異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

4、カース、教会デビューする

公開日時: 2020年11月19日(木) 13:08
文字数:3,529

お爺さん神官の挨拶が始まる。


「皆さんようこそお越しいただきました。二歳という人生最初の節目を当教会で迎えられることを嬉しく思います。私はローランド神教会、クタナツ寺院の神官長ネイチェルと申します。

では、早速『ヴィルーダ様の祝福』の儀を始めましょう。さあ子供達は立ち上がって、手を胸の前で合わせましょう。」


挨拶が短いのはありがたい。手を合わせるとは、いわゆる合掌だ。ここではこれが普通なのだろう。


「さあ、そのまま目を閉じて。祈りの言葉を唱えましょう。私の後に続いて声を出してくださいね。そして神の声を聞くのです。」


『ガンニーシー クードーク

ビョードーセー イッサーク

ドーホーツー ボーダーク

オージョーアン ラーク』


すごい……

初めて聞いた言葉なのにするりと頭に入ってくる。そしてすんなりと口に出すことができる。他の子供達も同じようだ。




そのまま祈りの言葉を繰り返すこと約五分。


「うわー聞こえた!」

「すごい! 神様だー」

「しゅくふくだって! やったー!」

「やさしそうな声だったね!」


お、おかしい……

私には聞こえない……


目を閉じたまま姿勢を保つ。どんな祝福かは知らないが、貰えるものは欲しい。これはもしかして、かなやにカス教師と言われたことに関係するのか? くそぅ、悔しいな。


「さあ、みなさん。目を開けていいですよ。だいたい毎年五名程度が祝福を貰えています。今年は四名ですね。ただし貰えなかったからと言って悔やんではいけません。祈りの言葉を思い出すのです。

毎日唱えることで、ある日突然祝福を得ることは多々あります。なぜならみなさんはすでに神々の子だからです。これからも神を畏れ敬い、親孝行をし、友達を大事にするのです。そして学問、剣術、魔法など打ち込めるものを見つけて立派な人間になるのです。

悩める時はまたここに来て、神の声を聞いてみましょう。きっと道が開けるはずです。」


おお、まともなことを言っている。

これが『徳』が高いということなのか。素直に聞きたくなるし、その通りにしようと思える。

よし、今日から頑張ろう。魔法は楽器と同じって話だし、早く始めるに越した事はないだろう。帰ったら母に頼んでみよう。


「さあカースちゃん、帰りましょうね。マリーも待っているわ。」


「あらイザベル様、もうお帰りですか? どこかでお茶でもどうかと思いましてお声かけしてみましたの。」


「まぁシメーヌ様、嬉しいわ。それはいいですわね。この辺りでお茶でしたら二番街の『タエ・アンティ』なんていかがかしら。ケーキも美味しいお店ですし。」


「やっぱりイザベル様とは気が合いますわ。私もそこ大好きですの。早速行きましょう!」


そこに何人かの親子連れが集まってきた。


「私達もご一緒してもいいかしら? みんなで行きましょうよ。」


たぶん父の同僚の家族だろう。結局四家族八人で向かうことになった。馬車は別々、御者は人数にカウントしていない。


店内では、ムリス家の長女サンドラとメイヨール家の三男スティードが合流し子供同士で甘いものを食べながらおしゃべりに興じている。


「私は学問をがんばるんだよー」


ムリス家のサンドラは言う。くりくりした目に輝く金髪が印象的な女の子だ。


「ぼくは剣術かな。やっぱり騎士になりたいよねー。かっこいいよねー」


メイヨール家のスティードは騎士になりたいらしい。伏し目がちだが意志の強そうな眼差しをした男の子だ。


「それよりみんなでゴースト|退治《ハント》しようよ。ぜったいおもしろそう!」


セルジュ……


「ぼくはまだわからないや、二人ともすごいんだね! 狼ごっこは騎士になるための体力をつけるのにいいんだよ。みんなでやろうよ。ゴースト退治も!」


こうして私達は友達となった。これで楽しく遊べそうだ。再会を約束してそれぞれの家路についた。


そう言えば、祝福ってどんな効果があるのだろう。説明してくれなかったな。

個別に説明したのだろうか。これも帰ったら聞いてみなければ。




「ははうえー まほうって何ー? しゅくふくって何ー?」


「あらあらカースちゃんたら、もう魔法に興味があるのね。えらいわ。魔法はね、火をつけたり水を溜めたり、暑い時は風を吹かせたり、とっても便利なの。

例えばさっきの教会なんかは石でできていたでしょ? あれは魔法で石を削ってから組み合わせてるのよ。木は魔法でなくても削れるけど、硬い石は魔法でないと難しいのよ。カースちゃんはどんな魔法を使いたい?」


