ケルニャの日。今日はアレクと狩りに行く予定だ。国王から色々と貰ってしまったし、いい獲物がいたらお返しをするつもりなのだ。
ちなみに昨夜の夕食はやはり大騒ぎだった。特にシャルロットお姉ちゃんが「アンタ王妃様に失礼なことしなかったでしょうね!」と喚いていた。我ながら普通に対応できたと思うぞ。
「じゃあおばあちゃん、行ってきます。」
「行って参ります。」
「ピュイピュイ」
「気をつけてね。夕食までには帰っておいでなさい。」
ちなみに本日の目的地はムリーマ山脈の西部。ワイバーン狙いだ。アレクと相談したところ、王族への贈り物ならワイバーンがちょうどいいのではないかという結論に達したのだ。
さて到着。
ムリーマ山脈の西部と言っても広すぎる。だから西端からコツコツと攻めていこう。
少しずつ高度を上げていくとポツポツと魔物が見えてきた。集団で狩りをしている赤い狼、そこから逃げる青黒いオーガ。上空から急降下してオークを狙うハーピー達。ここも弱肉強食のようだ。
「魔境でもないのに魔物が多いね。昔はここも魔境だったんだよね。」
「そうね。今のところ強力な魔物はいないようだけど油断はできないわね。」
「ピュイピュイ」
コーちゃんはオークを食べたいそうだ。少し待ってね。
だいぶ標高が上がってきた。そろそろこの辺りの頂上に着くのではないだろうか。ん?
遠くの方に何やら飛行する群れが見える。『遠見』
いた! ワイバーンだ! しかし数が多すぎる。あんなに大量のワイバーンなど相手にしきれない。場所を変えよう。南側に回ってみよう。
「さすがにあれだけのワイバーンを相手にするのは無理だね。他に行こう。」
「それがいいわ。少なくとも百匹はいるものね。」
「ピュイピュイ」
え? ワイバーンも食べたい? 分かったよ。でも待ってね。あれは無理だから。
最近のコーちゃんは食欲旺盛だな。成長期かな?
ひいぃひょうぉぉ
何だ今の気持ち悪い鳴き声は?
「カース……」
「どうした?」
アレクの顔が真っ青だ! あの声のせいか!?
魔物か! 襲って来た! すごい衝撃だ! ミスリルボードが木の葉のように揺れてしまう! しかも動きが速すぎて姿が見えない!
ひぃぃひょぉおぅぅ
「カース……」アレクがブルブル震えている。
『榴弾』
ホーミングなんだから見えなくたって構うものか! ミンチになりやがれ!
ぐわっ! 全ての榴弾が私に命中した……
実際には自動防御で防いだのだが。自分の魔法ながら恐ろしく魔力を消費させられてしまった。返されたのではなく、榴弾のルート上に私を置くように避けたってことか。なんて頭が回る魔物だ。周りを飛び回りながら魔法もかなり撃ってきている。しかしやたら雷系が多いようで私達には無意味だ。それにしても体当たりだけは厄介だ。
『吹雪ける氷嵐』
広範囲を猛吹雪で覆ってやる! これなら当たるだろ!
よし、動きが鈍ったな。
見えた!
こいつは……ヌエか? 顔は猿、手足は虎で尾は蛇。胴体はけむくじゃらだ。なるほど、鳴き声がキモいわけだ。アレクにまで効くほど魔力が込められた魔声、怪鳥音というわけか。
『魔弾』
ミスリルの弾丸による狙撃をこう呼ぶことにしている。見事に額をぶち抜いた。死んだよな?
地面に向かって真っ逆様に落ちていった。
『重圧』一応動けないように押さえておく。そして足元からさっと近付きさっと収納。よし! バッチリ死んでた。
「危なかったね。まさかヌエが出るとは思わなかったよ。具合はどう?」
「よくないわね。まるで氷漬けにされたように寒いわ。カース……」
分かっているとも。きつく抱きしめてあげよう。ポーションは口移しだ。本日の私達は用心深くサウザンドミヅチのコートを着ている。私が黒、アレクは白だ。私のだからアレクには少し大きいがワイバーンを相手にするつもりなのだから当然の用心だ。
それなのにヌエの魔声は全く防げなかった。声だから当たり前か。こればっかりは自分の魔力で対抗するしかないだろう。もしかしたら『消音』の魔法が効くかも知れないが、次回の課題だな。
アレクが回復したようなので、再び南側を目指す。やはり上級の魔物には『隠形』が効きにくいようだ。用心しなくては。
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