ここはクタナツとグリードグラス草原の中間辺りに作られつつある街、バランタウン。
魔境攻略の最前線。街と言うよりは出城、砦だ。
すでにクタナツからここまでは石畳の道が敷かれている。そしてこの街にも石畳が敷かれ簡単な城壁も築かれている。
宿泊所、食事処、武器屋、防具屋、薬屋……
今こそ商機と見た商人も多数いる。簡易ギルド出張所もあり、騎士団詰所もある。
そして代官もここ数週間ずっとこの地で指揮を執り続けている。
そしてようやくグリードグラス草原に拠点を建築する目処が立ち、例の無草エリアへの石畳敷設が始まったのだ。
幅二十メイルの道をグリードグラス草原に開通させる目論見である。それさえ終われば草原中央にクタナツ並みの城壁を作り、その後街を作ることができる。大事業である。
ここには騎士団、冒険者、魔法使い、職人、商人。
あらゆる種類の人間が集結している。
騎士団は近寄る魔物の討伐。
冒険者は資材運搬やその警護。
魔法使いは魔力庫による資材運搬や建築補助。
職人は建築や敷設。
商人は資材や食糧などの手配。
大まかにはこのように役割が分担されておりスムーズに回っていた。
それでも問題がないわけではない。
冒険者は報酬を求め、商人は利益を求める。
そして盗賊は全てを奪う。
「おい聞いたかよ。『イクストリーム』の奴らが全滅したってよ!」
「マジかよ! ヤバいな!」
「おお、聞いたぜ。護衛していた商人の荷を全部奪われた上に皆殺しらしいな」
「リーダーのライダルは五等星で他のメンバーも六等星、それを皆殺しかよ」
「この辺りに盗賊なんてまず出んもんな。油断したんだろうよ」
「それを差し引いてもヤバいぜ。注意しとこうぜ」
「盗賊とは限らんぜ。同業者ってこともあるんだからよ。油断するんじゃねーぞ」
「マジかよ! ヤバいな!」
「まあ何にしても運搬は共同で行うべきだな」
しかし被害は止まらない。
他を出し抜こうとする商人が、クタナツに戻る冒険者が、バランタウンに向かう職人が、無差別に標的にされた。
それどころか他の街からクタナツに移動する商人すら標的にされ、物流が著しく滞りつつあった。
なお、正確には皆殺しではない。
死体は放置されているが、女性の死体は発見されていない場合もあった。
相手が盗賊であることを考えれば当然と言えるだろう。
彼らは怒っていた。
被害の大きさには勿論だが、盗賊風情に舐められていることにだ。
クタナツの冒険者達は一丸となり、盗賊討伐の決意を新たにしていた。
父上が久々に帰ってきたと思ったら早々に愚痴っている。
「参ったわ。タチの悪い盗賊がいてな。どうも情報が筒抜けみたいなんだよな。」
「大変そうね。この近辺で盗賊なんてそうそう出ないものね。魔物ばかり警戒していた心の隙を狙われたのかしら。」
「ああ、そうだろう。盗賊にも頭がいい奴がいるものだな。」
「頭がいい……昔どこかの貴族領を荒らし回った盗賊でそんなのがいなかったかしら?」
母上も盗賊事情は詳しいのかな?
「……いたな。あれはビーンシュトック伯爵領だったか。あの時はついに捕まらなかったんだったな。当時は盗賊ごときを捕まえられない騎士団はどんだけ無能かと思ったものだが、他人事じゃないな。」
「案外その盗賊がここぞとばかりにクタナツを狙ってるのかもね。そうなると厄介ね。それだけ頭がいいんだったら騎士団が本腰入れる前に逃げてしまうんじゃない? もうそこそこ稼いだ頃じゃない?」
「ありえるな。被害額は分かってるだけで金貨五千枚分ってとこだ。現金だけなら金貨二千枚ぐらいか。私が頭ならもう逃亡してるだろうな。」
私は黙って聞いているつもりだったが、気になったので聞いてみた。
「普通の盗賊って現金以外はどうするの? どこかで換金するものなの?」
「そうだな。武器の類はそのまま使ったりもするが、馬や馬車、女なんかは売り飛ばすな。男も違法奴隷として売り飛ばす場合もあるが今回は皆殺しにされてるからな。」
「そんなのどこで売るの?」
「俗に言う闇商人や闇ギルドってとこだな。大抵の街にはあるんだが、クタナツにはスラムすらないからな。」
ほぅ、闇商人に闇ギルドか。危険な匂いがするね。
「へぇー、じゃあここから一番近いとこだとどこにあるの?」
「そりゃあ領都だな、ホユミチカにも居なくはないが小悪党だしな。盗賊と取引するクラスの悪党は領都ぐらいでないとな。」
「なるほど。その辺に顔が効く冒険者っていないの?」
「ふむ、冒険者か……契約魔法をくぐり抜けられるほど魔力が高く、尚且つ荒らくれた雰囲気を持つ冒険者なら……」
ん? 契約魔法だと?
「契約魔法がどう関係するの?」
「ああ、あんな奴らはな初見の人間を決して信用しないんだ。だから契約魔法でガチガチに縛るのさ。そこまでやってようやく会話ができるってわけだ。まあイザベルぐらいなら魔力に任せて契約魔法を破ったり無効にしたりできるがな。」
「そんなすごい冒険者っているの?」
「知らんなー。イザベル並みの魔法使いなんてそうそういるわけないしな。あー困った困った。」
ここは私が一肌脱ぐ! なんてつもりはない。
そんな恐ろしい悪党と関わるなんてとんでもない。
クタナツは悪党のいない平和な街だが、こんな時には後手に回るもんだな。
私も一人で外を出歩くことが増えたので気をつけよう。
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