異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

67、四天王とキアラ

公開日時: 2021年1月18日(月) 10:17
文字数:2,994


そしてデメテの日。

午前九時ぐらいからみんなが集まり始めた。ちなみに御者達は一旦帰った。夕方にまた来るのだ。

この日のためにプールを少し改良した。

深さの違う場所で溺れないよう仕切りをつけたのだ。

もちろんキアラとセルジュ君の妹シビルちゃん用だ。この二人に泳ぎを教えるのは後、それまではマリー監視のもとで水遊びをしててもらう。


一方私達は深さ一メイルの方で泳ぎを練習する。

みんな泳ぎ方を知らないので、まずは実演、平泳ぎをやってみせる。


「さあみんな、まずは今のように手足を動かしてみよう。顔は水につけずにね。」


小学生に水泳を教えるのとは随分違う。

このメンバーは身体能力も理解力も高いので、あれこれ言うより見せた方が早いのだ。




こうして昼食までに全員顔を浮かせたまま平泳ぎができるようになった。

やはり貴族は違うね。


「いやー外で水遊びってイメージが悪かったけど、やってみると面白いよね。妹も連れてきてよかったよ。」


「そうでしょー。分かってくれるよね。つまり僕は変じゃないんだよ。」


「違うわよ。カースが変なのは変わらないわ。私達が変人の世界に入門してしまったのよ。」


「そうよね。私達もすっかり変な世界に来てしまったわよね。カース君のせいよね。」


「そっか。じゃあみんな変なんだね。古い格言に、全裸でもみんなで歩けば怖くない。ってのがあるから問題ないよね。

それはともかく、これで僕達がいきなり川とかに落とされてもそのまま死ぬ危険は減った。他にはどんな危険に備えておくべきだと思う?」


「やっぱり魔物かな? クタナツの城壁内は安全だけど外は危ないよね。」


やはりスティード君は現実的だ。


「魔法の暴発とか? 僕等はまだ子供だしね、制御が甘いこともあるよね。」


セルジュ君は時々真面目なことを言う。


「私達は貴族だから跡目とか他家との関わり?」


さすがアレックスちゃん、クタナツ最上級貴族は伊達じゃない。


「色々あるわよね。クタナツって危ない所だけど私は好きだわ。いい所だと思うし。」


サンドラちゃんはやはり淑女だなぁ。


「うんうん、色々あるよね。聞いておいて何だけど、特に意味はないんだよね。話題として聞いただけ。」


「ふふふ、何よそれー? カースらしいわね!」


「わざわざ聞いておいて意味ないって! せっかく真面目に答えたのに!」


「いや、きっと普段から危険を意識しておくことは大事なんだよ。カース君は本当はそう言いたいんだと思うよ。」


さすがスティード君! 実は私もそう思っていた気がする。きっとそうだ!