「えーわかんない、鳥さんみたいに空をとびたいかもー」


「まあすごい! 空を飛ぶのはとても難しいのよ。それなのに飛びたいだなんて、さすがカースちゃん! えらいわね! だったらたくさん頑張らないといけないわ。頑張れるかしら?」


「うん! がんばる! やりたーい!」


「よーし、そうと決まればまずは読み書きから始めるわよ。たまにウリエンから本を読んでもらってたわよね? 少しぐらい読める?」


「わかんなーい、あにうえが読んでくれた本なら読めるかもー」


そう言って私は本を指差す。タイトルは『勇者ムラサキ・イチローの冒険』

よくある勧善懲悪物だ。


どこか遠くからやってきた勇者が冒険をして魔王を倒しお姫様と結婚する、王道ストーリーだ。子供向けかと思ったら時々ダークだったり卑怯だったりして楽しめた。

魔王を倒すために側近の子供を人質に取ったり、四天王最強の男を倒すために毒を盛ったり。女を利用したりもしてたな。エゲツない男だぜ、勇者は。

なのに悪いドラゴンを倒すのは正面から正々堂々とだった。訳が分からない。そんな破天荒な所が人気の理由かも知れない。

もう十回は読んでもらった。ウリエンもいい加減うんざりしているはずだ。


「さすがカースちゃん! じゃあ私に読んでみてくれる? カースちゃんが読むお話が聞きたいわ。」


「わかったー 読むねー」


『昔々あるところに、オジーさんとオーバさんがいました。

オジーさんは山にシヴァ狩りに、オーバさんは川に沐浴しに行きました。

すると川上から魔法陣を刻まれた大きな桃色の球体がどんぶらこ〜どんぶらこ〜と流れてくるではありませんか。

オーバさんは訝しみ球に触れることなく魔法の詠唱を始めました。』


「すごいわカースちゃん! もうそんなに読めるのね! ウリエンにたくさん読んでもらったのね。二人ともえらいわ。お母さんは嬉しいわ。

じゃあ次は文字を書いてみましょうね。今読んだ所を書いてみてくれる? ゆっくりと、丁寧に書くのよ。」


「はーい」


むかしむかしあるところにおじーさんとおーばさんが……………


「わぁすごい! もうこんなに書けるのね! さすがにギリギリ読める程度の字だけどすごいわ! きっとカースちゃんは天才なんだわ!」


前々から親バカっぷりがすごいと思っていたが、やはり間違いないようだ。

褒められるのは嬉しいからいいんだが、勘違いして増長しないよう気をつけねば。


ちなみに文字は日本語とは違うが、文法はほぼ同じだ。

だから書くのは難しくても読解は簡単だ。

漢字にあたる文字はまだほとんど覚えてないが、文脈から意味だけ判断すればよいって寸法だ。


魔法を勉強したいと言ったら文字の勉強が始まった。これは魔法は文字と密接な関係があるためらしい。

たぶん楽器に例えると、楽譜を読むために必要な技能、知識なのだろう。ということは、楽譜が読めなくても耳コピすれば魔法は使えるのだろうか?

まあそのうち分かるだろう。


個人魔法が使えることは誰にもバレていない。そもそも使ってないし、当分使うこともないだろう。早めに使って慣らしておきたいが、そうもいかないので、しばらく死蔵だな。

まずは普通の魔法が使えるようになってからだろう。小さいうちから使っておけば魔力の総量が増えるのもファンタジーのお約束だが、ここでもそれは常識の範囲らしい。


貴族階級はやはり小さい頃から魔法の習得を始める。特に上級貴族や王族は半ばスパルタで魔法教育を行うらしい。

私達のような下級貴族は家庭によるようだ。

騎士を目指すのか、官僚を目指すのか、はたまた商人になるか冒険者になるか。それ次第で教育の方向性が違うからだ。


それが平民だと、両親が教えることができる場合は早めに始めるようだが、そうでない場合は学校に入るまでは何もしない。


そもそも普通は学校に入ってから文字を覚え、それから魔法の習得を開始するものだ。

だから慌てる必要はないと考えるものらしい。普通に考えたらそれじゃあ遅いんだがな……幼少期の教育が一生を左右するのは前世では常識だったが。ここではどうなんだろうか。

九九が言えない小六、引き算ができない小五。そんな奴らは決まって「算数なんか将来の役に立たない」なんて言う。だから見捨てられるんだよ。生きるゴミどもが……


私は今生でもそうはならない。明日からは魔法を頑張ろう!

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