海から帰った翌日、昼前にいつものタエ・アンティに集まった。
こんなお洒落な店で出すのは気が引けたがみんなにお土産を渡すのだ。
「昨日海に行ったからお土産があるよ。素早く収納してね。」
そう言って小分けにした魚とホウアワビをテーブルに並べる。
「さらっと言ってるけど海? どこまで行ってるのよ?」
サンドラちゃんは言葉ほど驚いているようには見えないな。
「まさか、ついに飛べるようになったとか?」
さすがスティード君鋭い!
「じゃあ僕も乗りたいな。」
セルジュ君はいつも通りだ。
「私それ聞いてないわよ!? 」
確かに昨日アレクには海に行ったとしか言ってなかったな。
「海は東の方だよ。飛んで行ったの。長距離は無理だけど少しなら乗せてあげられるよ。思ったより近かったよ。」
「じゃあオースター海ね。あっちの海は比較的魔物が少ないって聞いてるけどどうだった?」
やはりサンドラちゃんは物知りだな。
「今回はいなかったよ。泳いでみたいとは思ったけど、怖いからやめたよ。」
「海の中は魔法が使いにくいって聞くよね。そうそう海に落ちることもないけど。」
セルジュ君も意外な知識を見せてくれるな。
「じゃあ早速飛ぶところを見たいな。今からどうかな?」
スティード君にしてはグイグイ来るね。
「いいよ。このメンバーだったら外に行っても問題ないよね。まあ城門周辺だけどね。」
しばらくお茶を楽しんでから外に出かけることになった。私以外みんな馬車で来ているので、一台にまとまって行くことになり、当然一番大きいアレクサンドル家の馬車に決まった。
「みんなと同じ馬車に乗るなんて初めてだわ。何だか楽しいわね。」
アレクがウキウキしている。
普段はみんな自家の馬車にそれぞれ乗るもんな。私も楽しい。酔わなければいいのだが……
城門をスルッと通り抜けて、そのまま北に向かう。およそ一キロル地点で停車してもらった。
「じゃあ最初は実験ってことでこれを飛ばしてみるね。」
そう言って私は鉄ボードと鉄キューブを取り出す。
「普段はこの鉄の板に乗ってるんだけど、こっちの塊は練習用なんだ。すごく重いんだよね。」
みんなが横から動かそうとするがビクともしない。もう百どころか百五十キロムはありそうだ。
浮身を使いゆっくり持ち上げてみる。
やはり重い! もし金操を使おうものなら一時間と保たないな。
「すごい! こんな重いのが浮いてる! やっぱりカース君はすごいよ!」
スティード君が興奮している。
なぜかアレクがドヤ顔をしている。
このまま上空まで持ち上げてあちこち動かしてみる。やはり体から離れると魔力の消費がすごい。乗ったままの方が楽だな。
五分ほど飛ばして元に戻す。
「こんな感じで飛ぶよ。三人は難しいけど二人なら乗れるよ。じゃあ最初は誰から……」
「アレックスちゃんからに決まってるじゃない。カース君はだめだなー。」
セルジュ君に言われてしまった。
確かにその通り。
「あはは、そうだよね。じゃあアレクこっちに乗って。」
私の隣に座らせる。この前実感したことだが、二人で乗ると重心が分散して余計に魔力を消費してしまう。だからなるべく中心に近寄った方がいいのだが、照れるので少し離れて座ってもらった。
「普段は周りに風壁を張るんだけど今日はなしね。風を感じようよ。持つ所がないから落ちないように気をつけてね。」
そう言って私はアレクに手を差し出す。
上空に上がってしまえば誰も見てない。
アレクは恥ずかしそうにその手を取る。
この際だ、行けるだけ上昇してみよう。
ちなみに現在は地上から二百メイルぐらいかな。あんまり高速で上がると耳がおかしくなりそうなのでゆっくりだ。
「こんな時、昔の人は『人がゴミのようだ』って言ったらしいよ。」
使い方は違うが言いたくなったのだから仕方ない。
「そうね。サンドラちゃん達が小さ過ぎて見えないわね。こんなに高くて怖いのに……どこか高揚するわ。きっとカース以外の誰にもできない……私……すごい男の子を好きになってしまったのね。」
「アレクは本当に可愛いな。よしよし。」
すっかりお馴染みになった頭撫で撫で。
こんなのでもウットリした顔をしてくれる。
どのぐらい高度を上げたのだろう。
親指と人差し指で作った輪っかにクタナツがすっぽり入る。
魔力には余裕があるが、そろそろ降りようかな。上空は意外と風が強い。
「ただいま。次は誰にする?」
「次は私よ。よろしくね。」
サンドラちゃんか。どうやって決めたのかな?
その次はスティード君、最後はセルジュ君だった。
みんな喜んでくれたようで何よりだ。
春休みは残り半分もない。
無尽流に入って体を鍛えて、魔力をこのままガンガン増やして、ある程度の金を貸し付ければ残りの人生全て休みだ。
できれば二十歳までにそうしたいものだ。
働かない人生を目指して私はこれからも頑張るぞ。
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