私とアレクは仲睦まじくウキウキと自宅まで帰った。おや、自宅の門前には馬車が停まっている。あの馬車は……
「ただいまー。」
「ただいま帰りました。」
「おかえりなさいませ。あらまあ。」
「おうカース、帰ってきたか。なんだこんな時間からもうイチャイチャしてんのか。」
「お邪魔いたしております。」
やはりダミアンだった。セバスティアーノさんも一緒だ。
「せっかくだ、晩飯食っていけよ。今夜はすごいゲストが来るぜ。」
「ほほう。それは楽しみじゃねーか。こっちも用意できたぜ?」
ダミアンが魔力庫から取り出したのは、ミスリルの塊だった。
「そんでこれがミスリル代の余りだ。」
それは白金貨七枚だった。
「ん? 多くないか? 金貨千五百枚しか使ってないのか?」
「あー、まあ今回は俺が悪かったからよぉ、差額は出しておいた。悪かったな。」
「ピュイピュイ」
コーちゃんが珍しくダミアンの首に巻きついている。
「よかったな。コーちゃんが許してやるってよ。」
前回の倍ぐらい大きい。これなら等身大アレク像ができるな。ならば善は急げ!
「早速やろう! アレク、準備は……」
「ダメに決まってるわ! 制服だし、汚れてるし!」
「あはは、そうだね。アレクはいつも綺麗だから準備なんていらないと思ってしまったよ。」
「もう……カースったら……」
「じゃあまずお風呂に入って、夕食を食べて、それから準備でいいかな? ダミアンは時間大丈夫か?」
「私はそれでいいわよ。」
「俺もいいぜ。観客が少ないのが残念だがよ。」
それからアレクは風呂に入り、私はダミアンとのお喋りに興じている。なんとコーちゃんがダミアンに懐いているぞ?
「ただいま帰った。」
先生だ!
「先生! お帰りなさい!」
「おかえりなさいませ。」
先生にダミアン達を、ダミアン達に先生を紹介する。
「フェルナンド・モンタギューと申す。カース君の父アランとは同門、今回はカース君に王都まで乗せて行ってもらう予定です。」
「ダミアン・ド・フランティアだ。高名な剣鬼殿とお会いできるとは望外の喜びだ。」
「辺境伯家執事のセバスティアーノでございます。」
それからは和やかに歓談タイムとなった。そこで先生が……
「ダミアン殿、酒はお好きかな?」
酒を持ち出した。先生から酒を振舞われるなんて、羨ましい!
「おいダミアン、飲み過ぎんなよ? この後大仕事があるんだからよ。」
「おう、任せとけ。多少酒が入ってた方が調子が出るってもんよ。」
「ほう、大仕事とは? 気になるじゃないか。」
先生に説明した。
「ほほう、ダミアン殿は芸術にも造詣が深いのか。それは楽しみだ。」
その間にアレクが準備を整えてやって来た。
「いつぞやはご挨拶できずに失礼いたしました。アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルでございます。いつもカースがひとかたならぬお世話になっております。」
「フェルナンド・モンタギューです。貴女のことはカース君から聞いております。うわさ通りの可愛らしいお嬢さんですね。」
その一言で風呂上がりの赤い顔がさらに赤くなる。私以外の言葉で顔を赤らめるなんて初めて見た。少し悔しい気もするが、先生ほどのイケメン王子なら当然か。
「よし! なら夕食前にやってしまおうぜ! そして完成した彫像を見ながら夕食だ!」
今宵のアレクの服装はミニスカートの上からドレスを着ている。そのドレスは腰までスリットが入っており、煽情的この上ない。ダミアンが指定したポーズは後屈立ちに近く、左足を前方に突き出しているため、スリットから足が丸出しとなっている。そして腕を組み、胸を押し上げている。ドレスの胸元からは谷間が伺えるポーズだ。ダミアンめ、けしからんポーズをとらせやがって!
