウタニッサ選手も上空の有利を活かし、水球、氷球などの質量攻撃で反撃している。ノーガードの殴り合いに見えるが、実際にはきちんと防御もしているのだろう。
『何ということでしょう! どこまでも激しい魔法の撃ち合いです! どうなってしまうんだぁー!』
『このままでは魔力総量で勝る姫様が勝ってしまわれるが、それを許すオウタニッサ選手ではあるまい。見ものじゃな。』
『加えてティタニアーナ様には薙刀もある。敢えて服装は普段着のように見えるが、王族の普段着だ。並みの性能ではないだろう。』
そういえば王族御用達のシャツはシルキーブラックモス製らしいな。下着まで全てあれで揃えると、かなりいい値段がするんだよな。
飛び交う魔法は派手なんだが、戦況が膠着しているため見てて面白くない。この次は兄上なんだから早く終わってくれないかな。
『氷壁』
おおっ! オウタニッサ選手が巨大な氷壁を作った! 必然的に武舞台に向けて落ちる! 軽く数トンはある。あれが落ちると武舞台がぶっ壊れる。運営が泣くぞ?
『オウタニッサ選手の情け容赦ない質量攻撃に武舞台は壊滅! しかし問題ありません! 今大会で施設に損傷があった場合はアジャーニ家が賄ってくれることになっております!』
『これでお互い空中戦となったか。あまり高く上昇されると声が拾えぬのが残念じゃな。』
『もうすぐ終盤だろう。空中での接近戦も見応えがありそうだ。』
『あぁぁあー! オウタニッサ選手の右腕! 肘から先が切断されてしまったぁー! ゆっくりと落下する右腕! 勝負あったかぁー! しかしティタニアーナ様は攻撃の手を緩めない! トドメを刺すまで油断はしないのが王族の心得だぁー!』
『オウタニッサ選手の杖もそれなりの業物じゃがな……あの薙刀は反則かのぅ。』
『勝負あったか……いや! まだだ!』
落下したと思った右腕がいつの間にか後ろから二女の首を絞めている。何だそれ?
しかも二女の細い首に上手い具合に指が食い込んでいる。これは外しにくい。
酸欠で落ちるのが先か失血で失神するのが先か。我慢比べだ。それにしても王族と大貴族が公衆の面前で泥臭い殺し合いか。兄上は罪な男だぜ。
突如、上空から何かが落ちてきた。オウタニッサ選手を直撃し、そのまま瓦礫と化した武舞台に叩き落とした。まさか、ドラゴン……?
『勝負あり! 治癒を早く! 危険です!』
『ワシが行こう。』
『奥の手……あれを使わせたオウタニッサ選手を褒めるべきだろうな。ウィンディドラゴンの幼生か。』
召喚魔法か……やはり王族はドラゴンを呼べるのか。全長三メイルちょい、あれで幼生か。国王のドラゴンも虫歯ドラゴンも大きかったもんな。
「すごい戦いだったわね。お姉様はあんな人達と戦ってまでお兄さんが欲しいのね。」
「そうだね。分けられないなら勝ち取るしかないよね。怖いのは兄上の人気っぷりだよね。」
あれほどの戦いなのに観客は冷めた目で見るだけだ。自分以外の女が兄上を手に入れるのが余程気に入らないんだろうな。
まるで決勝戦のような激しい戦いだったのに、まだ二回戦の第一試合か……
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