兄上に連れられて王太子の部屋へやって来た。いい部屋だな。落ち着いた内装、上品な絵画にインテリア。辺境伯の執務室と雰囲気が似ている。
「まあかけたまえ。」
「失礼します。」
「先ほどはすまなかったな。欲の深い奴らがいるものでな。奴らはエルフの飲み薬がまだまだあるんじゃないかと疑っているのさ。」
「そうでしたか。」
あのプレッシャーの中でこんな子供を追い詰めて潔白を証明させたってことか。やり方が穴だらけな気もするが、まあいいか。
「それで先ほどの続きだが、事情を聞いていいか?」
「はい。何か感じませんか? 僕の魔力について。」
「いや、何も感じないが?」
「そうでしょう。感じませんよね。魔力を失くしてしまいました。誰でも使えるはずの魔法を僕は使えなくなってしまいました。何のお役にも立てません。」
「なっ、まさか……そんなことが……そなたの試合は見た。まさに魔王と呼ぶに相応しく、恐るべき魔力だった。それが……ウリエン、知っていたのか?」
「はい。エリザベスから聞いてはおりました。しかし今でも信じられません。カースが……」
兄上にも心配かけてしまうな。
「そういう訳です。山岳地帯にご用でしたら姉、エリザベスに命じた方がよいかと思います。」
何だかんだ言っても姉上は一人であの村と王都を往復したんだよな。だったらまた行くことも可能だろう。
「よく分かった。それから先日そなたが献上したヌエだが、見事だった。あれほどの魔物をあそこまで綺麗に仕留めるとはな。剥製にしてどこぞに飾る予定となっている。そこでだ。」
「はい。」
「通常、あのように臣下が王に対して逸品を献上した場合、褒美が下賜されることになっている。何か希望はないか?」
それはありがたいが……
「僕としては先日のお礼のつもりで献上したもので、それに対してご褒美をいただくのは気が進まないのですが……」
「気にするな。これもしきたりだ。ありがたく貰っておくといい。で、何かないか?」
うーん、何か……
あっ!
「では申し上げます。オリハルコンの指輪を再びいただけないでしょうか。」
「うん? 再び? 確か母上から下賜されたのだったか?」
「その通りです。せっかくいただいたのですが、僕の友、フォーチュンスネイクのコーネリアスがおねだりするもので……あげてしまいました。」
「ふふっ、はははっ! 王家から! それも王妃手ずから下賜されたものを与えてしまったか! 幸運なフォーチュンスネイクもいたものだ。よかろう。それならば私が用意するとしよう。」
「ありがとうございます!」
これでバッチリ五人組に仲間入りだ。また何か献上し……無理か。
「ところで、そなた。アレクサンドル男爵家の娘と良い仲らしいな。今日は一緒ではないのか?」
「ええ、こちらには一人でとのお申し付けでしたので、城門前で待っております。」
「そうか。そろそろ昼時だ。ウリエン、呼んできてやれ。一緒に昼食としよう。」
「あの、王太子様、待っているのはアレクサンドリーネだけではなく、フォーチュンスネイクとフェンリル狼もなんです。ですからやめた方が……」
「まあそう言うな。ますます興味が湧いた。ウリエン、ここまで連れて参れ。」
「はっ!」
まあいいか。欲の深い連中の目に晒すことにはなるが、城門前で待ってる時点で同じ。さらに言えば王都を普通に歩いた時点で同じだよな。
「あ、せっかくですのでオリハルコンを奮発していただけませんか? フェンリル狼の首輪にワンポイントで何かあるとありがたいです。」
「ふふっ、物怖じせんやつだな。まあよかろう。ペットにオリハルコンとは贅沢の極みよ。」
「ありがとうございます!」
よし! 言ってみるもんだな。やはりコーちゃんだけってのもね。カムイも可愛いやつだからな。
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