そしてコーちゃんはアレクの首に巻きつくと言うよりぶら下がり、鎌首を持ち上げ前方を見ている。それはまるでアレクを守らんとしているかのようだった。
「ダミアン殿、そのポーズはアレックス嬢への負担が大きい。手早く済ませよう。私も大まかな所だけ協力する。」
「そいつはありがたいぜ。」
「では魔力を……」
マーリンとセバスティアーノさんが見守る中、彫刻が始まった。アレクもコーちゃんも微動だにしない。先生は剣でミスリルの塊を切り出している。やはりミスリルでも簡単に切ってしまうのか。私が魔力を流してなくても切れそうだ。
「さあ、ダミアン殿。ここからは任せた。」
「おう!」
わずか五分、もうすでに大まかな形が出来てしまっている。これならダミアンもだいぶ楽なのではないか。
相変わらずダミアンが彫刻をする姿には鬼気迫るものがある。誰も言葉を発することもなく見守っている。
「完成だ!」
そこには先日の像など比べ物にならないほど緻密、かつ生き生きとしたアレク像が在った。
「お見事ダミアン。アレクも頑張ったね! コーちゃんもありがと。」
「ダミアン殿は放蕩息子と聞いていたが、噂とは当てにならないものだな。」
「素晴らしい出来かと存じます。」
「ダミアン様凄いですわ! まるでお嬢様が生きてるみたいです!」
「ピュイピュイ!」
コーちゃんも喜んでいるようだ。この子は芸術まで分かる精霊なのか。
「これが……私?」
「そうだよ。アレクは美の女神みたいに綺麗だもんね。」
「そんな……私がアプロディア様みたいだなんて……//」
アプロディアとはこの世界における美の女神だ。
「ピュイピュイ!」
「コーちゃんもそうだと言ってるよ。コーちゃんが言うんだから間違いないね。」
「……カースもコーちゃんもありがとう。剣鬼様もダミアン様もありがとうございます。」
みんなも頷いている。
「先生もありがとうございました! ミスリルがチーズみたいに切れてましたね。ダミアンもありがとな。一段と腕を上げたな。」
「あれだけ魔力を流してくれれば、そりゃあスイスイ切れるさ。」
「剣鬼さんが露払いをしてくれたからな。助かったぜ。」
「さあさあ夕食にしましょうね。片付けてくださいな。」
やはりマーリンはタイミングがいい。仕事が出来るメイドさんだ。アレクの彫刻はテーブルの真ん中に置き、ミスリルの削りカスはひと塊りにして私が回収。また弾丸にしよう。
「アレックスちゃんに乾杯!」
ダミアンの音頭で夕食が始まった。
「おう、剣鬼さん。この酒ぁえらく旨いな。どこ産だい?」
「どこ産とは言いにくいですな。スペチアーレ男爵謹製ですよ。すっかり気に入ってしまったもので。」
「何!? スペチアーレ男爵だって!? おいおい酒の趣味まで一流かよ。」
二人で仲良く酒談義か。羨ましい!
いいんだ、私だってアレクとコーちゃんとイチャイチャするんだから。ねー、コーちゃん。「ピュイピュイ」
「だからマーティン卿はさー。」
「はははアランは昔からー。」
今度は父上の話題だ。ダミアンの話は横から聞いてるだけでも面白い。全く凄い奴だ。さて、私は風呂に入るかな。
私が風呂に入ってから十分後、アレクも来た。湯浴み着を着ているが、私は裸だ。それは困る。
「慌てなくてもいいわよ。カースの全身はもうじっくり見ちゃったんだから。」
「あ、ああそうだね……そうだったね。」
それからアレクは背中を流してくれたのだが、マリーを思い出して邪な期待をしてしまった……
私って奴は……
風呂から出てみると、コーちゃんも先生達と仲良く酒を飲んでいるではないか。まさにウワバミなのだろうか。
「ピュイピュイ〜」
それを横目に私とアレクは寝室へと向かうのであった。
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