「ふっふっふ、スティード君にはバレてしまうね。そうなんだよ。説教臭くなるから言わなかったけど、普段から危険を意識しておくことは大事なことなんだよ。

世の中には水と平和がタダって言う素晴らしい国があるらしいけど、ここは違うもんね。」


「さすがカース! やはり考えてることが違うのね!」


「アレックスちゃんって将来悪い男に騙されそうで心配だわ。カース君、責任取りなさいよ。」


サンドラちゃんが何か言ってるが聞こえない。私は都合のいい耳も持っている。





昼からは妹達に泳ぎを教える予定だ。

こちらは時間がかかりそうなので、じっくりやろう。


それにしてもあれだけ拒否していたのに服を着たままだとあっさり参加してくれた。

やはり水着文化は浸透しないのだろう。

残念だ。


さらに残念なことに材質のためか服のまま水に入っても透けることはなかった。


それにしても、こうやって童心に返りみんなでする水遊びの何と楽しいことか。

いつも童心のような気もするが。いやー、楽しい一日だった。





本日はパイロの日、つまり今日も休みなのでキアラに本を読んであげようと思う。だいぶ話も進んできているし。


「キアラー、勇者ムラサキ・イチローの冒険を読んであげるぞー。」


「わーい読んで読んでー。」


「よーし、じゃあ四天王のところからな。」


『四天王のリーダーである炎のハイブリッジは言いました。

「奴は四天王の中でも最弱」

嵐のパイマインも言いました。

「勇者ごときにやられるとは四天王の恥さらしよ」

氷のテラーも言いました。

「次は俺が行くぜぇ。最近暴れてないからよぉ」

これには炎のハイブリッジも困ってしまいました。

「待て、テラーよ。いくら四天王最弱とは言え泥のティサックがやられたのだ。お前一人で行かせるわけにはいかん。パイマインと行け。私も行きたいのだが魔王様から呼ばれているのでな」

氷のテラーは言いました。

「ふん、ついてくればいいさぁ。見てるだけになるだろうがなぁ」

嵐のパイマインは言いました。

「お前まで無様を晒さないといいがな」


こうして四天王のうち二人はロックメイーカの谷で勇者を待ち受けました。

しかし、勇者は一向に現れません。

氷のテラーは痺れを切らして言いました。

「こんな場所でのこのこ待っていられるかぁ! 俺は行くからなぁ!」

そうして嵐のパイマインを残し一人で勇者を探しに行ってしまいました。

それから随分時間が経ちましたが、氷のテラーは戻ってきません。嵐のパイマインは氷のテラーを探しに行きました。

するとそこでは氷のテラーが無残に殺されていました。

氷のテラーの指先には血で字を書こうした後が見えました。しかしかすれて見えません。

嵐のパイマインは思いました。

「きっと勇者の仕業だ。ということは、次は……」

そう思っていると後ろから斬りつけられました。致命傷です。

薄れゆく意識の中で、嵐のパイマインが見た物は、派手な紫色の鎧を纏った黒髪の男でした。

そうです。勇者ムラサキです。

のこのこと自分を探しにきた氷のテラーを後ろから斬った勇者ムラサキは、氷のテラーの死体を囮にして他の四天王もやっつけようと考えたのです。

そして見事に四天王を二人もやっつけることができました。

残る四天王は一人。

勇者ムラサキの冒険はこれからだ。』


今日のキアラは中々寝なかった。

こんなに長く読むことになるとは。

でもこれからが面白い所なのだ。




さあ今からは自分の時間だ。

特訓をしよう。

金操きんくり風操かざくりで重量物を浮かせるのだ。

容積が一メイル四方の風呂を用意し、その中に水を溜める。見た感じニトン近くありそうだ。

一応循環阻害の首輪も外した、大した変わりはないが。


これをまずは丁寧に詠唱した金操で浮かせる。

浮くことは浮いたが……

わずか一メイルも浮かない。このまま風操を併用すると……

かなり楽になった。

同じ重さの物を浮かせるのにこんなに違うとは。しかし埃がひどく、目が開けにくい。

もっと高く上げよう。そしたら埃も散らなくなる。

そして十メイルまで上昇させ、そこでキープ。これ以上高くすると外から見えてしまうからな。

このまま魔力が切れるまで頑張ってみようと思ったが、風操しか使ってないのでしばらく切れないだろう。なのでこの風呂に隠形おんぎょうを使ってみる。何か変化はあるのだろうか?


何も変化はない。第三者から見てもらわないと分からないな。


それにしても我ながら素晴らしい魔力だ。

あれだけもの重量を浮かせるだなんて。

これって対人戦なら相手が金属製の武器や防具を持ってたら一瞬で勝てるよな?

高く飛ばすなり、鎧を変形させるなり、自らの剣で突き刺させるなりどうにでもできそうだ。


そんな物騒なことはともかく、金操のみで楽々と浮かせることができるような魔力があれば空中露天風呂を堪能できるだろう。

現在の魔力ではまだ楽々とはいかないので、やめておく。まだまだ地道に修行をしよう。

私の冒険はこれからだ。

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