週末、一人で鉄板を探しに行く話をしてたらオディ兄が途中まで一緒に行ってくれることになった。
両親からはグリードグラス草原に行かないなら一人でもよいと許可をもらってあるが、ありがたい。
集合場所にて、下っ端らしくメンバーには挨拶しておく。
「どうも、弟のカースです。途中までお世話になります。」
「どーもヒャクータです。」
「ジェームスだよ。」
「久しぶりね。この前はありがとう。本当にありがとう。」
「あんまり覚えてませんが無事でよかったですよね。途中まで楽しく行きましょう。」
だいたいの場所はフェルナンド先生から聞いてあるので途中までは迷うことはない。昼過ぎには着くだろう。
本日オディ兄達『リトルウィング』はグリードグラス草原南端で仕事をするらしい。
戻りは四日後とか。
オディ兄の右腕が見つからなかった原因だが、植物の生態に関係しているらしい。
あの草原の植物は夜、眠ったように動かない。羽を畳んだかのような姿なのだ。
つまり上から見ると昼間は緑だらけでロクに見えないが夜なら地面がはっきり見える。
だから夜に探したことですぐ見つけることができたのだ。
腐らないのは当然としても、蟻以外に狙われなかったのは幸運以外の何物でもない。
オディ兄の人徳に違いない。
昼ご飯は私が用意した。
ギルドで買っただけだが私の魔力庫は冷めないし腐らないから便利だ。
昼ご飯を終え私達は進む。そろそろ目標の地点だ。
まあまあの大きさだ、すぐ見つかるとは思うのでみんなとお別れだ。
「どうもありがとうございました。皆さんお気をつけて。オディ兄頑張ってね!」
それから私は鉄スノボに乗り辺りを探し回る。
ここはグリードグラス草原ほど草は繁ってないのですぐ見つかると思ったのだが、これが意外と見つからない。
軽く土に埋もれている可能性もある。ならば表面の土をぶっ飛ばせばいい。
辺りに人影もないことだし。
『風球』
全方位に向けて発射する。これならきっと見つかるはずだ。
ゲホゲホ、やはり砂埃がひどい。
『高波』
水壁程度の水量を全方位に送り出す。
津波よりかなり水量が少なく済むお手軽な水撒きだ。
ふう、これで埃も落ち着いた。
おっ、見つけた!
やはり近くだったのか。
おおっ!錆びてない!
鏡面は傷だらけだが全然錆びてない!
ただの鉄のはずなのに。これはただ幸運って訳ではないのだろう。気になるな。
まあいい、帰りはこれに乗ってゆったり帰ろう。帰ったらまた磨いてやるからな。
上から適当にゴブリンやコボルトでも狩ろう。
そこでふと思い付いた。
以前両親とピクニックに行った時、父上は大物が出ないうちに帰ろうと言っていた。
強力な魔法を使うとそれに惹かれて大物が来るのか? これは気になる。
こんなクタナツに近いエリアにも来るのだろうか?
実験してみるしかないな。
『火球』
『火球』
『火球』
魔力はたっぷり込めてある。鉄をも溶かす火球を三連発だ。
地面が一部溶岩と化している。
そして私は上空から高みの見物だ。時々火球を追加してみる。
待つこと三十分。何も来ない。
やはりここではだめか。曇ってきたことだし、さっさと帰ろう。
あら、少し移動しただけでもう晴れてきた。大きい雲でもあったのか? 見上げてみると、魔物がいた。
何だこれは!? 私より上空を飛び、しかも大きいぞ!?
大物が来るって空からの場合もあるのか。
これはドラゴン? ワイバーン? 顔は鶏っぽくもあるが大きすぎだろ! 全長七、八メイルぐらいか……
どうやら私には気付いてないようだ。隠形を使っててよかった。魔物にも有効なのか。
それなら先制攻撃だ。私は余計な風を起こさないよう金操のみで鉄板を操作しゆっくりと魔物の上方に移動する。
片や魔物は地面に降りようとしている。
『狙撃』
こんな近くなのに魔力の無駄使いかも知れないが、大きいから怖いのだ。
確実に一撃で殺さないと……
普段より大きめの弾丸、仮に徹甲弾と名付けようかな。それで脳天を一撃。
貫けなくても衝撃で即死だろう、と考えていたら……貫けた!
頭部に直径十センチほどの穴が空いている。
魔物は地面に落ち、横たわる。
死んでるとは思うが、油断はできない。遠くから石を二、三個当ててみる。
大丈夫だよな?
サッと近付きサッと収納。やはり大物は収納するのにも魔力を食うな。
実験は成功。
これを魔境でやったらどんな大物が来るのか、楽しみなような怖いような。
思えば夜の魔境で火球を使いまくったけど、あの時大物が来なくて本当によかったな。かなりヤバかったよな……
もう用はない。早く帰ろう。
クタナツには城壁東側まで飛んで帰り、そこから北の城門まで歩く。
ここからだと三キロルはあるが仕方ない。
城門をくぐり、そしてギルドに到着。さてどうしたらいいか……
「こんにちは。依頼は受けてないんですが大きい魔物を倒したので、素材の買取をお願いできますか?解体してませんが。」
「いいですよ。どこにありますか?」
「魔力庫に入れております。大きいんですがどこに出したらいいですか?」
「ここでいいですよ。出してください」
「え、いや、大きいんですよ?」
「このテーブルより大きいとでも言うんですか? 早く出してください」
信じてないパターンか。
困ったな。まあいいか。
ズシーンと受付前を埋め尽くす魔物の巨体。
室内だとやけに大きく見えるな。
テーブルや椅子は隅に弾き飛ばされたようだ。
「いくらですか?」
「へっ?」
「買取価格はいくらですか? 解体費用は一割ですよね。それを差し引いていくらになりそうでしょうか?」
「コ、コカトリス!? ど、毒が……」
毒? そんなのもあるのか。
じゃあ収納。
「大きいですよね。で、どこに置きますか?」
そこに他の冒険者が。
「何考えてんだ! こんな所でコカトリスを出すなんて危ねーだろうが!」
受付の男は放心状態で何も喋らない。
「お勤めご苦労様です先輩! おっしゃる通りだと思います。ですが、あの方にここで出せと言われたもので。申し訳ありませんでした!」
間髪入れず続ける。
「ちなみに僕、今日が初討伐なんですよ。初めての獲物がこれで幸運でした。これも先輩方のご指導のお陰です。ありがとうございました!」
そう言って私は頭を下げる。角度は六十度。
「お、おう。その調子でがんばれや。」
さすがクタナツ男。物分かりがいいし寛大だ。
「で、どこに置きますか? この質問十回ぐらいしたような気がしますね。」
魔境でバジリスクやコカトリスなんて珍しくないって聞いたが。
もしかして新人の受付さんかな?
「あ、ああこちらです」
ここは解体倉庫かな。少し涼しいようだ。
「こちらにお願いします」
では改めて魔力庫から取り出す。
「いくらぐらいになりますかね? あっ、軟骨だけください。」
「金貨十〜十五枚ですね。見たところ頭しか傷がついておりませんし、新鮮殺したてのようですしね」
「僕はどうしたらいいですか? 明日出直すとか?」
「現金で受け取りたいならそうですが、ギルドカードに入金でもいいですよ」
これもファンタジーあるある。
ギルドカードが銀行のカードのように使えるのだ。説明の冊子には書いてあったが、確認しておこう。
「入金、出金の際に手数料はかかりませんよね? また税金は天引きですから基本的に私が出金する以外で残高が減ることはないですよね?」
「基本的にはそうですね。逆に残高がマイナスになりましたら月に一割の利息が付きますのでご注意ください」
「マイナスになるケースは何がありますか?」
これも知ってるけど確認は大事だ。
「多いのが依頼の未達成ですね。期日の一週間前なら罰則なしでキャンセルできますよ。しかしそれ以後のキャンセル、または失敗で依頼料がそのまま罰金となります。
他にはケンカか何かによる器物破損。
先程のテーブルは……」
「あなたの指示でしたね。」
「そうですね。私の給料引きとなるでしょう……」
同情なんかしないぞ。
ギルドの職員は高給取り、これは最早常識なんだから。
「では明日の昼頃、軟骨を受け取りに来ますね。」
私はギルドを後にして自宅へと帰るのだった。
そろそろ夕方だし母上も心配しているだろう。帰ったらまず鉄板を磨こう。
こいつにもそろそろ名前が欲しいな、鉄キューブのように。
鉄ボード、鉄畳、鉄カーペット、鉄絨毯……
アイアンボード、アイアンカーペット、フライングスティールカーペット、メタルボード……
よし、鉄ボードにしよう。
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